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【書評】セクシュアリティを考える!動物性愛とは?「聖なるズー」を読む

【書評】濱野ちひろ『聖なるズー』(集英社) 書評

日本のみならず世界的に見られる傾向として、LGBTQといった多様な性的指向が認められつつあります。しかし、そんななかでも「動物性愛」というセクシュアリティは馴染みがないという方も多いのではないでしょうか?

今回ご紹介する本書は、動物性愛について当事者と生活をともにしながらその日常や思想をまとめた一冊です。著者本人が、ドイツにある世界唯一の動物性愛者(以下、ズー)による団体「ZETA(Zoophiles Engagement für Toleranz und Aufklärung)/ゼータ(寛容と啓発を促す動物性愛者団体)」のメンバーとの生活を通して、動物性愛というセクシュアリティについてまとめ、第17回開高健ノンフィクション賞を受賞しました。

著者は本書の冒頭で明かしていますが、かつて性暴力を含む身体的・精神的暴力を受けていました。そんな著者が動物性愛というテーマに興味を持ち、その理解を深めていく過程が、客観的にしかし自身の経験と照らし合わせながら克明に綴っています。

自分のセクシュアリティについて悩んでいる方には是非読んでいただきたいと思い、ご紹介します。

本書では、そのテーマを真摯に取り扱う上で外すことのできない言及のために、多少刺激的な性的表現を含んでいます。本記事ではすべての方が安心してお読みいただけるよう最大限の配慮をしておりますが、実際に本を読む際には少しばかりの心構えが必要となることを申し添えておきます。

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その研究方法とは

 合計四カ月間のドイツ滞在では、私はでき得る限りズーたちと日常生活をともにした。ミヒャエル宅での最初の滞在は三日間だったが、二〇一七年の夏には、彼の家に二週間あまり居候した。

引用元:濱野ちひろ『聖なるズー』(集英社)

これは、いわゆる「参与観察」という手法です。研究手法としては一般的によく見られる方法です。

たとえば、ゴリラを研究するにはゴリラの群れに仲間入りして一緒に生活する、などですね。著者の濱野氏が所属する京都大学大学院の前総長、山極壽一氏がこの形でゴリラ研究をしていたことは有名です。

参与観察の良いところは、対面でのインタビューやアンケート調査では把握できない、非言語的な情報を知ることができる点です。

ミヒャエル氏はゼータ設立メンバーのひとり。本書ではその当事者のプライバシー保護の観点から、居住区域についての詳細情報は伏せ、また原則メンバーの氏名は仮名となっています。しかし、ミヒャエル氏はそのメディア露出実績もあり、また本人の意を汲んで本名で記述されています。

性暴力とズー

本書を読んでいて感じられるのは、ズーたちが動物たちへ向ける、上下関係のない愛情です。

 人間と動物が対等な関係を築くなんて、そもそもあり得ないと考える人は多いかもしれない。だがズーたちを知って、少なくとも私の意見は逆転した。人間と人間が対等であるほうが、よほど難しいと。

引用元:濱野ちひろ『聖なるズー』(集英社)

動物性愛という表現を聞く際、動物虐待というイメージが浮かぶ方もいるのではないでしょうか?しかし、本書を読んでいると、実態としてはむしろ人間と動物を同列に扱うという姿勢が透けて見えてくるのです。ズーたちと日常生活を共に過ごさなければこうした発見は難しかったことでしょう。

著者は、ズーたちとの会話や自身の人生経験を振り返り、性暴力とズーとの違いについて考察していきます。人間心理を理解するうえで、示唆に富む内容でした。

読みやすく茶目っ気のある文章

と、ここまでやや重いテーマを取り扱う本書について語ってきましたが、文章にはどこか軽やかな印象があり、茶目っ気たっぷりです。たとえば、著者があまり好物ではないドイツ名物のクヌーデルという料理について、静かだがキレのあるジョークも。

 そう、クヌーデルである。もう何皿目かわからない。ドイツの一般家庭を訪ねて旅を続ける限り、クヌーデルからは逃れられない。私はもはや、クヌーデルに対しては平常心を保てるようになっていた。「おいしいです」とニコッとするのにも罪悪感を抱かなくなった。これは生き抜くための知恵であって、罪のある嘘ではない。

引用元:濱野ちひろ『聖なるズー』(集英社)

大学院への入学前にはライターとして活動されていたというそのキャリアも納得です。客観的な記述に努めつつも文章表現は単一的ではありません。私もこんな文章が書きたいな、と感じさせる著者さんでした。

関連書籍

  • 平井美帆『ソ連兵へ差し出された娘たち』(集英社):第19回開高健ノンフィクション賞受賞作。ロシアのウクライナ侵攻以降、さらに注目を集めているように思います。

  • ドニー・アイカー、安原和見(訳)『死に山 世界一不気味な遭難事故《ディアトロフ峠事件》の真相』(河出書房新社):ドキュメンタリー性あるノンフィクションをオススメするならこちら。1959年に起きた世界一不気味な遭難事件を、被害に遭った一行の足取りを辿りながら解明を試みる一冊です。AXNミステリーでも、ロシアのテレビ局が制作した全8話のドラマを2022年1月に放送していました。翌月にウクライナ侵攻が始まりましたから、今後日本で放送される日はまったく予想できません。独ソ戦における兵士の葛藤、その後の人生など大変勉強になる内容だったのですが。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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