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【書評】音楽・美術の天才たちの日常とは!?「最後の秘境 東京藝大」を読む

【書評】二宮敦人『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』(新潮社) 書評

疲れたときに心を癒してくれる音楽や絵画。美術館、博物館という空間には不思議な居心地の良さがありますよね。コンサート会場で耳にする生の音楽は、イヤホンを通して聴くのとは違った厚みがあり、圧倒されてしまいます。

演奏者や制作者の方は、こうした場でその成果を発表するまでにどんな人生を歩んできたのでしょうか。芸術の道に進むという選択は、私のように才能のない人間からするとかなり大胆な行動に感じられます。

私が通っていた中高一貫校の同級生に、美術系大学に進んだ友人と音楽系大学に進んだ友人がいます。2人とも、中学生の段階から周囲から一目置かれる才能溢れる生徒でした。高校を卒業してからずいぶん経ちましたが、美術館やコンサートに行く度に、2人とも元気かな? なーんて考えることもしばしば。

そんな2人の学生生活を伺い知るヒントとなりそうなのが今回ご紹介する『最後の秘境 東京藝大』です。こちらの本、面白すぎてほぼ一気読みしてしまいました!やはりトップレベルの芸術大学は独特でした。さっそく見ていきましょう!

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こんな方にオススメ

  • 芸術系の大学に進学したい
  • 美術や音楽を仕事にしている人たちの頭の中を覗いてみたい
  • 楽しく気軽に読めるエッセイが読みたい

冒頭から面白い!

さて、本書は序盤から飽きさせない面白さがあります。冒頭部分で自己紹介がてら語られる、著者とその妻との日常は以下のとおり。

 僕の妻は藝大生である。
 一方の僕は作家で、よくホラー小説やエンタメ小説を書いている。
 今、僕が原稿を書いている横で、妻はノミに木槌を振り下ろしている。ドッカンドッカン大きな音が家賃六万円のアパートに響きわたり、無数の木屑が飛び散る。書斎は木の破片だらけ。原稿の真上にも飛んでくる。工事現場みたいな室内になっているけれど、森に似たいい匂いがする。
 妻が作っているのは木彫りの陸亀。フローリングの床に大きな足をどっしりとおろし、首を軽く傾けてこちらを見ている。
 サイズは、枕をもう二周り大きくしたくらい。一本の巨大な木の塊から彫り出したものだ。もちろん、とてつもなく重い。うちは四階でエレベーターなしだから、部屋に運びこむのを手伝わされた時は腰が砕けるかと思った。

引用元:二宮敦人『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』(新潮社)

ドッカンドッカン…

著者の妻は彫刻科に属する藝大生であり、小さじや写真立てはもちろん、テーブルさえも自作してしまうという強者です。必要なものは何でも自分の手で作れる、という力があるのは羨ましい!

このように、著者の妻を始めとする藝大生たちの日常は、私のような一般人には驚くばかり。その個性を確実に拾い上げて言語化している著者の二宮敦人さんももちろん素晴らしい。

音校と美校

東京藝術大学、通称「藝大」には、音楽系の「音校」と美術系の「美校」があります。他の芸術系大学は「○○音楽大学」「○○美術大学」という大学名であることが多いようですから、音楽と美術の双方を包含している藝大はちょっと特殊なのかもしれません。

この「音校」と「美校」では、学生たちの雰囲気がかなり異なる模様。この違いが、藝大の奥深さに導いてくれる最初の入り口となるようです。

 音楽と美術の両方を擁しているのが藝大の特徴の一つでもある。
 実際にその境界線に立ってみると、不思議な感覚を覚える。
 行きかう人の見た目が、左右で全然違うのだ。
 音校に入っていく男性は爽やかな短髪にカジュアルなジャケット、たまにスーツ姿。女性はさらりとした黒髪をなびかせていたり、抜けるような白いワンピースにハイヒールだったりする。大きな楽器ケースを持っている学生もちらほら。
(中略)
 対して美校の学生たちは……ポニーテールの、髪留め周りだけ髪をピンクに染めている女性。真っ赤な唇、巨大な貝のイヤリング。モヒカン男。蛍光色のズボン。自己表現の意識をびりびりと感じさせる学生がいる一方で、まるで外見に気を遣っていないように見える学生も多い。

引用元:二宮敦人『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』(新潮社)
わたし
わたし

美術系大学に行った同級生と音楽系大学に行った同級生は、確かにそんな感じだった!

