昨今、「多様性」という言葉がよく聞かれるようになりました。性の「多様性」に、障がいの有無も含めた「多様性」、国籍の「多様な」方々と働く…などなど。「多様性」という言葉は、まさに現代における重要キーワードですよね。
SDGsの観点でも、「多様性」の要素が感じられます。たとえば、前文には以下のような記述があります。
ともに持続可能な世界へ向かうこの旅をはじめるにあたり、
引用元:持続可能な世界への第一歩 SDGs CLUB>「読んでみよう SDGsの前文・宣言」(公益財団法人 日本ユニセフ協会)
だれひとり取り残さないことを誓います。
「だれひとり取り残さない」という表現からは、ひとりひとりの多様な特徴を尊重し合い、持続可能な世界を実現するという姿勢が感じられますよね。
この時代を生きる私たちは、従来の社会の枠組みが変わっていくそのさなかを生きているのだと思います。しかもこの流れは、一時的なブームで終わることなく長期間継続するものと考えられます。
私は都内の企業に通勤しているのですが、2023年に新型コロナウィルスが5類へ移行して以降、ルーツが日本以外と予想される方がたくさん交通機関を利用している姿を目にするようになりました。そこで今回は、「多様性」のなかでも国籍の多様性という観点から紹介する書籍を選んでみました。
外国から日本へ来た方に日本語を教えるボランティアについて、基礎知識を授けてくれる一冊です。それでは早速見ていきましょう!
こんな方にオススメ
- 海外の方と働く機会が増えてきた
- 外国人同僚と良好なコミュニケーションをとりたい
- 外国人の方に日本語を教えたい
- 地域の日本語教室で外国人と会話したい
日本語ボランティアとは?
ボランティアといえば、災害支援や環境保護の募集をよく目にしますよね。さて、そもそも日本語ボランティアとはどのようなボランティアなのでしょう?
地域の日本語教室は、クラス単位で効率よく日本語を教える場所というより、どちらかといえば、外国人参加者ひとりひとりに、ボランティアが「日本語で寄り添う場所」だと考えられます。それが「日本語ボランティア」イコール「日本語を教える人」ではない、と言われる所以です。
引用元:中井延美『必携! 日本語ボランティアの基礎知識』(大修館書店)
「日本語ボランティア」イコール「日本語を教える人」、ではない…!
大前提として、日本語ボランティアとは日本語教師ではありません。著者によれば、地域の日本語教室と日本語教育機関(大学付属の留学生別科や民間の日本語学校など)とはまったく性質を異にするものだということです。
さらに、日本語ボランティアの役割とは、「日本語で寄り添う」ことだということが、本書ではたびたび強調されています。
日本語ボランティアの役割は、同じ地域で生活する(あるいは、働く・学ぶ)外国人参加者と、わかりやすい日本語を使って対話・交流することです。その意味で、日本語教室は「交流サロン」や「談話室」のような性質が伴われる場所であると考えられます。
引用元:中井延美『必携! 日本語ボランティアの基礎知識』(大修館書店)
(中略)
日本語ボランティアの大切な役割は、日本語能力がまだ十分でない外国人参加者のパートナーとして、彼らに「日本語で寄り添う」ことなのです。外国人参加者が、日本人ボランティアのことを「先生」と呼んでいる教室も少なくないと思いますが、外国人参加者とボランティアの関係は、当然のことながら対等です。
ボランティアを行う側とボランティアを迎える側が対等であるという点は、すべてのボランティアスピリットに共通するものといえるでしょう。
実は、日本語ボランティアを始めるにあたって日本語教師の資格は必要ありませんし、世界の共用語である英語をペラペラ喋れなければならない、という条件も特に無いのです。「日本語で寄り添う」ということは、当たり前のように思えて意外と見失ってしまうポイントかもしれませんね。
日本語ボランティアを始めて、日本語を学び直す
さらに、日本語ボランティアとして外国人の方と対話することで、自分自身の日本語を見つめ直すことになるという指摘は興味深いものでした。
