築地市場の移転問題や新型コロナウィルス感染症のニュースで連日のようにお見かけした小池百合子都知事。「小池劇場」や「3つの密」など、新たな流行語を生むキーパーソンだったことは言うまでもありません。元キャスターならではの滑舌、言葉選び、テレビ映えする身振り手振りが印象的ですよね。
今回は、そんな小池都知事や都政の日常をかいま見ることができる「ハダカの東京都庁」をご紹介します。著者は、元東京都人事課長、都庁OBとして知られる澤章(さわあきら)氏。なんと、石原慎太郎知事時代に4年ものあいだ、都知事のスピーチ用原稿を作成していたというご経歴の持ち主です。
こんな方にオススメ
- 東京都の職員として働くことを考えている方
- 東京都の職員として働いている方
- 東京都に住んでいる方
- 都庁職員や都知事の日常を知りたい方
著者は、都庁から外郭団体へ再就職後、クビに
本書をもっとも魅力的にしているのは、なんといっても著者の経歴でしょう。先に述べたとおり石原都知事のスピーチライターでもあった澤氏ですが、2020年に仕事を失うことになってしまいました。
2020(令和2)年3月、一冊の本が出版された。『築地と豊洲「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』(都政新報社)である。この本によって自らの暗部をえぐり出された小池百合子知事は激怒した。実際、都庁では発禁本のような扱いを受けた。
引用元:澤章『ハダカの東京都庁』(文藝春秋)
筆者は出版だけでは満足せず、その後、週刊誌の誌面に登場するなど、小池都政への批判的な発言を繰り返した。結果、1年前に定年退職して与えられたある外郭団体の理事長職を、本の出版からわずか4か月後の7月末に解任された。
実際、本書では小池都政に対する厳しい指摘がたくさん登場します。小池都知事ファンの方にはやや耳の痛い記述もあることと思いますが、これまでブラックボックスだった都庁の実態を知ることができるという点では、大変意味のある一冊です。
働き始めても試験勉強に追われる職員
実は私の知人にも、都庁職員が何人かいます。「管理職試験の準備が大変なんだよね…」といった言葉はよく聞くのですが、自分自身が都庁に勤めていないこともあって、
試験って何?そんなに重要なの?
などなど、話の内容がよく理解できないことが多々ありました。
都庁では、年間を通して多種多様な試験が実施されている。採用試験、主任試験、管理職試験、それぞれの試験はさらに細分化されている。いったい何十種類の試験があるのか。しかも、受験者は何百人、何千人規模である。
引用元:澤章『ハダカの東京都庁』(文藝春秋)
どうも、この管理職試験に受からなければ、その先の出世への道も閉ざされてしまうとのこと。学業を終えて社会人として働き始めたあとも試験勉強に苦しむとは…大変だなぁ。
しかも、この試験はすべて都庁の職員が自前で作成しており、試験作成がメイン業務の「試験部」という部署まで存在するということです。場合によっては外注の方が低コストなのでは?という疑問が湧きますが、情報漏洩を警戒してこのような伝統が続いているのかもしれません。
副知事になる方法
しかし、試験を突破すれば誰でも副知事にまで上り詰めることができるわけではありません。では、副知事になる人物ってどんな方でしょう?ここでも著者の歯に衣着せぬ考察が光っています。
石原都知事時代には、カラオケがうまいというだけで(!?)副知事に抜擢された人物もいたようだが、副知事は、なりたくてなれるポストではない。時の運、知事との相性など、不確定要素が大いに絡む。それでも、副知事になれる、なりやすいタイプというものがある。専門分野で信頼を勝ち取るか、あるいはイエスマンになり切るか、この二つのどちらかである。
引用元:澤章『ハダカの東京都庁』(文藝春秋)
著者によれば前者の「専門分野で信頼を勝ち取る」ケースは稀とのこと。やはり役人の運命なのか、後者の「イエスマン」、すなわち、知事に逆らわず意見も主張せず、調整役に徹するタイプが副知事に抜擢されることが多いようです。
思うに、これは都庁だけではなく多くの民間企業にも当てはまる事実ではないでしょうか?悲しいかな、「なぜあの人が部長に?」「役員が現実を理解していない…」というぼやきは会社員の内輪飲みで頻繁に交わされる話題であり、官民ともに悩ましいものであるようです。
謝罪会見のお辞儀の静止時間と角度
もう一つ、民間企業と似ているなと思ったのが、謝罪会見での対応です。築地市場の移転時、豊洲市場の地下にあるべき盛り土がなく、謎の空間の存在が明らかになりました。そして、当時著者は中央卸売市場次長としてこの謝罪会見に挑むことになったのですが、そのときのくだりがこちら。
担当の副知事、市場長そして私の3人が深々と頭を下げる写真が、翌日の新聞各紙を飾った。今見ても美しいお辞儀と言わざるを得ない。
引用元:澤章『ハダカの東京都庁』(文藝春秋)
会見という公の場で謝罪する機会というのは民間企業においてはかなりレアケースといえるでしょう。しかし、理由のいかんを問わず顧客先で謝罪しなければならないケースというのは往々にしてあるもので、上司・部下揃ってお客様のところへ謝りに行く、というのはよくある話です。
さて、著者が自画自賛する「美しいお辞儀」の秘訣とは!?
