コロナウィルス感染症の蔓延によって、こころの不調をきたした方はたくさんいらっしゃいました。仕事を失い経済的な打撃を受けた方、感染症の後遺症に悩まされている方、急激な生活の変化に不安が膨らんだ方…。憂うつな気持ちに沈む方を支えた方もいらっしゃることでしょう。
まずは、この記事をお読みの皆様が、コロナ禍という歴史に残る大転換期に苦しみながらも、なんとかここまで生き延びたという事実をこころから称えたいと思います。本当によくぞ生き延びてくださいました。
私は、お困りの方々に寄り添い支えるボランティア活動に定期的に加わっています。そんな中で、こころの不調に寄り添う活動もしてまいりました。一般的に「こころの不調」という言葉を用いると、「うつ病」「心身症」「適応障害」などが該当する病名として想像されることが多いでしょう。そして、これら3つの症状の中でも、とりわけよく見聞きするのが「うつ病」ではないかと考えています。
さて、この「うつ病」とよく似た名前の病気に「躁うつ病」があります。医学的には「双極性障害」と呼ばれています。では、「双極性障害」って一体どんな病気なのでしょうか?
今回は、双極性障害について確かな知識を得ることが出来る一冊をご紹介します。講談社より発刊されている健康ライブラリーイラスト版シリーズの『新版 双極性障害のことがよくわかる本』です。
双極性障害において誤解されがちな点やよくある症例、治療法などについて、イラスト付きで平易な言葉で書かれています。大変分かりやすい入門書ですので、興味が湧いた方は是非お手にとってみてくださいね。
こんな方にオススメ
- うつ病と双極性障害(躁うつ病)の違いを学びたい
- 双極性障害と診断された
- 双極性障害と診断された家族・知人を理解したい
双極性障害とは?
本書によれば、双極性障害の方には以下の症状が現れます。
双極性障害の「双極」というのは、「二つの極端な状態にぶれる」という意味。気分爽快、元気いっぱい、意欲満々の躁状態と、憂うつ、意欲がない、おっくうで仕方がないうつ状態という正反対の状態をくり返す、心の病気です。
引用元:野村総一郎(監修)『新版 双極性障害のことがよくわかる本』(講談社)
以前は、うつ病も双極性障害の一種と考えられていました。実際、私が学生時代に精神医学の勉強をしたときには、「うつ病は双極性障害の一部である」と学びました。
しかし、DSM-5(米国精神医学会の診断基準:Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)以降、双極性障害とうつ病はまったく別の病気だとされています。近代においても病気の定義が更新されていくということは、精神医学の領域ではまだまだ研究途上の部分があるということなのでしょうね。
まずはチェックリストで知識の誤りを確認
本書冒頭には、読み手の双極性障害に対する理解度をはかるチェックリストが載っています。たとえば、次のとおりです。
○か×かでお答えください。
□ 躁とうつを同時に発症することがある
□ うつ病の薬と双極性のうつ状態の薬は同じ
□ 双極性障害では、うつ状態と躁状態が毎日入れ替わる
答えはこちらです。
○ 躁とうつを同時に発症することがある
× うつ病の薬と双極性のうつ状態の薬は同じ
× 双極性障害では、うつ状態と躁状態が毎日入れ替わる
全部で8問載っています。私は正答率がとても低く…理解不足であることを痛感させられました。現時点の理解度を把握することから始める構成は、読み手の理解が弱い点を露わにしてくれますし、読み進めるなかで登場する新知識への理解を深める助けになってくれること間違いなしです。
パーソナリティ障害と似ている双極性障害Ⅱ型
双極性障害は大きく分けてⅠ型とⅡ型があるようです。
双極性障害Ⅰ型:躁状態もうつ状態もはっきりしている
双極性障害Ⅱ型:うつ状態はⅠ型と同じだが躁状態の部分がⅠ型よりも軽い(軽躁)
意外と厄介なのがⅡ型の軽躁状態でして、こちらはⅠ型のように極端には現れないがために、その人の性格や個性としてみなされてしまうこともあるようです。そして、本人も周囲も病気と思わずに見逃してしまうということも。
かつ、他人を振り回すような言動を取りがちなパーソナリティ障害と診断されるケースも多いようで、医療に結びついていない双極性障害の患者さんがかなりたくさんいると推定されています。
軽躁とパーソナリティ障害との境目はみえにくく、軽躁と絶好調との区別もつきにくいため、Ⅱ型の患者さんは統計上の数字よりも多いと考えられています。
引用元:野村総一郎(監修)『新版 双極性障害のことがよくわかる本』(講談社)
なお、Ⅱ型はⅠ型よりも自殺率が高いとのこと。元気はつらつとして行動的な方が重いうつ状態に陥った場合は、周囲の方が双極性障害Ⅱ型を疑ってみることが必要でしょう。
治療薬はいつまで飲み続ける?
双極性障害は再発率が高いため、症状が落ち着いたあとも最低1年程度は薬を飲み続けることが推奨されているようです。なかでも、以下4点に該当する方はさらに長く飲み続ける必要があるとのこと。
① 重症の躁が1度でもあった
② 2回以上の躁があった
③ 重症のうつをくり返している
④ 家族歴がある
①~③については症状の出現状況に基づく判断ですが、④は「家族歴」と遺伝の影響を感じさせます。一部の病気については、家族に同じ病気の方がいるかどうかが重要な指標になるということですね。
別の病気ですが、統合失調症も遺伝の影響が示唆されています。以前、機会があり統合失調症のAさんにお話を伺う機会がありました。Aさんがいうには、お母様も幻覚・幻聴などといった統合失調症の症状を複数お持ちだということでした。
Aさんは、統合失調症のお薬を一生飲むように言われたようです。しかし、そのお顔に悲観的な表情は見られず、むしろ「疲れているときには幻聴が現れるから、無理しない生活を心がけている。それに、薬があるから安心」と快活な笑顔を見せておられました。
本書にも、次の記述があります。薬とうまくつき合っていくことが大事、ということですね。
薬をやめるときには、血液中の濃度を確認しながら、量を徐々に減らします。急激にやめると再発の危険があるためです。
引用元:野村総一郎(監修)『新版 双極性障害のことがよくわかる本』(講談社)
双極性障害は再発が多い病気です。少しでも予兆を感じたら薬を飲みましょう。
たとえ「一生薬を飲むこと」といわれても、毎日飲むわけではなく、病気とつきあいながら飲んでいくのです。「薬さえ飲んでいれば一生こまらない」と、考え方を変えることをおすすめします。
関連書籍
- 野村総一郎(監修)『新版 入門うつ病のことがよくわかる本』(講談社):こちらは、ご紹介した本と同じく野村総一郎氏が監修したうつ病の入門書です。イラスト図解が理解を助けます。
- 加藤忠史(監修)『双極性障害(躁うつ病)の人の気持ちを考える本』(講談社):双極性障害の当事者の方や家族の方の、苦しみと感情の動きへの理解を深める一冊です。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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