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【書評】ウクライナ侵攻の背景は?池上彰氏が国際情勢を解説!「独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか」を読む

【書評】池上彰『独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層』(文藝春秋) 書評

ロシアがウクライナへの侵攻を開始したのは2022年2月24日。あれから1年以上が経過しました。今回は、ウクライナ情勢への理解を深めるための一冊をご紹介します。

著者は池上彰氏。本書は、週刊文春に連載されていた「池上彰のそこからですか!?」を再構成し、加筆修正したものです。情勢理解のために役立つ歴史の話だけでなく、知的好奇心をくすぐられる雑学も豊富なところが魅力でしょう。

さらに、関連内容として、中国・習近平主席に対する話題も掲載。巻末にはブックリストも付いており、より深い理解へ導く配慮がなされています。

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こんな方におすすめ

  • ウクライナ侵攻について、ロシアとウクライナの歴史から背景を理解したい方
  • 欧州各国のウクライナ情勢に対する姿勢を知りたい方
  • 日本とロシアを取り巻く北方領土問題の基本をおさらいしたい方
  • ここ数年における中国共産党の動きを把握したい方

ロシアはなぜウクライナに侵攻したのか

まずはおさらいです。さて、なぜロシアはウクライナに対して強硬な姿勢をとったのでしょうか?

 なぜロシアが、ここまで強硬なのか。それは、ウクライナがNATO(北大西洋条約機構)に入ろうとしているのを阻止するためです。
 NATOは東西冷戦時代、ソ連や東欧の軍事力に対抗するため、西欧諸国がアメリカやカナダを巻き込んで作った軍事同盟です。ウクライナは、ロシアの存在を脅威に感じ、NATOに入ることで自国の安全を確保しようとしたのですが、ロシアのプーチン大統領にしてみると、もしウクライナがNATOに加盟すると、ロシアと国境を接する国にアメリカ軍やドイツ軍が駐留することになります。これは悪夢なのです。
 というのも、ロシアはソ連時代の第二次世界大戦でドイツ軍の侵略を受け、二六〇〇万人以上の犠牲者を出したことがトラウマになり、国境の向こう側に緩衝地帯を築いておきたいからです。

引用元:池上彰『独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層』(文藝春秋)

国防および民族統一の観点でいえば、ロシアはウクライナを自国の領土にしておきたいことでしょう。

プーチン大統領は二〇二一年七月、「ロシア人とウクライナ人は歴史的に一体である」という論文を発表しているほどです。

引用元:池上彰『独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層』(文藝春秋)

戦争勃発から約1年後の2023年1月時点では、ウクライナはまだNATOに加盟していません。ロシアは核戦争の可能性に言及し、ウクライナのNATO加盟を牽制しています。

次に、ウクライナの歴史を振り返ってみましょう。ウクライナは豊かな穀倉地帯であるだけに、周辺国家の争いに巻き込まれてきた悲劇の歴史を持っています。

 国の東半分は帝政ロシアに占領され、西部はポーランドに占領されるという分割を経験しています。一九一七年にロシア革命でロシアの政権が倒れると、帝政ロシアに支配されていた東部は「ウクライナ人民共和国」として独立しますが、一九二二年にソ連が成立すると、武力でソ連の一部にされてしまいます。
 その後も西部はポーランドに占領されていましたが、一九三九年、スターリンとドイツのヒトラーが手を結んでポーランドを分割。ポーランドが占領していたウクライナ西部は、ソ連のウクライナに併合されました。
 このソ連時代、スターリンは、農業集団化を進めてウクライナの小麦を徴発。輸出に回すことで外貨を獲得しようとしました。農業の集団化とは、農民の土地を取り上げて集約し、国営農場あるいは集団農場で労働者として働かせることでした。いくら働いても自分のものになるわけではないので、農業生産性は急降下。自家用の僅かな食料も強制的に取り上げられることで、餓死者が激増。正確な数は不明ながら少なくとも二五〇万人以上が犠牲になりました。

引用元:池上彰『独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層』(文藝春秋)

250万人以上もの人々が犠牲になったとは…。ほかにも、1986年にウクライナ北部のチョルノービリ(チェルノブイリ)原子力発電所で事故が発生した際に、当時のソ連の対応が国際的な非難を呼ぶものだったこともよく知られるところです。

