最近出版された本は、昔と比べてどんどん文字が大きくなってきています。新聞もそうです。実家の整理中に昭和後期の新聞を発掘することがあるのですが、米粒よりも小さな文字が整然と並んでいて驚くばかり。
その理由は、どんな方でもストレスなく読みやすくするためですよね。若者の読書離れや新聞離れが進んでからは、高齢の方が読み手の大多数を占めるようになったのではと思います。
今回ご紹介する本も、文字サイズがとても大きな一冊。ただし、大活字本のように大型の書籍ではなく、大きすぎない程良い文字サイズです。しかも新書なので、持ち歩きやすい!
それは、本書のタイトルが示すとおり高齢の方を読み手に想定した一冊だからでしょう。その名も『80歳の壁』。80代の方も、親を心配する80歳未満の方も、ともに満足いただける一冊となることでしょう。
こんな方にオススメ
- 年を取ったが、より良い人生を歩みたい
- 自分の老後が不安だ
- 80歳以上の親がいる
高齢者ならぬ「幸齢者」
さて、本書ではいわゆる高齢者を「幸齢者」と呼びます。
いま日本では、65歳以上を「高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と読んでいます。でも「高齢者」も「後期」も、なんだか言葉の響きが寂しくありませんか。
引用元:和田秀樹『80歳の壁』(幻冬舎)
ここまで頑張って生きてきたのですから、もっと明るくて希望の持てる呼び方にすべきだと、私は常々思っています。そこで、提案したいと思います。
80歳を超えた人は高齢者ではなく「幸齢者」ーー。
これなら敬意も表せるし、温かみもあります。運も味方です。年を取ることへの希望も感じられるでしょう。この本では、80歳オーバーを「幸齢者」と呼びたいと思います。
名前の読み方を変えただけでなんだかポジティブな雰囲気になる…。すごいですよね!
「後期高齢者」という言葉が生まれたときは75歳以上の方の多くが不快感を示していたことを思い出します。当時、75歳の知人女性もたいへん憤慨しておりました。
栄養状態の改善と医学の進歩によって、人々の寿命は格段に伸びました。本書によれば、日本人の平均寿命が初めて50歳を超えたのは、1947年(昭和22年)だそうです。あの国民的アニメ『サザエさん』に出てくる波平は娘夫婦と二世帯で暮らし、3歳の孫タラオがいます。そんな波平の年齢は、なんと54歳(!)。そして、当時の一般的な会社員の定年は55歳でした。
54歳という年齢は、当時としては間もなく隠居を考え始めるお年頃だったのでしょう。65歳未満なので「高齢者」では無かったのかもしれないけれど、家族も多く「幸齢者」だったのではと想像します。
そして、現代における65歳以上を見ていると、働き続けたり、趣味を楽しんだり、運動したりと元気な方がたくさんいますよね。「高齢者」という言葉からイメージされる姿はその実態とあまり噛み合わず、むしろ「幸齢者」の方がしっくりくる気がします。
基礎疾患がある場合、体内で常時火事が発生している状態
本書を執筆した和田秀樹氏は、高齢者専門の精神科医として約35年間、臨床経験がある精神科医です。メディア露出も多く、知名度のある精神科医の一人でしょう。
実務経験が豊富な先生の語る言葉は、とても分かりやすいです。たとえば、基礎疾患を持つ方が新型コロナウイルスに感染したときの身体の状態について。
基礎疾患を持っているということは、体の中で火事が常時発生しているような状態です。細胞はその火消しや修復に追われています。そんなところに新たなウイルスが侵入してきて、あちこちで放火を起こす(炎症を起こす)。こうなれば、当初からの火事は大炎上となり、ボヤ程度のものでも消火できずに大きくなる。
引用元:和田秀樹『80歳の壁』(幻冬舎)
免疫力が落ちていたり、基礎疾患を持っていたりする人の体の中では、こうしたことが起こっていたわけです。
基礎疾患を持つ場合は新型コロナワクチンの接種が優先されるなど、その重傷化リスクはよく知られるところです。常時火事が発生していてその火消しにいつも追われている、という表現を聞くことで、その状態がより理解できるようになりました。
ボヤだったとしても大火災となってしまう。なんて恐ろしい…。
80歳を超えたら我慢や無理をしなくてよい
著者は、80歳になったら必要以上に我慢することはない、と喝破しています。
長寿になったことは喜ばしいのですが、じつは少し心配もしています。それは、幸齢者が「長生きしなければならない」という呪縛にかかっていることです。
たとえば、みなさんご自身は、次のことに思い当たらないでしょうか。
・本当は食べたいのに、健康に悪いからと、我慢してしまう。
・動くのがつらいのに、健康のためと、無理して運動をする。
・好きなタバコやお酒を、健康に悪いからと、控えてしまう。
・やりたいことがあるのに「もう年だから」と我慢する。
・効いている実感がないのに「長生きのため」と薬を飲み続ける。いずれも80歳を超えた幸齢者なら、しなくてもいい我慢や無理なのです。
引用元:和田秀樹『80歳の壁』(幻冬舎)
もっと言えば、本当はしてはいけない我慢や無理なのです。
たしかに、60代くらいまでなら、それは効果のあることでした。しかし幸齢者になってまで、我慢をする必要はありません。
たしかに、私の周囲で元気な80代の方と会話していると、あまり我慢している感じはありません。当然のようにジャンクフードは食べますし、フットワークが軽く遠出もなさいます。趣味の活動もたくさんあり、友人知人の世代幅がとても広いです。
いつも楽しくおしゃべりをしています。その姿に悲壮感はありません。
自分が80代になったときも、この方のように明るく楽しく日々を過ごしたいなぁ、と考えています。もちろん、両親にも。なので、両親には程々に生活上の注意を伝えつつ、その生涯をまっとうしてもらえたらなと思います。
関連書籍
- 荒川龍『抱きしめて看取る理由 - 自宅での死を支える「看取り士」という仕事』(ワニブックス):終末期の方を見守る看取り士という仕事があります。子供の誕生は大きな喜びで迎えられるものの、愛する方の死というものは大きな悲哀であり、受け入れにくいもの。しかし、看取り士はこの一般常識を否定し、死の瞬間は「大切な締めくくり」として家族が感謝と共に身体を抱きしめて、笑顔で迎えることを促します。終末期の治療の在り方も議論の余地がありますが、「高齢者」ならぬ「幸齢者」の尊厳とはどうあるべきか?を考えさせられる本です。
- 佐藤眞一『認知症の人の心の中はどうなっているのか?』(光文社):この本は、老年行動学者の佐藤眞一氏が介護される人の辛さへの理解を助ける考察を示します。介護する人、介護される人。綺麗事のように思われてしまうかもしれませんが、どちらも共によりよく暮らしていけるような世の中にしたいなと思います。
- 和田秀樹『バカとは何か』(幻冬舎):バカみたいに真面目にバカを論じる本です。各ページにバカという単語がかなり登場します。ただ、差別的な内容ではないのが良いところ。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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