「アセスメント」ということばを聞いたとき、あなたは何を思い浮かべるでしょうか? 直訳すると「評価・査定」となりますが、この「査定」ということばは日常的に頻繁に使われる用語ではないので、ちょっとイメージしにくいところかもしれません。
「アセスメント」いうことばで私がまず思い出すのは、「心理検査」でした。質問紙などを用いて、客観的な形で検「査」して状態を見「定」める、という考えです。
ですから、「心理的アセスメント」という名の科目についても、「心理検査」の選定や作成、実施、解釈を学ぶ授業なのかな? と当初浅い理解でおりました。が、「アセスメント」とは心理検査のことだけを意味するのではなく、より広い意味でご相談者さんの人柄や相談背景を「査定」していく技術だったのです!
これは、もしかしたら私のような臨床心理支援の初学者に多く見られる誤解なのかもしれません。公認心理師や臨床心理士を目指す方はもちろん、対人支援に関わる職種の方にとって心理的アセスメントの理解は必須といえるでしょう。
今回は、心理支援の実践において理解必須の「心理的アセスメント」の印刷教材(テキスト)をご紹介します。
書籍は全国の書店などで購入できます。放送大学生でない方も、本科目の講義はBS放送などのテレビで視聴可能です。詳しい視聴方法は以下をご参照ください。
放送大学科目の書評記事のまとめはこちら
放送大学の科目についての書評記事は以下にまとめました! ご興味あればご参照ください♪
本講座の基本情報
本講座「心理的アセスメント」は、放送大学で開講されている科目です。
- 2020年度開設(2026年度に改訂予定)
- 放送授業(ラジオ配信)
- 心理と教育コースの専門科目
具体的なシラバスはこちらからご参照ください。
放送授業はラジオで公開されており、書籍はAmazonほか各書店でお買い求めいただけます。各地域におけるテキスト取扱書店は下記をご参照ください。
こんな方にオススメ
- 公認心理師を目指している
- 対人支援に関わる仕事がしたい
- さまざまな現場におけるアセスメントの実際を知りたい
目次
本書の目次は下記のとおりです。全15回の放送授業に沿った章立てとなっております。
1 心理的アセスメントとは何か
2 アセスメントの方法
3 面接法によるアセスメント
4 心理検査によるアセスメント(1) - 投影法
5 心理検査によるアセスメント(2) - 質問紙法
6 心理検査によるアセスメント(3) - 発達検査
7 心理検査によるアセスメント(4) - 知能検査
8 心理検査によるアセスメント(5) - 神経心理学的検査
9 行動観察によるアセスメント
10 アセスメント計画の実際
11 医療場面のアセスメント
12 教育場面のアセスメント
13 福祉場面その他のアセスメント(1)
14 福祉場面その他のアセスメント(2)
15 アセスメントから支援へ
心理的アセスメントとは
本記事の冒頭で述べたとおり、アセスメントとは単なる「査定」を意味するのではありません。その歴史的背景から、行動、面接、心理検査の3つによるアセスメントが存在するということです。
アセスメントという言葉が心理学の領域で使われるようになったのは、1940年頃に遡る。米国戦略局 U.S. Office of Strategic Services による、第二次世界大戦中の特殊任務の人員選抜方法(アセスメント・センターで数日間の集団生活を行い、その中で多くの方法を使った情報収集が実施され、個々人の資質を把握したもの)についての報告書”The Assessment of Men”がそれである。アセスメントの方法としては、行動、面接、心理検査が用いられた。
引用元:森田美弥子、永田雅子『心理的アセスメント(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
現代の心理支援の場においても、行動、面接、心理検査によるアセスメントが実施されている。
心理検査については、想定していたとおり本書でその実施方法や解釈について学びを深めることができました。面接や行動によるアセスメントは、「言われてみればなるほどな」という内容で、すでに実務でインテーク面接をしていたり相談対応をしている方にとっては復習の内容となるかと思います。
いま現在、実務でそのような機会がないという方にとっては、基本的な態度を身につけることができる内容となることでしょう。
行動観察によるアセスメントの事例
人を対象とした技法であることから、形式的な項目をあげての解説だけではなかなか理解できないものです。そこで本書では、著者が実際に経験したことを省略・加工して、いくつか事例としてあげています。
たとえば、次のような説明があります。
[例7] 「何をやってもうまくいかない」と落ち込んでいるクライエントが来談した。さまざまなエピソードを語りながら、いかに自分がダメな人間か、ということを切々と訴えかけてくるのだった。しかし、その日は Fight!と書かれた真っ赤なTシャツを着ていたことが、担当者には印象に残った。
引用元:森田美弥子、永田雅子『心理的アセスメント(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
落ち込んでふさいでいる雰囲気の表情や話し方と服装とに違和感をもたされる場面であった。[例3]でも述べたように、服装の選択が無意識のメッセージ性を帯びていることがある。頑張りたいという自分に対するメッセージであったり、頑張っている自分をアピールしたいという相手へのメッセージであったりする。
こういった事例は、支援の場に限らず日常生活の場面でもときどき見られるかもしれません。たとえば、「何ということはない用事ではあるのだけれど、最近は少し気分が落ち込み気味なので、香水をちょっとだけ振りかけて外出する」など。実は、これは私がときどきやる方法です。そういうことって、ありませんか…?
