本ページにはPRが含まれます。

【書評】新技術とともに人生100年時代をどう生きる?「LIFE SHIFT2」を読む

【書評】アンドリュー・スコット(著)、リンダ・グラットン(著)、池村千秋(翻訳)『LIFE SHIFT2: 100年時代の行動戦略』(東洋経済新報社) 書評

新しいテクノロジーを導入して、仕事の進め方をどんどん変えていく時代なんだな、と最近感じています。

たとえば、連絡手段は電話からメール・チャットなどに変わっていきました。2010年代のはじめまでは毎日何本もの電話がかかってきたものですが、コロナ禍に突入した2020年くらいからは、半年に1回くらいしか着信がありません。会議はいまやオフィスとオンラインでのハイブリッド開催です。参加者全員が在宅勤務であれば、会議室さえ利用しないこともしばしばあります。

2023年になってからは、ChatGPTに代表される生成AIが広く知られるようになりました。こちらの技術については、業務効率化や顧客満足度の向上に生かせないかと、多くの会社で日々模索している最中でしょう。

実際、新しいテクノロジーは作業の効率化を促す強力なツールになります。このため、新テクノロジーの登場が必然的に業務の進め方を変えていくことになるのでしょう。しかし、変化が激しく将来の予測がつきにくい時代でもあります。新テクノロジーの登場により突如仕事を失う可能性もあります。「AIに仕事を奪われるのではないか」といった経済的な不安を抱く人々は少なくありません。

今回は、新テクノロジーの登場をふまえて人生100年時代と呼ばれる長寿社会における生き方、働き方、学び方について解説する『LIFE SHIFT2』をご紹介します。大ベストセラー『LIFE SHIFT』の続編で、日本ではコロナ禍まっただなかの2021年11月に出版されました。

スポンサーリンク

こんな方にオススメ

  • 時代の変化が速く不安を感じる
  • 高齢化社会を生き抜くヒントを得たい
  • 変化に対応し、より豊かな人生を歩んでいきたい

社会的発明

本書で繰り返し触れられているのが、「社会的発明」という用語です。

 農耕への移行と産業革命の進展の両方に共通する点がある。いずれの場合も、人間の創意工夫がテクノロジーの進歩を実現させ、それが既存の経済・社会構造を揺るがした結果、それまでとは異なるタイプの創意工夫が必要になったのである。それは、「社会的発明」とでも呼ぶべきものだ。技術的発明が新たな知識に基づく新たな可能性を生み出すとすれば、社会的発明は、新しい生き方を切り開くことを通じて、技術的発明の成果が個人と人類全体の運命の改善につながる環境をつくるためのものと言える。
 問題は、技術的発明が自動的に社会的発明を生むわけではないという点だ。そして、社会的発明が実現するまで、新しいテクノロジーは、真の意味での恩恵をもたらせない。

引用元:アンドリュー・スコット(著)、リンダ・グラットン(著)、池村千秋(翻訳)『LIFE SHIFT2: 100年時代の行動戦略』(東洋経済新報社)

たとえば、イギリスの産業革命のときは、新しい技術が登場したものの多くの人の生活水準は向上しませんでした。そのうえ、生まれ育った土地を離れて都市に移り住む人が増え、昔ながらの地域や家族から支援を得ることができずに孤独感を抱えながら働く人も多かったようです。このような方々は、新技術の恩恵を実感しにくかったことでしょう。これが、技術的発明があったとしても社会的発明が生まれていない状況です。

本記事の冒頭で触れたように、メールやチャットでの連絡やオンラインでの会議参加が一般的になりつつある現在。イノベーションの結果として生まれた技術的発明を活用しながらも、職場からの緊急連絡先は電話が指定されていたり、出社率の目安(あるいは、在宅勤務率の上限)が設定されていたり。そんな職場は少なくないのではないでしょうか。

生産性を上げる技術は積極的に採用するけれど、従来の働き方を柔軟に変えるレベルには至っていない、ということですね。技術を活用した先の未来として、人びとの生き方や働き方はどうあるべきか、という観点での発明が社会的発明ということになります。

物語・探索・関係

本書では、人生100年時代において人々がその可能性を開花するための3要素に多くの紙幅を割いています。その3要素とは、「物語」「探索」「関係」。

*物語 自分の人生のストーリーを紡ぎ、そのストーリーの道筋を歩むこと。それは、人生に意味を与え、人生でさまざまな選択をおこなう際の手引きになるような物語でなくてはならない。具体的には、以下の問いに答える必要がある。「私はどのような仕事に就くのか」「そのために、どのようなスキルが必要になるのか」「どのようなキャリアを築くのか」「老いるとはどのような経験なのか」

*探索 学習と変身を重ねることにより、人生で避けて通れない移行のプロセスを成功させること。以下の問いに答える必要がある。「長寿化によりキャリアの選択肢が広がるなか、どのように選択肢を検討するのか」「そのために必要なスキルは、どのようにして身につけるのか」「どのような変化を試みて、これまでより多くの移行を経験する人生をどうやって歩んでいくのか」

*関係 深い絆をはぐくみ、有意義な人間関係を構築して維持すること。以下の問いに答える必要がある。「家族のあり方が変わりつつある状況に、どのように対処するのか」「子どもの数が減り、高齢者の数が多くなる世界は、どのようなものになるのか」「世代間の調和を実現するために、私やほかの人たちには何ができるのか」

