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【書評】その考えは先入観によるもの?データから世界を読み解く!「FACTFULNESS」を読む

【書評】ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP) 書評

2019年の大大大ベストセラー、FACTFULNESSを紹介します。

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著者の経歴

本書はハンス・ロスリング氏を中心に、息子のオーラ・ロスリング氏、その妻アンナ・ロスリング・ロンランド氏の三者で執筆された本です。

ハンス・ロスリング氏の経歴は下記のとおり。

スウェーデンのウプサラで生まれ、スウェーデンとインドで統計学、医学、公衆衛生を学んだあとモザンビークで医師として働き、それまで知られていなかった神経が麻痺する病気、コンゾを発見。専門は、経済発展と農業と貧困と健康のつながりについての研究。
世界保健機関、ユニセフ、いくつかの国際援助機関のアドバイザリーを務めスウェーデンで国境なき医師団を立ち上げた。

そして、世界的にも大きな影響を与える人物として各誌で取り上げられました。

2009年:グローバル思想家100人のひとりに選出(フォーリン・ポリシー誌)
2011年:世界で最もクリエイティブな100人のひとりに選出(ファスト・カンパニー誌)
2012年:世界で最も影響力の大きな100人のひとりに選出(タイム誌)

実際、本書のなかでもさまざまな場で講演をした際の出来事が記されているのですが、とにかくすごい人のようです。

クイズにチャレンジ!

まずは、イントロダクションとして本書に掲載されているクイズのうち、日本人の正答率が最も低かった4問(すべて正答率は10%以下!)についてチャレンジしてみましょう!

※日本人の正答率は7%
質問1:現在、低所得国に暮らす女子の何割が、初等教育を修了するでしょう?
A 20% B 40% C 60%

答えは

C 60%」です!

※日本人の正答率は10%
質問3:世界の人口のうち、極度の貧困にある人の割合は、過去20年でどう変わったでしょう?
A 約2倍になった B あまり変わっていない C 半分になった

答えは

C 半分になった」です!

※日本人の正答率は10%
質問6:国連の予測によると、2100年にはいまより人口が40億人増えるとされています。人口が増える最も大きな理由は何でしょう?
A 子供(15歳未満)が増えるから B 大人(15歳から74歳)が増えるから C 後期高齢者(75歳以上)が増えるから

答えは

B 大人(15歳から74歳)が増えるから」です!

※日本人の正答率は6%
質問9:世界中の1歳児の中で、なんらかの病気に対して予防接種を受けている子供はどのくらいいるでしょう?
A 20% B 50% C 80%

答えは

C 80%」です!

結果はどうでしたか?私はダメダメでした…

ちなみに、これらの質問を14カ国・12000人にオンラインで調査したところ、13問中全問正解した人はおらず(!)、正解率の高かった「温暖化」に関する質問13を除けば、平均正解数は12問中たったの2問とのこと。

ですので、上記の質問に全問正解しなくても、あなたが著しく能力が低いということにはならないのでご安心を。そうです、「なぜ多くの方が不正解だったのか?」を考えるヒントを示しているのがこの本なのです。

いろいろな本能を取り上げ説明していく

わたしの国際開発の授業では、たまに講義の締めくくりに剣飲みの芸を披露することがある。わたしは演題によじ登り、地味なチェックのシャツを脱ぎ捨てる。下に着ているのは、金のスパンコールで稲妻をかたどった、黒のベスト。教室が静けさに包まれると、スネアドラムの音が鳴り響く。それに合わせて、銃剣をゆっくりと飲み込む。腕を広げる頃には、教室は大騒ぎだ。

引用元:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP)

ハンス氏は剣飲みの芸ができるなど心をつかむ特技があるだけでなく、かなりユーモア溢れる説明で、全般的にとても読みやすいです。こんなに面白い文章を書く人が、あんなにビッグな人だとはなかなか結びつかないんですよね…。

本書では、先ほどのクイズで正解する人がなぜ少なかったのか、その理由を考えていきます。そして、世界は思ったよりも素晴らしいものだという気付きが得られることでしょう。

ほかの本と違い、この本にあるデータはあなたを癒してくれる。この本から学べることは、あなたの心を穏やかにしてくれる。世界はあなたが思うほどドラマチックではないからだ。

引用元:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP)

私たちが持っている、ドラマチックな10種類の本能について、それぞれ章立てして説明してゆく構成になっています。

第1章  分断本能    「世界は分断されている」という思い込み
第2章  ネガティブ本能 「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み
第3章  直線本能    「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込み
第4章  恐怖本能    危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み
第5章  過大視本能   「目の前の数字がいちばん重要だ」という思い込み
第6章  パターン化本能 「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み
第7章  宿命本能    「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み
第8章  単純化本能   「世界はひとつの切りで理解できる」という思い込み
第9章  犯人探し本能  「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み
第10章 焦り本能    「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み