「ことば」について学ぶことは、人間の本質を探り、国・地域・社会・文化などに対して理解を深めることにつながります。日本語教室で「ことば」を学ぶのは外国人参加者であって、日本人ボランティアではないと思う方が多いかもしれません。しかし、実はそうではないのです。
引用元:中井延美『必携! 日本語ボランティアの基礎知識』(大修館書店)
(中略)
日本語における「当たり前」を、外国人の目線で捉え直す作業が、ひいては、自文化理解につながることがよくあります。
ここでは、ボランティア活動に両価的な側面があるという点で、『共に育つ“学生×大学×地域”――人生に響くボランティアコーディネーション』(聖学院大学出版会)で言及されていたボランティアの二面性についての指摘を思い出します。(詳細は以下の記事をご参照ください)
実際に、この『必携! 日本語ボランティアの基礎知識』(大修館書店)を読むだけでも、これまで無意識に使っていた日本語文法の意外な点を発見すること間違いなしです。母国語として日本語を自然に身に着けてきた日本人は、語学学習者としての目線から日本語を新たに捉え直すことができるのです。
日本語におけるものの数え方は難しい
特に驚いたのが、日本語におけるものの数え方です。数量を表す語に沿える助数詞(○件、○本、○台など)のことではありません。
たとえば、4という数字を使った、さまざまなものの数え方の表現を挙げてみましょう。
<月日・時刻を表す表現>
年 よねん
月 しがつ
日 よっか
時 よじ
分 よんぷん
<時の長さを表す表現>
年間 よねんかん
ヶ月 よんかげつ
週間 よんしゅうかん
日間 よっかかん
時間 よじかん
さて、皆さんお気付きでしょうか?
なんと、すべて同じ「4」という数値を表しているのに読み方がバラバラなのです!「よ」「し」「よっ」「よん」といった読み方は、何を数えるかという対象とセットで個別に覚えなければ自然な日本語にはならないということですね。
私はこれまで無意識に使いこなして生きてきたので、これらの違いに今回初めて気が付きました。日本語を母国語としない方が日本語を学習する際には、こうした点に大変苦労するのではないか…とその苦労に思いが至りました。
また、ほかにも「さんかい」であれば3回、「さんがい」であれば3階という濁音の有無で意味が違ってくる点も驚きでした。英語では、数えるものの対象によって発音が変わるということはなかったように思います。
これまで私が考えていた、外国の方が日本語を学ぶ際の困難といえば「漢字を覚えるのが大変だろうな~」「敬語表現とか複雑だろうな~」「主語がはっきりしなくて悩むことが多いのだろうな~」といったあたりです。
この体験を通して感じたのは、自分がこれまで意識していなかったような、日本特有の制度やしきたりに戸惑う外国人の方が多いのではないかということです。本当に目が開かれる思いでした。
海外から日本に来る方は、旅行者だけではありません。日本で働き、家庭を持つ方も増えてきています。出身の違いを尊重した文化交流を通して、共に気持ちよく生活できるような関係を築いていきたいですね。
関連書籍
- 聖学院大学ボランティア活動支援センター(編集)『共に育つ“学生×大学×地域”――人生に響くボランティアコーディネーション』(聖学院大学出版会):聖学院大学ボランティア活動支援センターが設立10周年を機に出版した本です。学生による活動に主眼が置かれていますが、社会人ボランティアにも有益な内容が盛り込まれた一冊。本サイトでも別記事で紹介していますので、宜しければ併せてご参照ください。
- 今井むつみ『英語独習法』(岩波書店):認知科学の分野から英語などの外国語の最も効率的な習得方法を考える一冊。大ベストセラーとなりました。英語を学ぶすべての方の必読書です。本サイトでも別記事で紹介していますので、宜しければ併せてご参照ください。
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