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【書評】脳科学の知見から考える美醜格差、同性愛、不倫。「空気を読む脳」を読む

【書評】中野信子『空気を読む脳』(講談社) 書評

今回ご紹介するのは、
 「容姿が美しい人は成功するのか?
 「不倫に対するバッシングってどんどん加熱してない?
などなど、日常のさまざまな疑問を脳科学の知見から探る一冊です。

本書は、脳科学者として著名な中野信子氏が、Webメディア「現代ビジネス」で2018年4月から約半年間に亘って連載した「日本人の脳に迫る」というコラムを加筆修正し、出版されました。

語りかけるような文章で書かれていますので、読書に不慣れな方でも読みやすいことと思います。それでは、内容の一部を一緒に見ていきましょう!

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こんな方にオススメ

  • 脳科学の知見から人間理解を深めたい方
  • 容姿の美醜が人生にどのような影響を与えるのか興味のある方
  • 同性愛者に対して、脳科学の研究結果を知りたい方
  • 最近、芸能人に対する不倫バッシングが厳しくなってきたと感じている方

外見で得をするのは男性だけ!?女性は損する

容姿が美しい人は成功者になる…そんな考えをお持ちの方は多いのではないでしょうか?

しかし、中野氏によると、実は複数の研究が「女性では容姿の良さがマイナスに働き、美人は平均的な女性よりも損をしてしまうことがある」と報告しているそうなのです。

 外見が良いことで性的類型化が起こりやすくなります。このことは男性では有利に働きます。外見の良い男性では性的類型化が起これば「男性的」に見られるのです。すなわち、力強く、職務遂行能力が高く、決断力がある、などとみなされるので、仕事上の評価には外見の良さが有利に働きます。
 一方、女性はそうではありません。「女性的」であることは少なからず消極的であり、堂々としておらず、意欲や決断力に欠け、セクシーすぎる、と偏見を持たれてしまいます。あるいは、そうであるべきだという暗黙の圧力が、異性からばかりでなく同性からも加えられます。
 そのステレオタイプに当てはまらない、容姿に優れた女性がいたとすると、周りから「性格が悪い」だの「結婚しない」だの「子どもをつくらない」だのと攻撃され、いつの間にかステレオタイプ的に振る舞うように社会が彼女を「洗脳」していくのです。

引用元:中野信子『空気を読む脳』(講談社)
わたし
わたし

男性では「男性的」であればあるほどプラスの評価を得られる一方、

女性では「女性的」であればあるほどマイナスの評価を受けてしまうとは…。

女性の私は美人さんに生まれなくて良かった、というべきなのかしら??

自分の学生時代を思い返してみれば、美人で成績も良く自分の意見をしっかり持っている同級生は、軒並み「性格が悪い」という噂がいつもどこかで囁かれていたように思います。

そして、一緒に思い出されるのは、いわゆるモテる女の子は「美人」というよりは「女性的」な気遣いのできる女の子だったな~ということ。一方、学年で一番人気のある男の子は、顔が整っていて運動能力も高く、成績が良い男の子でした。

今の時代はまた違うのかもしれませんが、昭和生まれの方には共感していただけるのではないでしょうか?

多くの少女マンガが「特にこれといって取り柄の無い平凡な女の子」と「リッチでイケメン、頭のいい男の子」との恋愛を見守るストーリー展開だったのは、無視できない事実ですよね。

同性愛者男性の親族がいる場合、親族女性の子どもの数は多い

かつて、日本の国会議員により「同姓愛者は生産性が無い」という発言があり、世間から強い非難を受けたことがありました。私自身、人を「生産性」という基準で測ることにはやや抵抗がありますが、あえてこの表現を使用して以下記述させていただきます。

なんと、本書で紹介されている、この「生産性」に近い観点での結果報告は大変興味深いものでした。

 イタリアのカンペリオ=キアーニらの研究グループは、同姓愛者男性の女性の親戚は、ストレート男性の女性の親戚の1.3倍の子どもがいることを示しました。
 この研究は、ダーウィン的なパラダイムにおいては一見不合理となる同性愛の意義について再考を促すものとなっています。つまりデータは、同性愛遺伝子を持っているほうがより”生産性”が高い可能性を示唆しているのです。
 この遺伝子が認知上どのような働きをしているのかはまだ明らかではありません。ただ、この遺伝子が、同性愛者の親族である女性が性的により早熟となり、より多くの子どもを持つ傾向を促すものであったとすれば筋は通ります。

引用元:中野信子『空気を読む脳』(講談社)

なお、本書では他にもこんな研究が報告されています。

昆虫において同性愛傾向を持つ個体の割合を高めたところ、このグループ内では異性の繁殖力が高かった、という研究です。つまり、われわれ人間だけでなく昆虫においても同性愛の遺伝子を持っている方が、「生産性」が高いということができるでしょう。