支援の場では、支援者が抱いた違和感を大切に取り扱いながら、目の前の相談者のこころの状態を推し量ることの重要性に気づかされます。
病態水準論
本書で心理的アセスメントを学ぶなかで最も印象に残ったのは、「病態水準論」という考え方です。
見立てでは、認知や情動やパーソナリティの特徴、あるいは日常生活で生じやすい行動のように、具体的な理解・予測を行う。しかし、Clの病理(住まう世界構造、抱える心理的課題の程度)を全体的な人間像から捉える方法も治療上は有益である。例えば、上述の酒井さんの事例では、パーソナリティ障害との大まかな見立てがなされた。これを支えた考えを病態水準(病理水準)論という。
引用元:森田美弥子、永田雅子『心理的アセスメント(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
これは、ともすれば、症状の程度により疾患を判断するマニュアルのDSM(米国精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアル)やICD(国際疾病分類)に頼りがちな心理職の態度を戒めているのです。
(中略)現在の精神医療は、症状を重要視する思潮にある。そうした中でも、いわば心的な体系としてClを捉えようとする病態水準論は、部分的な修正の必要性こそあれ、有用性は何ら衰えていない。病態水準論はDSMやICDとは異なる哲学をもち、医学モデルとは別の視点をもたらすからこそ、心理職の専門性を支えるのであるーー心理職を精神科医のミニチュア版と定めて医学的診断を重視するなら、こうした考えは生まれないだろう。精神分析学派と相性の悪さを感じる人にも学んでおくことを推奨したい。
引用元:森田美弥子、永田雅子『心理的アセスメント(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
DSMもICDもその時代の実状に合わせて定期的に改訂されており、ある時点での診断結果が将来別の病名で診断されたり、病理水準ではないと判断される可能性がある基準。もちろんその逆もしかりで、これまで病理水準ではないとされてきた方が、将来○○症と名の付く病気であると判断される可能性はあります。
こうした診断基準の活用はもちろん必要とは思うのですが、別の観点でのアセスメントも重視して総合的にクライアント像を捉えていく必要があるのでしょう。学びを深めれば深めるほど視野が狭くなってしまうのは意外とよくあることですので、そういう意味でもさまざまなアセスメント手法を知っておくということの大切さを学びました。
関連書籍
- 森津太子、向田久美子『心理学概論(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):心理学を学ぶ方は、まずこちらの書籍からスタートすると良いです。2024年度には改訂版が登場し、よりパワーアップしています。2018年度版について記事を書きましたので、宜しければお読みください。
- 倉光修『臨床心理学概論(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):臨床心理を学ぶ方は、こちらを是非一読ください。臨床心理学の基礎が学べます。記事を書きましたので、宜しければお読みください。
- 大山泰宏『心理カウンセリング序説: 心理学的支援法(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):カウンセリングや心理療法をさらに深く学びたいという方にはこちらがオススメです。記事を書きましたので、宜しければお読みください。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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