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【書評】成瀬は止まらない!滋賀愛が弾ける「成瀬は信じた道をいく」を読む

【書評】宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社) 書評

滋賀県、みなさんは行ったことがありますか? 滋賀県といえばやっぱり日本最大の淡水湖、琵琶湖が有名ですよね。ただ、どこか地味な印象は拭えず、東京都を中心とした関東圏での生活が長い私としては、近隣の京都府・大阪府などの陰に隠れてしまっている…というイメージがあります。

さて、そんな滋賀県にスポットライトを当てて書かれた小説が話題となりました。2021年、第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞・読者賞・友近賞をトリプル受賞した『ありがとう西武大津店』が、2023年に『成瀬は天下を取りにいく』として出版。連作短編集である本作の主人公、成瀬あかりの圧倒的なキャラクターも読者から多くの支持を得ました。

今回ご紹介するのは、そんな『成瀬シリーズ』の第2弾。『成瀬は信じた道をいく』です。実は、前作の『成瀬は天下を取りにいく』を読まずに2作目を読み進めたのですが、物語を楽しむうえでの支障は全くなし! 読後感も爽やかで、ひたすら楽しい読書体験となりました。さっそくご紹介していきます!

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こんな方にオススメ

  • 話題作を読みたい
  • 地域のリアリティが感じられる小説に触れたい
  • 気軽な気持ちで読書を楽しみたい

主人公、成瀬あかり

我が道を突き進む成瀬あかりは、本人も気づかないうちに多くの人びとに影響を与えて生きています。どこからどうみても天才肌なのですが、どこか醸し出されるその独特な雰囲気に友達になりたいと思う読者がきっと多いことでしょう。

というのも、小学校やスーパーなどローカルネタをふんだんに織り交ぜて綴られるこの物語では、そのキャラクターに対して、近寄りがたさよりも親しみやすさが感じられるからです。

そんな成瀬の人生のうち、本作では高校3年生の秋から大学1回生の冬のあいだの出来事が収録されています(前作は、中学2年生の夏から高校3年生の夏とのこと)。各作品の見どころを見ていきましょう!

ときめきっ子タイム

「成瀬さんはこの学校の卒業生です」
 校長先生がもったいぶって言うので、「それは知ってるよ」と心のなかで突っ込みを入れる。
「これは成瀬さんが五年生のときに、琵琶湖の絵コンクールで琵琶湖博物館長賞をもらった絵です。成瀬さんから寄贈されて、飾ってあります」
「校長先生は成瀬さんを知っているんですか?」
 結芽ちゃんが尋ねると、校長先生は首を横に振った。
「わたしも直接は知りません。三年前、この学校に来たときには成瀬さんを知る先生が多くいて、いろんな話を聞かせてくれました。夏休みの自由課題を全部やってきたとか」

引用元:宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)

大津市立ときめき小学校に通う四年生の北川みらいは、ときめき地区で活動している人を調べてみんなの前で発表することにします。調べる相手は、高校生コンビのゼゼカラ。「ゼゼカラ」とは、成瀬あかりと島崎みゆきの二人組によるコンビで、その名は「滋賀県大津市の膳所(ぜぜ)から」に由来しています。

恥ずかしながら、私はこの作品を通して「膳所」という地名を初めて知りました。そして、成瀬あかりに出会わなければ「ぜぜ」という読み方を一生知らずに人生を終えていたかもしれません…。関西圏の方や日本史に明るい方は、すでにご存じかもしれませんね。歴史ある街で、調べれば調べるほど訪れたい観光スポットが出てくる地域です。

この作品の見どころは、みらいちゃんが成瀬ガチ勢となってゆく姿でしょう…!

