今回紹介するのは、池上彰さんの著書です。
池上彰さんと言えば、経済ニュースをわかりやすく解説することでとても人気ですよね!私は、池上さんの著書を読んでいると、いつも自分の見識が広がっていくのを実感します。教養に関する著書もたくさん出版されているなかで、今回取り上げるのは”読解力”に関する内容です。
こんな方にオススメ
- 日本人の読解力が低下していると感じる方
- 在宅勤務におけるテキストベースのコミュニケーションに悩んでいる方
- 読解力や教養を育みたい方
日本人の読解力の現状
2019年に発表された「PISA(学習到達度調査)」によると、2018年調査時の日本の高校1年生の読解力は79カ国・地域と比較して15位という結果でした。注目すべきは、前回2015年からの変化です。なんと、8位から15位へと大きく順位を下げていたのです。
調査年 | 読解力順位 | 読解力得点(平均) |
---|---|---|
2015年 | 8位 | 516点 |
2018年 | 15位 | 504点 |
この15位という順位、実は過去最低の順位でして、全国的に大きな波紋を呼びました。新聞各社も取り上げ、日本全体の読解力の低下を嘆く声が続出したのです。
さて、皆さんの身の周りで、日本人の読解力の低下を感じた経験はあるでしょうか?私はあります。
それは、職場で新人さんに仕事を教えていたときのこと。新型コロナウィルス感染症の急拡大を受けて在宅勤務が進むなか、業務説明もリアルな対面で行うのではなく、オンライン上で業務用チャット、メールを駆使してコミュニケーションを取る機会が圧倒的に増えました。
以下は、ある日の業務用チャットで起きた出来事です…
○○なので、△△しましょう。□□をお願いします。
分かりました!
真面目に取り組む姿勢が素晴らしく、明るく素直で大変好感が持てます。しかし、、
あれ? 期待していたアウトプットと違う。。
私の伝え方が悪かったのだろうか? 新人さんがチャットでの指示を読み取る力が弱いのかな? 当時、大変悩みました。その後は、試行錯誤して説明方法を工夫することで、なんとか本人の本来の力が発揮できるようになったのですが、よりよいコミュニケーションを行ううえで何かヒントがないだろうか? と手に取ったのが本書でした。
コミュニケーション方法の過去と現在
古くからの社会では、即時性の低い手紙で自分の思いを語り、相手に自分の思いや考えを理解してもらうように努める必要がありました。とりわけ戦時中などの異常事態では、検閲をくぐり抜けるために本音をはっきりとは示さずに真意を伝える工夫もなされていたのではないかと思います。こうした工夫はいずれも、読み手の読解力なしには成立しないものだといえるでしょう。
一方、現代のコミュニケーション方法を考えてみましょう。日本の全国民にとって身近な存在となったSNS。皆さんも利用していますか? メッセージングアプリとして圧倒的なシェアを誇るLINEは、スタンプ機能が豊富です。さて、言葉にしずらい複雑な思いがあるとき、ついついスタンプを一つ送るだけで終わりにしてしまっていませんか?
LINEでは、短い文章とスタンプで、会話のようにテンポよくやり取りをする人が多いでしょう。感情表現を文章で綴らず、スタンプや文章内の「絵文字」に頼ってしまうことで、受け手側は「文章で真意を理解する機会」を、送り手側は「文章で真意を表現する機会」を失い、つまりは読解力を鍛える機会を失っているのです。
引用元:池上彰『なぜ、読解力が必要なのか? 社会に出るあなたに伝えたい』(講談社)
上述した私の職場の事例で考えてみると、この池上氏の指摘はとてもよく当てはまります。まさにチャット上の会話でコミュニケーションに失敗していたのです。メッセージの送り手の真意をうまく汲みとることができずに、受け手側の解釈だけで物事が進んでしまう可能性があるということなのでしょう。
私に対して疑問・質問を気軽にしずらい雰囲気があったかもしれないな、という懸念は捨てきれません。このため、その後は業務上の指示をどのように受け取ったか逆質問するなどして、指示内容の理解度を確認するようにしました。
論理と情動
この本では、「読解力」とは何を意味するのかを俯瞰したうえで、「読解力」にとって必要な要素を述べ、「読解力」の伸ばし方を説明しています。
「読解力」と一口に言ってもその定義は人それぞれでしょう。たとえば、論理と情動という切り口であれば、以下のように定義できます。
情緒的読解力とは、自分とはまったく違う境遇の人、考え方が異なる人、自分がしたことのない体験をしている人に対しても共感できる力です。親の介護に苦労していたり、失業してしまったりといった人などの心を汲みとることができる力です。