子供にトンカチを持たせると、なんでもくぎに見える

どの章も興味深くたくさんの発見があったのですが、私が最も印象深かったのは第8章「単純化本能」です。この章では、「子供にトンカチを持たせると、なんでもくぎに見える」ということわざが紹介されています。

貴重な専門知識を持っていたら、それを使いたくなるのはあたりまえだ。努力して身につけた知識やスキルを専門分野以外のことにも使いたいと考える専門家もいる。たとえば、数学の専門家は数字にこだわってしまうことがある。気候変動の活動家は太陽光発電に関することなら何にでも口を出したがる。医師は、予防に力を注いだほうがいい場合も治療を勧めてしまうことがある。

引用元:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP)

この一節を読んで思い出したのは、故・中村哲医師です。

医師でありながら、アフガニスタンで潅漑設備の整備に尽力した姿は、まさにファクトフルネスを実践されていたのだと思います。医師が患者を一人ずつ治療するよりも、予防の観点で命を救う仕組みを構築できれば、医師の使命ともいえる人命の救助により貢献できることになります。

専門家としての使命を全うするためには専門領域の範疇を超える視点が必要、というのもなんだか逆説的で興味深いものです。

心配すべき5つのグローバルなリスク

第10章「焦り本能」では、ハンス氏が最も心配しているリスクが5つ挙げられています。

  • 感染症の世界的な流行
  • 金融危機
  • 第三次世界大戦
  • 地球温暖化
  • 極度の貧困

第一次世界大戦中に広がったスペインかぜで、5000万人が命を落とした。大戦の犠牲者よりも、スペインかぜで亡くなった人のほうが多かった。4年にわたる戦争で人々の体力が落ちていたこともあるだろう。スペインかぜの流行で、世界の平均寿命は33歳から23歳へと10年も縮まった。

引用元:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド『FACTFULNESS(ファクトフルネス)10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP)

地球温暖化と極度の貧困は現在進行形ですね。本書が執筆されていた2015年~2017年から5年ほどで実現してしまったのが、ご存じ新型コロナウィルスのパンデミックです。恐ろしいものではあるけれど、正しく恐れることの大切さを学んだ方も多いのではないでしょうか。

2022年初から発生しているロシアのウクライナ侵攻に、第三次世界大戦や金融危機への警戒心を強めた方も多いことと思います。世界的な物価高が引き起こす先には、どんな未来があるのでしょうか。

金融危機、世界大戦のいずれも現実化した際には多大な影響があるでしょう。コロナ流行を教訓として、正しくデータを把握してファクトフルネスの実践に努めたいですね。

さらに理解を深めるために

  • TEDトーク

以下では、ハンス氏と息子のオーラ氏が登場しています。本書のエッセンスがギュッと詰まっているので、まずはこちらを見てから本書を手に取るか決めるのも良いと思います。

ハンス・ロスリング氏によるTEDトークで最も再生回数が多いのはこちら。上述のTEDトーク同様にユーモアあふれる語り口で、また視覚的にデータの動きが見れるのでとても分かりやすいです。

  • Gapminder

ギャップマインダー社は、ハンス氏らによって設立され、オーラ氏がディレクター、アンナ氏がバイス・プレジデントを務めています。そして、世界の開発についての歴史と統計を無料で理解できる仕組みを構築しました。

世界各国の所得や寿命の変化をバブルチャートで動的に確認できるなど、実態の把握にとても役立つサイトです。本書を読む時間がない方も、ぜひ一度はご訪問してみてほしいです。無料です。

  • Dollar Street

アンナ氏の考案で立ち上げられたプロジェクトです。世界中の写真家たちに依頼し、所得ごとに調理方法などの違いをひとつのサイトにまとめました。写真や動画で実態を知ることができます。こちらも非常におすすめ。無料です。

関連書籍

  • ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー(上)(下) ――あなたの意思はどのように決まるか?』(早川書房):直感的で感情に根ざす「速い思考」と合理的で努力を要する「遅い思考」。本書で取り上げられている数々の思い込みについて、より深く思考したい方におすすめです。

  • ウォルター・ミシェル『マシュマロ・テスト ――成功する子・しない子』(早川書房):こちらも、思慮深い「クールシステム」と衝動的な「ホットシステム」の2種類を行動科学の観点から考える一冊です。

  • ポール・コリアー『最底辺の10億人』(日経BP):国際援助に関する本でたびたび引用される文献です。さらに思考を深めるうえで必須文献といえるでしょう。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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