本書全体を通読して私が抱いたイメージは、次のとおり。

  • 音校はややブルジョアジーな雰囲気を纏い、教授との師弟関係を元にした指導
  • 美校は時に野性味を感じさせる日常を送り、教授との関係もフランク

音校、美校ともに才能と努力の両方が必要となるわけですが、音校の方が練習に費やす時間、構内のセキュリティなどといった点で厳格さを感じました。学生個人のアピール力も求められるようでした。

一方、美校は作品を生み出す過程のなかで、同じ科の仲間と家族のように過ごしながらチームワークで行動したり、ヨコのつながりが強い印象でした。製作期間をたっぷり与えられるなど、自由度が高い学生生活となるようです。

私は幼少期からピアノなどの音楽に触れる一方、美術を積極的に学んだことはありません。が、藝大生においては、美校の方が自分に向いているかも、なんて感じてしまいました(^^;) やはり音楽を学ぶには大変なお金がかかりますから、その道を極めることの難しさにも感服するばかりです。

あの有名人も、藝大生時代に本書で取材を受けていた!

本書は多数の藝大生にインタビューを行い、その日常生活や考え方などをまとめたもの。取材した学生の実名(仮名の方もいます)がたびたび登場し、本書で語られている内容にリアリティを与えています。

日本トップレベルの芸術大学である藝大生ともなれば、狭き門をくぐり抜けた才能の塊。学業を終えた後、世界中で活躍の場を広げている卒業生は少なくないことでしょう。

そんな中、本を読む目がつい止まってしまった学生のお名前があります。その名は、井口理(いぐちさとる)さんです。

「僕の兄も藝大の声楽科を出てまして、今はドイツで歌ってます」
 井口さんの母はエレクトーンの先生でもあり、音楽大好き一家で育ったという。
「井口さんも卒業後は留学されるんですか」
「僕はクラシックやミュージカルではなく、ポップス志向なんですよね。ゆくゆくはそっちで活動したいな、なんて思ってます。CD作ったりしてますが、まあ徐々に、ですね」

引用元:二宮敦人『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』(新潮社)

あれ…これ、もしかして…!! そう、King Gnu(キングヌー)のボーカル、井口理さんです。えぇ~! 学生時代に取材されていたんですね! そして、学生時代からポップス志向という軸は決まっていたんですね。井口さんが語る声楽家の日常についての言葉は、大変読みごたえがありました。

「白日」などの大ヒットで知られるKing Gnu。今ではかなり有名なバンドになりました。しっかりと夢を叶えたんだなぁ、と思うと尊敬するばかりです。実は私、コロナ禍の自粛期間中はYouTubeで覚えた「白日」を歌いながら在宅勤務をしていました。懐かしい…。

2025年には、新曲「TWILIGHT!!!」が劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』の主題歌に起用されました。今後の活躍がますます期待されます。King Gnuファンの方は要チェックです!

関連書籍

  • 土岐蔦子(漫画)、二宮敦人(原作)『最後の秘境 東京藝大 1:天才たちのカオスな日常』(新潮社):今回ご紹介した書籍が大ベストセラーとなったため、コミカライズ化されました。全4巻で完結です。こちらもどうぞ。

  • 井口理『なんでもソーダ割り』(朝日新聞出版):週刊誌AERAで好評を博した連載「なんでもソーダ割り」(2021年4月12日号~22年7月4日号)を書籍化。14人+1人との対談集です。King Gnu好きなら押さえておきたい一冊。

  • 佐藤直樹『東京藝大で教わる西洋美術の見かた』(世界文化社):藝大の授業「西洋美術史概説Ⅲ」の教科書にも採用された本書。「ディープなのにわかりやすい!」と評判です。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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