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【書評】放送大学で心理学的支援の基本を学ぶ!「心理カウンセリング序説」を読む

【書評】大山泰宏『心理カウンセリング序説: 心理学的支援法(放送大学教材)』(放送大学教育振興会) 書評

放送大学には、臨床心理学系の科目がたくさん開講されています。以前ご紹介した「臨床心理学概論」をはじめとして、「認知行動療法」「精神分析とユング心理学」「中高年の心理臨床」など、講師陣・内容ともにかなり充実しています。

もし、この記事をお読みの方が初めて臨床心理学を学ぼうとしていらっしゃるのであれば、私は「臨床心理学概論」をまず第一歩としてオススメします。「概論」というだけあって、臨床心理学の基礎が学べるよい科目です。

「臨床心理学概論」についての記事はこちら↓

「臨床心理学概論」を学んだあとは、興味の赴くままに理解を深めたい科目を受講するのがよいでしょう。私は、心理学的支援を学習テーマに設定し、「心理カウンセリング序説ー心理学的支援法ー」を選択しました。

というのも、実は所属しているボランティア団体で、インテーク面接を始めとした心理学的支援に関与する機会が増えてきたからです。初めて来訪なさったご相談者さんのニーズの概要、その後の面談の経過、ボランティアとしてできることの限界について、などなど。

こういった活動をするボランティアの一人として、もっと知識を深める必要があるし、学び続けなければと常に感じていました。

今回は、カウンセリングの場の設定やプロセスなどの基礎について学ぶ「心理カウンセリング序説ー心理学的支援法ー('21)」の印刷教材(テキスト)をご紹介します。公認心理師取得にあたって履修必須の科目です。

講師は波田野茂幸氏、橋本朋広氏、大山泰宏氏の3名。経験豊富なセラピストならではの、あたたかな声色と眼差しで放送授業が展開されていきます。

書籍は全国の書店などで購入できます。放送大学生でない方も、本科目の講義はBS放送などのテレビで視聴可能です。詳しい視聴方法は以下をご参照ください。

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本講座の基本情報

本講座「心理カウンセリング序説ー心理学的支援法ー」は、放送大学で開講されている科目です。

  • 2021年度開設
  • 放送授業(テレビ配信)
  • 心理と教育コースの専門科目

具体的なシラバスはこちらからご参照ください。

放送授業はテレビで公開されており、書籍はAmazonほか各書店でお買い求めいただけます。各地域におけるテキスト取扱書店は下記をご参照ください。

こんな方にオススメ

  • 臨床心理学の本を読んで勉強している
  • 臨床心理士や公認心理師を目指している
  • 心理学的支援の基礎を学びたい

目次

本書の目次は下記のとおりです。全15回の放送授業に沿った章立てとなっております。

 1 イントロダクション:心理学的支援の全体
 2 コミュニケーションと傾聴
 3 共感と理解
 4 理解と見立て:インテーク面接
 5 カウンセリングにおける相互作用
 6 カウンセリングの場と器
 7 カウンセリングのプロセス
 8 精神分析の始まりと展開
 9 ユング派心理療法の展開
10 ロジャーズと来談者中心療法
11 行動療法によるアプローチの展開
12 訪問と地域支援
13 危機介入と心の健康教育
14 秘密保持と記録
15 セラピストとしての研修

心理学的支援とは何か

本講座のタイトルは、「心理カウンセリング序説ー心理学的支援法ー」。カウンセリングという言葉はともかく、そもそも、「心理学的支援」とは何なのでしょうか

「心理学的支援」「カウンセリング」「心理療法」といった用語の定義は、この記事で要約できるほど単純なものではなく深みがありました。詳細については本書の第1章をお読みいただければと思いますが、ここでは私が特に印象に残った一節を引用します。

 こうして、相手を理解する上で、私たちが感じ取りそれを総合していく機能こそ、私たちが「心」と呼ぶものである。すなわち心理学的支援とは、人が人に対して心を使って、そしてその人の心に対して働きかける支援なのである。

引用元:大山泰宏『心理カウンセリング序説: 心理学的支援法(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

「人」が「人」に対して「心」を使って、その「人」の「心」に対して働きかける「支援」。うーむ…なるほど。とても簡潔に表現しているけれど、深みのある言葉です。

私は、「心理学的支援」のような基本的な用語にどれだけ感覚を研ぎ澄ませているかが、その人の専門性を証明する一つの材料になりうるように感じています。

共鳴・共感・共視

次に印象的だったのは、第3章に書かれた「共鳴」「共感」「共視」という言葉について。

  ここまで説明してきた共感の在り方では、図3-1の左に示すように、セラピストとクライアントとがface to faceで向かい合っているような位置どりを前提としていた。すなわち、相手と向かい合い、相手の内側や内的体験を理解しようとするものであった。しかしながら、カウンセリング場面では、これとは構造的に異なった共感の在り方をとることが多々ある。
 たとえば、箱庭療法の場面を考えてみよう。クライアントが箱庭を制作しているとき、セラピストは、箱庭を作っているクライアントに向かい合っているわけではない。クライアントのほうも、セラピストに向かい合っているわけではない。クライアントは、箱庭に向かい、セラピストもその展開していく箱庭を見ているのである。ここでは、図3-1の右側のような位置取りとなっている。すなわち、クライアントとセラピストの両者が、横並び(side by side)になって、共に何かに眼差しを向けているという関係性である。こうして両者が共に、展開されていく箱庭のイメージを味わうのである。