なかでも、私の心に響いたのは「探索」の章です。現在、20代や30代という方にとっても大変興味深い研究成果や指摘が豊富です。肌感覚としても共感できる点が多いと思います。

たとえば、以下は日本の金沢市で暮らす20代半ばのヒロキ。架空のキャラクターではありますが、同じような考えを抱く日本の若者は少なくないことでしょう。

 現時点では、将来どのような人生を生きたいかは、まだ決まっていない。いま見えているのは、将来こんな人生を送るかもしれないという可能性だけだ。だからこそ、ヒロキはいま探索に重きを置いているのだ。たとえ短い期間でのさまざまな活動をおこない、選択肢を狭めずに、それぞれの進路を進んだ場合にどれくらいの喜びを感じられるかを知っておくことには、きわめて大きな価値がある。

引用元:アンドリュー・スコット(著)、リンダ・グラットン(著)、池村千秋(翻訳)『LIFE SHIFT2: 100年時代の行動戦略』(東洋経済新報社)

一方、ヒロキの父親はこの考えに戸惑ってしまいます。その理由も納得のいくもので、日本社会のあちこちで生じている葛藤が目に浮かびます。本書で日本在住のキャラクターが登場しているのは、それだけ日本が高齢化が進んでいて、さまざまな課題を抱えているからでしょう。

 選択肢の重要性を訴えるヒロキの主張に、父親は戸惑わずにいられない。起業したいという息子の思いは理解できるが、成功する確率が乏しく、リスクの大きな選択に思えるのだ。親戚に起業家はいないし、友人や知人のなかにもいない。そのため、息子が起業家になるために何をする必要があるのか、起業家になった場合にどのような未来が待っているのかが想像しづらいのだ。将来ほかのことをしたいと思うかもしれないので、親と同じ会社には勤めたくないとか、しばらくはその会社で働くかもしれないが、のちに別の道に進むかもしれないという息子の理屈は、とうてい理解できない。

引用元:アンドリュー・スコット(著)、リンダ・グラットン(著)、池村千秋(翻訳)『LIFE SHIFT2: 100年時代の行動戦略』(東洋経済新報社)

企業・教育機関・政府の課題

個人レベルの「物語」「探索」「関係」を再考するだけでは、社会的発明にはつながりません。そこで本書は最後に、企業の課題、教育機関の課題、政府の課題を述べて、提言をまとめています。

企業の課題の章では、以下の記述が心に響きました。

 企業などに雇われて働いている人の大半は、多かれ少なかれ、職場の柔軟性が足りないと感じている。柔軟性が欠如している結果、社員が人生でさまざまな出来事を経験するうちに、社員が望む勤務時間と実際に認められる勤務時間の間にどうしてもズレが生じる。研究によると、人は人生のある時期にそうしたズレを経験すると、人生の次の段階では、自分の望む働き方をするために職を変える場合が多いという。
 柔軟な働き方は、勤務時間と業務プロセスを標準化させたい企業側の事情とぶつかり合うこともあって、企業になかなか受け入れられない。そのため、柔軟な働き方を実践し、働く時間を自分で決めたいと望む人は、給料が少なくなる場合が多い。ここにジレンマが生まれる。柔軟な働き方をすれば育児や介護をしやすくなるが、ほとんどの場合は収入が減ってしまう。仕事と私生活が真っ向から衝突するのだ。このように、柔軟な働き方をする人が代償を払わされるのであれば、男女の所得格差は解消されない。

引用元:アンドリュー・スコット(著)、リンダ・グラットン(著)、池村千秋(翻訳)『LIFE SHIFT2: 100年時代の行動戦略』(東洋経済新報社)

看護師が職を離れたあと、約70万人が復職する選択をしないというデータがあります。

理由はさまざまだと思うのですが、資格を持っているのにそれを眠らせたままにしておく理由の一つに、上記の指摘が該当するのかもしれません。また、女性が育児や介護といった無償労働に費やす時間が多いこと、介護離職する方が数多く存在する実状を考えると、企業側もより柔軟な働き方を認めていく流れにならざるを得ないのでしょう。

本書は幅広い年代、幅広い職種の方にとって得るものが多い一冊です。個人レベルでも組織レベルでも将来を考えるための良書と思います。

関連書籍

  • リンダ グラットン(著)、アンドリュー スコット(著)、池村千秋(翻訳)『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』(東洋経済新報社):今回ご紹介した『LIFE SHIFT2』は、こちらの続編です。読んだ後は、人生全般について今後の生き方を再検討せざるを得ない。そんな本です。

  • リンダ・グラットン(著)、アンドリュー・スコット(著)、宮田純也(監修)、未来の先生フォーラム(監修)『16歳からのライフ・シフト』(東洋経済新報社):2023年8月に高校生向けのLIFE SHIFTが出版されました。若者にぜひ読んでいただきたい一冊です。

  • リンダ・グラットン(著)、池村千秋(翻訳)『ワーク・シフト ― 孤独と貧困から自由になる働き方の未来図〈2025〉』(プレジデント社):LIFE SHIFTの著者であるリンダ・グラットン氏が働き方に焦点を当てた一冊。働き方を見つめ直すきっかけに。具体的な人物像をあげて未来の暗い面と明るい面を検討するので、著者の言わんとすることがイメージしやすいです。

最後までお読みいただき有り難うございました!


♪にほんブログ村のランキングに参加中♪

ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村 本ブログへ にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ にほんブログ村 本ブログ おすすめ本へ にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ
PVアクセスランキング にほんブログ村
タイトルとURLをコピーしました