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【書評】世界的な写真家と梨園の妻の不倫。実話を元に林真理子が小説化!「奇跡」を読む

【書評】林真理子『奇跡』(講談社) 書評

新聞広告で出版の告知を見たときに大変びっくりした一冊があります。それが、今回ご紹介する『奇跡』です。

この物語は、梨園の妻の不倫を実名で小説化したものです。しかもその執筆のきっかけが、他ならぬ梨園の妻その人だというから驚き!

歌舞伎界での男性の不倫は世間でおおらかに受け入れられている節はありますが、こと女性の不倫となるとバッシングは激しく、確実に大きなスキャンダルに発展するはず。かなり勇気のある決断だな~と思ったものでした。

本作を書き下ろしたのは、日本大学の理事長としても現在活躍されている林真理子氏。直木賞をはじめとして数々の賞を受賞しており、日本を代表する女流作家の一人ですよね。現在では、直木賞のほか講談社エッセイ賞、吉川英治文学賞、中央公論文芸賞の選考委員も務めていらっしゃいます。

それでは、衝撃的な内容を含む本作を見ていきましょう。

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こんな方にオススメ

  • 実話に基づく小説が読みたい
  • 歌舞伎の世界を覗いてみたい
  • 林真理子氏の文章が好きだ

登場人物について

 私たちに編集者二人が加わり、プロジェクトが始まった日、私は原稿用紙に「奇跡」と書いた。これ以外のタイトルは思いつかない。
 田原桂一は生前、博子にこう何度も言ったという。
 「僕たちは出会ってしまったんだ」
 出会ってしまったが、博子は人妻で男の子の母親だった。しかしそれが何だったのだろう。
 私は「出会ってしまった」男と女の物語を書いて世に問うてみようと思う。この本を読み終えたら、誰しもが二人は結ばれて当然と感じるに違いない。
「不倫」という言葉を寄せつけないほど二人は正しく高潔であった。これはまさしく「奇跡」なのである。

引用元:林真理子『奇跡』(講談社)

博子

本作の主人公。梨園の妻でありながら、夫以外の男性と同居生活を始める。

田原桂一

パリを中心に活動する世界的に著名な写真家。博子と6年後の再会を経て親しくなり、愛を育んでゆく。

林真理子

博子の幼稚園のママ友。博子からの依頼を受け、博子と桂一の物語を書き下ろし小説にまとめる。

清之助

博子の息子。歌舞伎役者として立派に活躍する姿が期待されている。

清之助を含めて現在も歌舞伎界で活躍していらっしゃる方々については、小説では実際のお名前と異なる名前で登場しています。実名の掲載を見送った理由には、博子氏や林真理子氏の想いがあると考えています。このため、登場人物が実際には誰のことを示しているのか、当ブログ記事でもあえて触れません。ご了承ください。

梨園の妻としての博子氏

本作では、博子氏とその夫や舅・姑との関係は良好であったことが強調されています。

特に舅や姑とは愛情深い関係性を築いていたようで、嫁いびりや夫婦間の不和を理由に夫以外の男性へ心が傾いたのではないということが繰り返し述べられています。実際、夫や舅・姑に対する露骨な不満は出てきません。

あくまで小説ですから、ある程度の脚色はなされているかもしれません。しかし、裕福な家に生まれ、梨園という大変な世界に嫁いだ女性の決意は、やはり生半可なものではないと想像されます。

 博子は姑につき従って、配りものを持って贔屓筋をまわる。そのすべてを取り仕切る姑の傍にいて、少しでも多く学ぼうと必死だった。自分を可愛がってくれる舅と姑の役に立ちたい。そしてそうした作業のあれこれを身体にしみこませて、いつか夫が襲名披露するときがあれば、きちんと役目を果たしたい。そんな思いで目の回るような日々を過ごした。配りものは数が多く、手拭いや扇、器などのデザイン、発注まで気の遠くなりそうな作業を姑の側で学んだ。東京・関西を始め、各地方に新たな後援会も創設され、盛大なパーティーも開かれた。何百人にも及ぶ後援者の顔と名前をすべて覚えるのも一苦労だ。

引用元:林真理子『奇跡』(講談社)

全体を通して、博子氏の聡明さや意志の強さを感じました。

桂一氏と過ごす母親のそばには息子・清之助

本書タイトル『奇跡』とは、一体何を指すのだろう? そんなテーマで、本書を読了済みの母と会話したときに答えが一致したのが、「清之助の存在」です。

 いっときも田原と離れていたくなかった。しかし子どもを置いて行けるわけもない。博子は初舞台を終えたばかりの清之助の化粧を落とし、服を着替えさせ、ひっさらうようにしてタクシーに乗り、白金に向かった。いつも清之助の耳には白粉が残っていたという。
 母子を穏やかな笑顔で田原は迎える。そして三人で広い庭を歩いたり、展示物を見たりする。
 清之助は幼いながらも、この時見た田原の作品の数々に深い感銘を受けた。今でも尊敬する芸術家として、必ず田原桂一の名を挙げる。

引用元:林真理子『奇跡』(講談社)

息子が立派な歌舞伎役者になれるよう厳しく稽古を見守り、また世話を欠かさないのだけれど、博子氏はそれでも愛する桂一氏の元へ向かいます。しかも、後に夫とは別居状態となり、桂一氏、博子氏、清之助の3人で暮らすようになるのです。

さらに、幼い清之助は博子氏の恋愛を応援する(!)ようになります。こんなことが起きるのか、ととても衝撃を受けました。まさに『奇跡』としか言えません。

関連書籍

  • 林真理子『愉楽にて』(日本経済新聞出版):2018年に紫綬褒章を受賞した林真理子氏の長編小説。日本経済新聞連載時に毎日読んでおりました。京都の芸者文化や漢詩の教養、自分が想像できない世界における男女の関係。雅やかな本です。

  • 林真理子『小説8050』(新潮社):7年間、部屋に引きこもったままの息子との生活。出版時に大変な注目を集めた小説です。

  • 林真理子『西郷どん』(KADOKAWA):鈴木亮平さん主演で2018年にNHKで大河ドラマ化されました!西郷隆盛の人生を描く青春小説です。


  • 桐野夏生『猿の見る夢』(講談社):こちらも不倫に関する小説ですが、残念なパターンです。「これまでで一番愛おしい男を書いた」とは作者の言葉。欲にまみれた男の話なのですが、「もう、この人バカだなぁ…」というのが私の感想です(^_^;)小男といいますか…主人公が救いようが無さすぎます…。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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