最近、韓国エッセイが熱いですね。今回は、第一弾として『私は私のままで生きることにした』をご紹介します!
この本はBTS(防弾少年団)のジュングクも愛読しているということからSNSで話題となり、なんと韓国で113万部、日本でも52万部(2022年1月時点)のベストセラーとなっています。
この本のどんなところが両国の共感を呼んでいるのか?私自身が感じたことを書いてみました。
美徳とは、永遠の真理なのだろうか?
「当たり前だと思っていたことに疑問をぶつけよう」という節の冒頭では、過去の時代における美徳について、ちょっとショッキングな事例が挙げられています。
昔ある村に、夫婦と夫の母親、1歳になる息子が暮らしていた。
畑仕事に出ていた嫁が昼食を食べに家に戻ると、
認知症の姑が鶏肉入りのおかゆを炊いてくれていた。
ありがたいと思って釜のふたを開けてみると、
なかには鶏ではなく息子が入っていた。
老いた姑が、鶏と孫を間違えて釜に入れてしまったのだ。
嫁は心を落ち着けて、鶏をさばき、
姑におかゆをつくると、死んだ我が子を裏山に埋めたのだった。
ワイドショーのネタにでもなりそうなこの猟奇事件は、
驚いたことに朝鮮王朝時代には、親孝行な嫁として称えられていた。今ではとても理解できないこの話が、美談として伝えられた理由は何だろうか。
引用元:キムスヒョン(著)、吉川南(翻訳)『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス)
この導入部を呼んで「そんな馬鹿な話はない!」と感じる人も多いのではないでしょうか?
しかし、私は幼い頃に、ここ日本で「親の死に目に会えないほど多忙で出世・成功した男は孝行息子である」という価値観を耳にしたことがあります。
過労死という言葉もすっかり浸透した最近ではこうした発言はめっきり聞かなくなってしまいましたが、「残業時間が多い人ほど会社に貢献している」という考え方を良しとする人々は少なくないように思われます。
日本と韓国のどちらの国においても、現実的に見て心地よい働き方や生き方よりも、上記のような美徳を支持する層がいまだに一定数以上存在している、ということなのかもしれません。
日韓の類似性
日本と韓国の2カ国はアジア地域のなかでも隣接しており、似たような価値観を共有しているように思えます。「寛大な個人主義者になること」の節の冒頭にも、この観点での言及があります。
『嫌われる勇気』という本が日本と韓国でベストセラーになった。
引用元:キムスヒョン(著)、吉川南(翻訳)『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス)
「よく売れた」というレベルではなく、
出版不況の世の中に社会現象を巻き起こした。
この本がなぜ、日韓両国でベストセラーになったのだろう?
私には韓国出身の親しい友人がいないのですが、皆さんはどのように思われますか?
実際のところ、両国の間には政治的・心理的な壁がまだまだ分厚く存在しているようですが、儒教的価値観や男女格差などで通ずる点が多いように感じます。
本書のなかで、韓国では「幸福」や「成功」を数字で評価する、という記述があるのですが、日本にもどこかそんなところがありますよね。
たとえば、英語の語学力を評価する際の指標について考えてみると、日本も韓国もTOEIC L&Rの点数を重視している点が似ていますよね。TOEICの点数を少しでも上げるために英語スクールに通ったり、仕事終わりに過去問題集に取り組んだりして勉強するわけです。ここで重要なのは、自分の「点数」に対する社会的評価、です。
実際、TOEIC L&R受験者数の過半数以上は日韓両国が占めていると言われています。
韓国エッセイの人気の理由は?
私が思うに、日本で急激に市場を拡大している韓国エッセイ・ノベルがたびたびベストセラーとなる理由は、やはり日韓の類似性に因るものではと思います。
この本は自然体の文章で書かれていて、シンプルでどこかユルさがあるイラストも添えられ、読むだけでビタミン剤になる一冊です。デトックス効果もあるので、世の中の窮屈さ、生きづらさを感じている方は是非手に取ってみましょう!
関連書籍
- 李龍徳『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』(河出書房新社):排外主義が支配する日本における、在日韓国人への徹底的な差別。ヘイトスピーチ、外国人への生活保護廃止、そして抗争。 序盤に出てくる政治家のモデルに思い当たる節がありますが、保守派の方が本作を読んだ場合にいかなる感想を抱くか関心を抱いています。 この作品をどのように評したら良いか、言葉が見つからないというのが正直なところです。ラストは衝撃です。何故そのような結末となったか?他の選択肢が介在する余地は無かったのか?読了後も考えざるを得ません。 日本におけるさまざまな差別感情・ヘイトスピーチの実情を、客観的な分析を踏まえて明らかにしようとした素晴らしい一冊。構成、人物描写、アクション、いずれも著者の技量が濃縮されています。
- チョ・ナムジュ(著)、斎藤 真理子(翻訳)『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房):韓国における男女格差を暴いた小説です。韓国における実際の統計データも示されており、かなり衝撃を受けました。ただ、日本人の私にも心当たりのある体験が描かれていたりして…世界各国で翻訳されているのも頷けます。 フェミニズム小説という言葉で片付けてしまうのではなく、多くの方に読んでもらいたい良書。解説にもしっかり目を通すと、本作の狙いがよりはっきりします。映画も制作されました。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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