こうした経緯を振り返ってみると、ソ連とその後継国家であるロシアに対する敵意感情がウクライナ国民に広がっているのはある意味で自然なことのようにも感じられてきますよね。

いささか引用が長くなりましたが、他にもウクライナを巡る歴史については多くの紙幅を割いています。やはり池上彰氏の説明は読み手に寄り添う文章で、無駄がなく丁寧なのですよね。この文章は実際に本書をお手にとって、是非味わっていただきたいところです。

欧州の危機意識

本書を読んでいて大変印象に残ったのは、2014年にロシアがウクライナのクリミア半島を併合して以降、欧州の危機意識が年々高まっていたことです。日本では、北朝鮮からのミサイル発射や中国共産党の動きに関する報道は盛んでしたが、当時、ウクライナ情勢に報道は少なかったように思います。

欧州のなかでも特に目立つのが、スウェーデンの対応です。

(前略)このところヨーロッパでは、ロシアの脅威に対抗するために徴兵制を復活する動きが目立っています。たとえばスウェーデンは、二〇一八年一月から徴兵制を復活させました。北欧諸国はフィンランド、ノルウェー、デンマークも徴兵制がありますが、スウェーデンだけは二〇一〇年に廃止していました。
 徴兵制を廃止しても志願兵がいれば軍隊は維持できますが、近年になって志願者が減少。兵員不足に陥っていました。その一方、近隣の軍事大国ロシアがウクライナのクリミア半島を占領したり、ウクライナ東部の武装勢力を支援したり、エストニアやラトビア、リトアニアのバルト三国への軍事的圧力を高めたりしていることは、もはや看過できないというわけです。

引用元:池上彰『独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層』(文藝春秋)

しかも、2018年春には、戦争などの有事に対する備えを呼びかけるパンフレットを470万世帯に配布したとのこと。水・食料の備蓄や防空壕の再整備も求めたということで、この事前準備には驚かされます。

日本において、仮に他国からの攻撃が本格化した場合に避難先として利用できるシェルターは一体どのくらいあるのでしょうか…?ウクライナ侵攻の話題において核兵器の使用に言及されつつある現在、この国ではどのように自分の身を守り抜くことができるのだろうか、と考えさせられました。

なお、今回のウクライナ侵攻においては、過去の歴史から学ぶことができる点も多いでしょう。かつてヒトラーが起こした行動を見ると、今回プーチン大統領が起こした行動と極めてよく似ていることが分かります。今後、ウクライナ情勢を引き続き注視しながら、自分にできることは何だろうか、と考えていくことが大切ですね。

 一九三三年、ドイツで政権を掌握したヒトラーは、一九三八年、「ゲルマン民族の統合」を旗印にオーストリアを併合し、次にチェコスロバキアに触手を伸ばします。ズデーテン地方の割譲を要求したのです。
 当時のチェコスロバキアは北部のズデーテン地方に多数のドイツ人が住んでいました。ヒトラーがドイツで政権を取ると、ズデーテン地方のドイツ人たちが結成した「ズデーテン・ドイツ人党」が、チェコスロバキア政府に対して「自治」を要求。するとヒトラーは「民族自決」をスローガンに、ズデーテン地方をドイツに併合させることを求めます。

引用元:池上彰『独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層』(文藝春秋)

日露の北方領土問題

日本にとって、ロシアとの共通話題ですぐに思いつくのは、北方領土問題ですよね。発端は第二次世界大戦ですが、いまだに解決時期が不透明のままなのは国民の多くが認識していることでしょう。日本とロシアの間で平和条約が締結されていない点が大きな理由といえます。