お辞儀の静止時間とともに重要なのがその角度、そして複数で頭を下げる際にはどうシンクロさせるかである。
引用元:澤章『ハダカの東京都庁』(文藝春秋)
(中略)
事前の打ち合わせが功を奏した中央の副知事のタイミングに残りの2人が合わせると決めていたのだ。都庁の後輩の皆さんには是非、今後の参考にしていただきたいものである。
私はこれまで、幸いにしてお客様に直接謝罪に行く機会はありませんでしたが、実際に謝罪に向かった方は皆同じことを言います。
お辞儀のタイミングと角度を全員で合わせることが重要だ!
お客様先に謝罪に行く前にわざわざ練習するほどです。お辞儀の美しさで心からの謝意を示すことが出来るのか?という議論はともかく、これは社会人必須のノウハウなのかもしれません。新社会人の方は、よく覚えておきましょう!
巻末付録の歴代都知事の斜め切り寸評が興味深い
さて、さいごに巻末付録に言及して私のご紹介を終えることにしようと思います。都知事といえば著名人も多く、残念ながらいくつかの失言や不祥事も世間に広く知られているところです。歴代の都知事に、直接的にも間接的にも仕えてきた都庁職員ならではの評価、気になりますよね!
冒頭で述べたとおり著者は小池都政への批判から職を失った面もあり、現知事の小池氏へは辛口の記述が目立ちます。
私自身、事実を確認していない状態で当サイトにてこれらの記述を取り上げるのもやや憚られますので、詳細は本書をお読みいただければと思います。
一点、先日亡くなった石原慎太郎元都知事に対する評価を引用しましょう。スピーチライターとしても奉仕したということですから、著者が最初に深く関わりを持つ機会を得た都知事でしょう。
180センチを超える体躯、大学在学中の芥川賞受賞、銀幕スターの石原裕次郎の兄……どれをとってもサラブレッド感満載のこの人物を、評論家江藤淳が「無意識過剰」と評したエピソードは有名である。確かにそうかもしれないが、私の印象はちょっと違っている。「マッチョを演じ続けることを自らに課した神経質な小心者」といったところだ。
引用元:澤章『ハダカの東京都庁』(文藝春秋)
そんな石原氏最大の武器は、なんといってもあの笑顔だったと私はにらんでいる。どんなに暴言を吐こうが差別的な言動をしようが、彼がニッと笑うだけで、世の奥様達はコロッといってしまう。人たらしの手法は人それぞれであり、誰もが持ち合わせているわけではないが、少なくとも政治家に求められる資質の一つであるのは間違いない。そうしたことからすれば、少なくとも後述の都知事たちには、悲しいかな、この才能がほぼゼロだったと言わなければならないだろう。
「マッチョを演じ続けることを自らに課した神経質な小心者」。なかなか的を射た表現ではないでしょうか?石原氏の作品、あらためて読んでみようと思います!
関連書籍
- 石原慎太郎『太陽の季節』(新潮社):石原氏が一橋大学在学中に芥川賞を受賞したこの作品。さまざまな議論を読んだことでも大変有名ですね。
- 石井妙子『女帝 小池百合子』(文藝春秋):こちらは小池氏の半生を独自取材でまとめた一冊。学歴に関する議論を読んだことでも話題になりました。
最後までお読みいただき有り難うございました!
♪にほんブログ村のランキングに参加中♪