引用元:大山泰宏『心理カウンセリング序説: 心理学的支援法(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

face to faceとside by side。詳細はぜひ本書を参照いただきたいところですが、side by sideという関わり方はこれまであまり意識して考えたことが無かったな、と気づきがありました。

私たちは、たとえば職場での人間関係について、日常的に顔を合わせる(face to face)ことが重要だと考えていますよね。コロナ禍から急速に広まったオンラインでの打ち合わせでは、顔出し必須という企業も少なくないことでしょうし、「リアルで会って話をしたいね」とか「face to faceで会話しよう」という言い方をよく聞きます。

一方で、「オンライン疲れ」という言葉も出てきました。「常に顔を表示しているのは疲れる」「上司の顔が常時表示されていると緊張する」などなど。face to faceで互いに視線を合わせようとすることも大切なんでしょうけれど、side by sideで互いの視線を何か特定のものに向ける、というやり方も価値があるということなのでしょう。

セラピストとしてどのようにクライアントと関わるか、さまざまな方法があるわけですが、その都度よく考えて相手と向き合うということが大事なのだと思います。

傷ついた治療者

第15章で言及されている、C.G.ユングが提唱した「傷ついた治療者(wounded healer〈英〉、verwundete Heiler〈独〉)」についてもいろいろと考えさせられました。

この「傷ついた治療者」を語る前提として、ギリシャ神話の医神アスクレピオス(神話では、へびつかい座になったとされています)の生涯ならびにエピダウロスの神殿について説明したうえで、次の記述があります。

  (中略)「傷ついた治療者」の説明として、しばしば、治療者は傷つき(すなわち過去の逆境体験やトラウマ)があるほうが有能であるのだ、という誤解がある。確かに、自分の過去につらい体験があるほうが、クライアントの気持ちや考え方を理解し共感できるかもしれない。しかしながらこの考えでは、治すのはやはり治療者のほうであり、死す前のアスクレピオスの在り方に近い。「傷ついた治療者」の在り方はそれとは異なる。クライアント自身が自らを癒す力が、治療者という存在を通して活性化されるのである。

引用元:大山泰宏『心理カウンセリング序説: 心理学的支援法(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

「傷ついた治療者」という概念についても本記事で簡潔に説明するのは難しいので、本書を読んでいただくのがよいと思いますが、ここで意識したいのは「セラピストは過去につらい体験があるほうが有能という誤解」です。

セラピストを志す方からは、「過去に自分自身がつらい思いをして、カウンセリングを通して日常生活を送れるようになった」とか、「自分が元気になった経験を活かして、いま悩んでいる方を助けたい」という声を聞くことがよくあります。

どんな方でも、大なり小なり過去につらい思いをした経験があることでしょう。周囲の方に対して優しい眼差しを持ち、支えたいという気持ちが大きくなることもあるでしょう。

ただ、自分自身の人生で困難を克服した経験が、そっくりそのまま他の誰かに当てはまるということはおそらくありません。自分自身の経験が邪魔をして、クライアントに価値ある心理学的支援ができない、という可能性は常に留意すべき点といえるのでしょう。

セラピストも、クライアントも、自身の傷に向き合い生き抜いていく。ここに、両者が対等な立場で関わりを持ち、双方向での関係性を築く姿が立ち現れるのだと感じました。

関連書籍

  • 森津太子、向田久美子『心理学概論(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):心理学を学ぶ方は、まずこちらの書籍からスタートすると良いです。2024年度には改訂版が登場し、よりパワーアップしています。2018年度版について記事を書きましたので、宜しければお読みください。

  • 倉光修『臨床心理学概論(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):臨床心理を学ぶ方は、こちらを是非一読ください。臨床心理学の基礎が学べます。記事を書きましたので、宜しければお読みください。

  • 北山修『共視論: 母子像の心理学』(講談社):ザ・フォーク・クルセイダーズ『戦争を知らない子供たち』でも有名なきたやまおさむ氏は、元日本精神分析学会会長でもあります。浮世絵を題材に「共視」を論じる一冊。

  • 大山泰宏『日常性の心理療法』(日本評論社):本科目の主任講師を務めた大山先生の著書です。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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