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【書評】ジャーナリズムとメディアの在り方を考える!「科学報道の真相」を読む

【書評】瀬川至朗『科学報道の真相 ジャーナリズムとマスメディア共同体』(筑摩書房) 書評

近年、医大の入試に絡んだ報道が目立ち、様々な議論を呼んでおります。課題は一つではなく、複数の歪みが存在するがゆえの問題と推察しますが、引き続き議論を見守ってゆきたいところです。

さて、今回は医学も関係する”科学報道がかかえる問題”に焦点をあてて分析した一冊です。

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分析のための題材

本書では

  1. STAP細胞問題
  2. 福島第一原発事故
  3. 地球温暖化問題

の3つの事例を題材として、マスメディアの在り方に迫ってゆきます。

なお、これらの報道を担当する科学部の存在について初耳の方も多いと思います。科学部とはこんなところだそう。

新聞社の編集局のなかでは、科学部(毎日新聞の場合は科学環境部)は歴史が浅く、政治部や社会部などと比べて小世帯であり、部員の数も少ない。

引用元:瀬川至朗『科学報道の真相 ジャーナリズムとマスメディア共同体』(筑摩書房)

福島第一原発事故報道の分析が素晴らしい!

本書では前述した3つの題材のうち、福島第一原発事故に対する報道の分析が群を抜いて優れています。検証の主題はこちら。もちろん、大本営発表といえば太平洋戦争における報道、つまり、「自らに都合の良い内容を流す報道」を意味します。

本章では、とくに「炉心溶融」という事象に焦点をあてて、福島第一原発事故報道が大本営発表報道だったかどうかを検証していく。

引用元:瀬川至朗『科学報道の真相 ジャーナリズムとマスメディア共同体』(筑摩書房)

分析に際して事故発生状況を丁寧に調査しまとめて再構成しています。このため、情報が錯綜、混乱した当時の状態を知る読者の方でも、分析のための前提知識を著者と共有することができるはず。(なるほど調査資料の前提を書くときは、このように読み手の理解を統一することが大事なのね!と感激してしまいました。)

分析結果については是非本書をお読みください。ただ、私の所感としては、様々な批判がありつつも報道記者は戦っていたのだ!と感じさせる情熱の存在を、そこに垣間見ることができたように思います。

マスメディアの責任とは

「客観性」かつ「公平・中立性」。これらこそが、マスメディア自体も自覚があり、また一般市民としても当然だと考える報道姿勢の常識でしょう。先進国の一つとして成長した日本では、戦前に行なわれていたような言論弾圧(統制)は現在行われていません。一見すると、「客観性」も「公平・中立性」も妨げる障害は無いように感じられます。しかし、現実には報道に対する厳しい批判がなされることも多いという事実があります。それは何故でしょうか?

真の客観性とは取材における科学的方法のことであり、さまざまなかたちで対象の出来事を検証することである。つまり、ジャーナリズムにおける客観性とは検証の規律を意味している。

引用元:瀬川至朗『科学報道の真相 ジャーナリズムとマスメディア共同体』(筑摩書房)

このあたりは、著者の瀬川氏と頭の中で議論を重ねつつ読み進めていただきたいポイントです。少なくとも本書では、微妙なニュアンスで読み手にバイアスがかからないよう、言葉選びの工夫が随所に散りばめられている印象があります。

読み手に求められる姿勢

本書を読んだ後で、朝日新聞の連載記事を書籍化した『プロメテウスの罠―明かされなかった福島原発事故の真実』(学研パブリッシング)を読んでいたところ、NHK教育テレビのディレクター(当時)大森氏の回想が登場していました。

大森は戦時中の「勝った」「勝った」という大本営発表が、今の政府の「大丈夫」「大丈夫」と重なってしようがなかった。大本営発表があったとき、それを疑わないと意味はない。あとで振り返っても何にもならない。

引用元:瀬川至朗『科学報道の真相 ジャーナリズムとマスメディア共同体』(筑摩書房)

報道を毎日受け取る一般市民も、懐疑的に検証する姿勢が必要とされるのではないかと思います。

関連書籍

  • 辻田真佐憲『空気の検閲 大日本帝国の表現規制』(光文社):戦前・戦時中の検閲を理解するするための一冊。

  • 朝日新聞特別報道部『プロメテウスの罠―明かされなかった福島原発事故の真実』(学研パブリッシング):福島原発事故についての朝日新聞の連載記事を書籍化したものです。

最後まで読んでいただき有難うございました!


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