これまで性的指向に関する「生産性」の議論において、一般に広く信じられてきたのは次のような理屈でしょう。

生殖を行うことができるのは男女のペアだけである。
異性愛者は子どもを生むことができるという点で「生産性」が高い。
一方、同性愛者はその機会を持たないので「生産性」が低い。

先に述べた研究結果からは、まだ私たちの出会っていない真実が隠されているようなロマンを感じてしまいます。さらなる研究報告に期待しましょう。

なぜ不倫バッシングが過熱するのか

最後に、週刊誌やワイドショーでたびたび取り上げられる著名人のスキャンダル、不倫について、なぜそのバッシングがどんどん過熱するのか、ということを考えていきましょう。

コストを負担せずに共同体のリソースの「おいしいところどり」をする者のことを、フリーライダーと呼びます。本書によれば、社会性が大きく発達した生物である人類には、このフリーライダーを検出し排除する機能がほかの生物よりも強力に組み込まれているというのです。

 利己的な振る舞いをしている人がいると、いつも以上にバッシングされやすくなるーーその格好の対象のひとつが「不倫」です。

引用元:中野信子『空気を読む脳』(講談社)

一時期は、生活保護の不正受給に対する厳しいバッシングも社会問題化していました。こうしたバッシングの加熱は、共同体みんなが共有しているリソースを不正に「おいしいところどり」しているという世間の認識がもたらしたといえます。不倫をした人についても、社会規範から外れているという点でフリーライダーと言うことができるでしょう。

 ただし、バッシングにもコストがかかります。たとえばバッシングしたり抗議の電話をかけたりするのには、それなりに労力も時間も必要です。また、相手によっては名誉毀損だと訴えられてしまう場合もありますし、リベンジされるリスクもあります。
 ですが、不倫バッシングを「楽しむ」側にとっては、そのコストを支払ってでも、バッシングによって得られる快感ーー相手がみじめな姿をさらすことでほっとしたり、胸のすくような思いをしたりするーーを手放せないわけです。
 また、不倫バッシングは、自分が「正義」の側にいることを確認する行為でもあります。これにより、脳はさらなる報酬を得ることができるのです。

引用元:中野信子『空気を読む脳』(講談社)

バッシングをする側が共通して持っている前提事項は、「自分は正義の側にいる」ということです。

不正をただすという正義感に燃えた結果、コロナ禍の自粛警察が生まれたり、インターネット上の特定班が活動する根拠になるのかもしれません。

しかし、実は…不倫に限っていえば、人口の約半数の人が不倫遺伝子なるものを持っているという報告があるのです!

 実は最新の研究によって、ある特定の遺伝子の特殊な変異体を持つ人は、それを持たない人に比べて、不倫率や離婚率、未婚率が高いことがわかってきました。
 その遺伝子を持つ人は、性的な行動だけでなく一般的な行動においても違いがあり、たとえば「他者に対する親切な行動」の頻度が低いこともわかっています。これが「不倫遺伝子」の正体ではないか、とも言われています。
 それらは気の遠くなるような進化をくぐり抜けてきている一方で、私たちの倫理的価値観は、宗教的観念の発達によって、わずか数百年のうちに急激に変化したものにすぎません。
 人口のおよそ50%はこの「不倫遺伝子」を持っているとの報告もあります。なんと、2人に1人は不倫型というわけです。

引用元:中野信子『空気を読む脳』(講談社)

以上の結果をふまえると、「なぜ不倫バッシングが繰り返されるのか」という疑問には、次のように結論づけられるでしょう。

約半数の人が不倫型の遺伝子を持つと考えられるため、不倫はそれほど希有なこととは言えない。
しかし、不倫は社会規範から外れた行為である。
よって、その事実を非難する者は正義の鉄槌を下そうと糾弾する。
そして、糾弾することそのものに快楽を感じてやめることができない。

関連書籍

  • 前野ウルド浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社):『空気を読む脳』では、バッタの蝗害発生にセロトニン濃度が関連しているとの記述があります。セロトニンは幸福ホルモンとして有名ですが、昆虫にもこんな影響を与えているのですね。こちらの本はモーリタリアに移りバッタの研究を行う前野氏のエッセイです。表紙からも想像できるとおり、中身はめちゃおもしろいです!

  • 中野信子『不倫』(文藝春秋):中野信子氏が不倫をテーマに書いた一冊。脳科学の知見から検証してゆきます。『空気を読む脳』を読んで不倫に纏わるテーマに関心を持った方は、是非お読みください。

  • 杉山崇『ウルトラ不倫学』(主婦の友社):心理学の知見から不倫の不思議を知りたい方はこちらをどうぞ。臨床心理士が分析してゆきます。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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