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【書評】身近な人の生死を考えさせられる甘酸っぱい青春小説!「君の膵臓をたべたい」を読む

【書評】住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社) 書評

大切な人を失うのは、とても悲しいことです。

私は、2022年に家族の死を経験しました。2人の祖父との急なお別れに呆然とし、法事などの忙しさに目をぐるぐるさせながらその悲しみに日々向き合ってきました。こういうとき、どうしても目が向くのは人の人生であるとか、生き死ににまつわる本です。

さて、そんな経緯で今回ご紹介するのは、『君の膵臓をたべたい』。世間に広く知られているように、膵臓は生命維持において極めて重要な臓器です。しかしながら、サイレントキラーとも呼ばれる膵臓がんでは、早期発見が難しいことも有名ですよね。

実は以前、住野よる氏の小説『か「」く「」し「」ご「」と「』を読み、なんてほんわかした世界観なんだ…!と癒され、かつ感動したことを思い出し、今回そのデビュー作を手にすることにしたのです。

本作は2016年本屋大賞第2位、Yahoo!検索大賞小説部門賞など数々の賞を受賞した作品です。さて、さっそく概要を見ていきましょう。

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こんな方にオススメ

  • 甘酸っぱい青春小説が読みたい
  • 生死にまつわる物語を読みたいが、暗い話は苦手だ
  • 住野よる氏の小説が気になる

物語は葬儀から始まる

この物語の最初の文はこちら。なんと!登場人物の葬儀からスタートします。

 クラスメイトであった山内桜良の葬儀は、生前の彼女にはまるで似つかわしくない曇天の日にとり行われた。

引用元:住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社)

そして、そのまま読み進めていくと、本作のタイトルがすぐに登場します。

 僕が、クラスメイトだった彼女に送ったメールだ。
 たった一言のメール。
 これを、彼女が見たのかどうかは知らない。
 一度は部屋を出て台所に行こうとしたのだけど、僕はもう一度ベッドに突っ伏した。彼女に贈った言葉を心の中で反芻した。
 僕は、彼女がそれを見たのか知らない。
 『君の膵臓を食べたい』
 見ていたとして、彼女はそれをどう受け取っただろうか。

引用元:住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社)

序盤で本作タイトルが登場しているけれど、どうも主要人物であるらしい山内桜良というクラスメイトは、すでに他界しているわけです。この時点で、かなり想像力を掻き立てられてしまいますよね!

余命幾ばくもない女子高校生と、名前が無い男子高校生

そして、物語は過去に戻り、この山内桜良との一連の交友関係が、あるクラスメイトの男子高校生の視点から語られていきます。2人をざっくりと紹介すると、以下のとおり。

僕(主人公)

ひょんなことからクラスメイトの山内桜良の秘密を知ってしまった男子高校生。友達がおらず、もっぱら小説を好んで読む。山内桜良は、自分と正反対の存在だと感じている。

「君は僕とは反対の人だから、僕が思いそうにないことを、君が思っているのだろうなと。(後略)」

引用元:住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社)

山内桜良(やまうちさくら)

とても明るく友人も多いが、膵臓の病気により余命一年未満との宣告を受けた女子高校生。親友やクラスメイトには病気の事実を一切隠している。

「どうしてもっていうなら【秘密を知ってるクラスメイト】くんに残り少ない私の人生の手助けをさせてあげてもいいよ」

引用元:住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社)

この物語の特殊な点は、主人公の名前が登場しないことでしょう。上記のように、【 】で括られた内容によって、発言者が主人公をどう認識しているのかが示されます。物語が進んでいくにつれて、この【 】の中身がどんどん変化していく点に要注目です。

共病文庫

また、葬儀から始まるこの物語の重要なキーワードとなるのが「共病文庫」です。

 そして、彼女は死ぬまで『共病文庫』を誰にも公開しないと決めている。僕が彼女のドジにより見てしまった最初の一ページを例外とし、その生の記録は誰にも見られていない。どうやら死んだ後には全ての親しい人に公開するようにと両親に言っているらしく、現在の使われ方がどうあれ、周囲が受け取るのは死後である。ということはやはり、彼女の遺書だということになる。

引用元:住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社)

この「共病文庫」は、最後まで重要なキーワードとして残ります。最後はつい、涙してしまう仕掛けが。是非、ラストまでページをめくってください!

冗談混じりの文章のなかに突き刺さる一文が

すでに述べたとおり、本作は葬儀から始まるものの、過去に戻って2人の交友関係が展開されていきます。この交友関係においては基本的に悲壮感が無く、まさに高校生ならではの会話で、冗談の言い合いや恋愛トークがたっぷり。ブラックジョークさえ交わされています。

こうした冗談混じりの文章の中に、ふいに本質を突くような一文が登場するのも本作の素晴らしいところだと思います。

たとえば、隣の県で殺人事件が起きた時の出来事。テレビでは朝からその話題で持ちきりだったものの、学校内では誰も話題にしなかった点についての会話です。

「なるほどね」
 正しい意見かもしれない。普通に生きていて、生きるとか死ぬとか、そういうことを意識して生きている人なんて少ない。事実だろう。日々死生観を見つめながら生きているのは、きっと哲学者か宗教家か芸術家だけだ。あと、大病に侵されてる女の子とか、彼女の秘密を知ってしまった奴とか。
「死に直面してよかったことといえば、それだね。毎日、生きてるって思って生きるようになった」
「どんな偉い人の言葉よりも心に響く」

引用元:住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社)

本作では、小説全体に「死を間近に控える女子高校生」という設定が存在していますが、ただそれだけにとどまらず、読者が自身の死生観を哲学的に深めていくことを意図しているようでもあります。大切な方、身近な方の死を経験したことのない方には、とても考えさせられる物語といえるでしょう。

関連書籍

  • 住野よる『か「」く「」し「」ご「」と「』(新潮社):キュンキュンしちゃう青春小説。読み終わったあとは、是非、背表紙のQRコードからアナザーストーリーをお読みください!

最後までお読みいただき有り難うございました!


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