成瀬慶彦の憂鬱

 思えばあの頃のあかりは本当にかわいかった。慶彦のことを「パパ」と呼び、帰宅すると玄関までてちてち出てきて抱きついてきたものだ。
 今のあかりだってもちろんかわいいのだけど、どこか「思ってたんとちゃう」という違和感が拭えない。父親と口を利かない年頃の娘と比べたらまだ恵まれているのかもしれないけれど、あかりとは口を利いたところで何を考えているか読めない。
 だいたい、塾にも行かずに京大を受けるのもすごすぎてわけがわからない。ほかの大学には興味がないそうで、すべり止めも受けなかった。美貴子は短大卒だし、慶彦もそれほど偏差値の高くな私立大学を出ているのに、だれに似たのだろう。先月受けた大学入学共通テストも膳所高で一番だったそうで、担任からは京大の二次試験も普通に受ければ普通に受かると言われたらしい。

引用元:宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)

父親から見た成瀬あかりのマイペースっぷりを知ることができる作品です。成瀬あかり以外の登場人物たちもとっても個性的で、大学受験という人生の重要な局面であるにも関わらず、繰り広げられるやりとりはほんのりのどか。

そして、こちらの作品は新潮社の公式サイトで全文試し読みができます

やめたいクレーマー

 今日もわたしはフレンドマートにお客様の声を響かせる。備え付けのボールペンはインクが切れていることが多いので、マイボールペンを持参している。インク代が自己負担になってしまうが、ストレスなく書くためにはやむを得ない。さっき我が身に起こったことを、相手に伝わるよう丁寧に説明する。

引用元:宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)

私のイチ押しはこちらの作品! 本作で登場する呉間言実(くれまことみ)は、超が付くほどの大クレーマー。連日、フレンドマートというスーパーでお客様の声コーナーに立ち寄りマイボールペンでクレームを書き投函します。

クレーム用のマイボールペンを常備しているという点では、成瀬に負けず劣らずの個性が光っています。そんな呉間言実の一挙手一投足にクスッとさせられました。そして結末は…!! クレーマーの未来は明るい!?

コンビーフはうまい

「瀬をはやみ~の成瀬あかりでございます。本日はびわ湖大津観光大使として初の活動となります。現在は敦賀駅より北陸新幹線つるぎにて金沢駅を目指しているところです。金沢といえば石川県の県庁所在地であり、加賀百万石の歴史があることでも有名でございます。我々はびわ湖大津の代表として、恥ずかしくないPRを行う所存です。この投稿をご覧になっている金沢近辺の方につきましては是非本日の十七時までに金沢駅コンコースにお越し下さい。びわ湖大津観光大使のたすきをつけて篠原かれん氏とお待ちしております。 #金沢駅 #びわ湖大津観光大使 #びわ湖大津観光協会 #大津市」

引用元:宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)

表題の「コンビーフはうまい」は、成瀬の自宅電話番号の語呂合わせ。語呂合わせの理屈としてはムリがあるものの、不思議と一度聞いたら覚えられるという番号のようです。

わたし
わたし

どんな番号なんだ…!(笑)

本作で成瀬とびわ湖大津観光大使のペアを組む篠原かれんも、なかなか魅力的なキャラクターです。びわ湖大津観光大使になるために生まれてきた、彼女の行動とは!?

探さないでください

「あかりがね、この書き置きを残して消えたの」
 お母さんが差し出した紙には、筆ペンで「探さないでください あかり」と書かれている。古いマンガとかドラマで見たことがあるやつだ。わたしは思わず笑いそうになったけど、心配しているお父さんの手前、笑うわけにもいかない。

引用元:宮島未奈『成瀬は信じた道をいく』(新潮社)

ここまでの登場人物が再び登場して、行方をくらませた成瀬をみんなで探す本作。意外な結末に驚かされます。途中でちょっぴり涙腺がゆるむ場面も…。先が読めない成瀬の行動をみんなで推測し、愛情・友情たっぷりに大団円を迎えます。

関連書籍

  • 宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社):今回ご紹介した『成瀬は信じた道をいく』の前作で、成瀬あかりシリーズの第1作で、著者の宮島未奈氏のデビュー作です。文庫版は2025年6月25日に発売されました!

  • 宮島未奈『婚活マエストロ』(文藝春秋):著者の「成瀬シリーズ」の後に出版された長編小説です。こちらの主人公は40歳の男性(!)と成瀬あかりとはまた違った雰囲気で、「婚活」がテーマとなっています。

  • 柳美里『JR上野駅公園口』(河出書房新社):東日本にお住いの方は、JR上野駅を舞台に描かれたこちらの小説もオススメです。東北からの玄関口となる上野駅は、関東近辺に住んでいる人々にとっても馴染みのある場所。深いテーマを内包しており、全米図書賞・翻訳文学部門も受賞しました。記事を書きましたので、宜しければお読みください。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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