 サンフランシスコ講和条約を結んだ際、東西冷戦が始まっていて、ソ連は条約に参加しませんでした。このため、ソ連がロシアになった後も、日本との間に平和条約が結ばれていないのです。
 平和条約は、両国間の国境線を確定する意味があります。日本としては、北方四島の返還を実現して平和条約を結ぶという方針を掲げてきました。
 しかし、ソ連そしてロシアの思惑は異なります。国後、択捉は戦争で獲得した領土。いわば戦利品だから日本に返すつもりはありません。ところが、北方領土をソ連軍が占領した日付が問題になります。
 日本は一九四五年の八月一五日に天皇の玉音放送によって戦争が終わったという認識ですが、国際法上は、東京湾に停泊中の戦艦ミズーリ号の艦上で日本が降伏文書に調印した九月二日が終戦の日付となります。
 ソ連軍は日本が八月一五日に降伏した後も進軍を続けて北方領土を占領しましたが、歯舞、色丹を最終的に占領したのは九月五日でした。
 そこで、一九五六年の日ソ共同宣言で、「平和条約を締結後、歯舞と色丹を日本に引き渡す」と約束したのです。

引用元:池上彰『独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層』(文藝春秋)

その後、1960年に日米安保条約が改定されて米軍が日本に長く駐留することになり、歯舞・色丹の返還がストップしてしまったとのこと。

安倍政権下で日露間の平和条約締結に一歩進んだかのように見えましたが、安倍元首相の他界や、ウクライナ情勢下で資本主義陣営に追随して日本が行った経済制裁などの影響もあり、北方領土返還に関する議論の先行きはいまだ不透明なままです。

中国共産党の話題も

さて、最後に中国共産党の話題も。本書はクリミア併合やウクライナ侵攻といったプーチン政権を主軸として世界情勢ついて解説した書籍ですが、最終章には中国共産党の話題が載っています。

年々、世界情勢を見るうえで重要度を増してゆく米中対立を読み解くためには、米国だけでなく中国国内の政治にも目を向けていきたいところですよね。

本記事では、中国共産党にまつわる雑学も多々。なかでも印象に残ったのはこちらです。

なぜ、中国や北朝鮮のトップは総書記と呼ぶのか?」という疑問を解消させてくれたソ連共産党の歴史についてです。なんと、ルーツはヨシフ・スターリンです。

 一九一七年のロシア革命後、ソ連共産党の組織が整備される過程で、書記長という役職が誕生しました。当時のソ連共産党のトップはウラジーミル・レーニン。レーニンは、役職としては共産党の中央委員でしかなかったのですが、誰もがレーニンをトップと思っていましたから、わざわざトップの役職を新設する発想がありませんでした。
 このとき、スターリンが就任した書記長は、文字通り記録係、庶務係でした。しかし、こういうポストには、あらゆる情報が集まってくるものです。一般の会社でも総務課に社内の情報が集まってくるのと同様です。スターリンは、この情報を武器に、ライバルを蹴落とし、共産党のトップに立ったのです。
 こうして、共産党の最高実力者は書記長となり、書記長というポストが共産党のトップの名称になったのです。

引用元:池上彰『独裁者プーチンはなぜ暴挙に走ったか 徹底解説:ウクライナ戦争の深層』(文藝春秋)

ほかにも、共産党が支配政党である中国での共産党への入り方についての説明など、資本主義国と異なる点が多く「え~!?なるほど~」と驚きつつも勉強になる点がたくさんありました。

ウクライナ侵攻から1年を迎え、資本主義と共産主義との対立を意識せざるを得ない2023年。本書を読めば、歴史背景に対する基本事項を学びながら、知的好奇心を満たす雑学も得られます。是非お読みください。

関連書籍

  • 小泉悠『ウクライナ戦争』(筑摩書房):ウクライナ侵攻開始後、多方面から注目を浴びたロシア軍事専門家の小泉悠氏の著書です。

関連情報

国境なき医師団(MSF:MEDECINS SANS FRONTIERES)

私は、世界的に大きな災害・悲劇が起きた際はいつも「緊急チーム」へ寄付をしています。確定申告にて寄付金控除を適用することが可能です。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR:United Nations High Commissioner for Refugees)

難民や無国籍者を支援する活動を行っています。確定申告にて寄付金控除を適用することが可能です。

国連世界食糧計画(WFP:World Food Programme)

ウクライナ危機で世界的な食糧難が発生しています。こうしたときに煽りを受けるのは、紛争や貧困により明日の食事が確約できない人々です。2020年にノーベル平和賞を受賞しました。確定申告にて寄付金控除を適用することが可能です。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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