引用元:池上彰『なぜ、読解力が必要なのか? 社会に出るあなたに伝えたい』(講談社)
(中略)
一方で論理的読解力はどんな力かというと、相手の主張を理解する力です。まら論理的読解力は、多角的なものの見方を身につけるための力であると言えます。
大学受験などにおける国語の試験では、唯一絶対の解が決められていることも多いです。しかし、こうした試験では論理的読解力に焦点が当たっており、共感力とも言い換えることができる情緒的読解力は、なかなか育みにくいのかもしれません。
私自身、学生時代にはあまり読書習慣がなかったのですが、その理由の一つとして「小説を読んでも受験勉強には直結しない」という考えがどこかにあったように思います。
社会人になってからは、この情緒的読解力の大切さが本当によく分かります。学生時代は同じ世代の仲間たちに囲まれていますが、会社のなかでは幅広い年代の方と一緒に仕事をすることになります。また、同じ職場で働く皆さんは家庭環境も様々で、独身、シングルマザー、DINKS、子育て中、両親の介護中などなど多種多様です。
もちろん家計事情というのはデリケートな領域ですので、各自の経済状況についての話題はほとんどしませんが、こうした多様性を見てもさまざまなことが簡単に想像できます。私は大人になってから小説や社会的ルポルタージュを好んで読んでいますが、こうした書籍は職場の方の人生を理解し配慮するうえで、一定の成果が出ていると感じています。
教養のつけ方は酒造りと似ている
教養に関しては、本書に次のような記述がありました。
知識を教養に変えていく方法は、たとえるならば、紀元前から人類が連綿と続けてきた酒造りの工程と似ています。ブドウをいっぱい集めて溜めておくと、ブドウに含まれる糖が発酵してワインになります。米は水と麹菌とともに発酵させると日本酒になります。これと同じく、知識がたくさん溜まり発酵が進めば、「教養」になるということです。
引用元:池上彰『なぜ、読解力が必要なのか? 社会に出るあなたに伝えたい』(講談社)
本を読んですぐにその効果を実感するようなことって、すごく稀なことではありませんか。その時々で自分の疑問を晴らしてくれたり、進むべき道を照らしてくれる素晴らしい本もありますが、読み手の都合ですべての本に即効性を求めるのは少し傲慢であるような気もします。
「よく分からないなぁ」という感想で終わりにしても良いのですが、その後も読書を続けていると、世の中のことがだんだん身近に感じられるようになり、興味・関心も広がっていくように思います。こうしたじわじわ感のある効果はたしかに酒造りと似ているかも知れません。
読解力の伸ばし方
最後に、読解力の伸ばし方(第4章、第5章)については本書の4割程度のページが割かれています。自分の読解力不足を感じている方は是非この箇所を読みましょう。言語の勉強法と同様、読む・書く・聞く・話すの4大スキルを主体的に鍛えることで、必ず道は開けます!
冒頭で挙げた新人さんとの関わりについてですが、何度かやり取りを繰り返す中で、ずいぶん円滑なコミュニケーションが築けるようになりました。私も新人さんも、対話を重ねることでお互いの考えていることを読み解く力が付いてきたのだと思います。これも成長の証ですね。
関連書籍
- 池上彰、ふじわらかずえ『池上彰のはじめてのお金の教科書』(幻冬舎):池上さんが小学生向けに行った講座をもとにして作成されているようです。池上さんならではの分かりやすい説明で、子どもにも大人にも理解しやすいお金の入門書といえるでしょう。
- 池上彰(監修)、佳奈(漫画)、モドロカ(画)『なぜ僕らは働くのか 君が幸せになるために考えてほしい大切なこと』(学研プラス):「働く」ということについてさまざまな観点から考えを深める良書です。小中学生向けに製作された本でして、全編ふりがな付きでイラストも豊富、かつ難しい表現もありませんので、とっても読みやすい。大人が読むにも申し分ないというところが誰にもオススメできる最大のポイントです。本サイトでも別記事で紹介していますので、宜しければ併せてご参照ください。
- 池上彰『独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層』(文藝春秋):ウクライナ情勢への理解を深めるための一冊です。日本とロシアを取り巻く北方領土問題の基本や中国共産党の動きについても学べる良書です。本サイトでも別記事で紹介していますので、宜しければ併せてご参照ください。
最後まで読んでいただき有難うございました!
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