私たちは、日常生活のなかで新たな習慣を身につけたり、時にはその習慣をさらに進化させたりあるいは止めてしまうという行動を繰り返しています。このように、人の行動の変容過程を研究するのが学習心理学と呼ばれる領域です。
パブロフの犬、もしくはローレンツの刻印づけ(刷り込み:imprinting)などは耳にしたことがあるという方も少なくないことでしょう。高校生物でもこれらのワードは必ずといってよいほど登場しますよね。
私は、かつて4年制大学に通っていた際にも学習心理学を履修しておりました。それから十何年の月日が経ち…、久し振りに学び直してみた放送大学の科目「学習・言語心理学」。かつて学んだ内容の細かな定義がアップデートされていて、学問は学び直すことが重要なんだな~と思った次第です。
そして当時と異なるのは、「学習・言語心理学」の後半に付いている「言語心理学」ということば。自分にとっては未知の領域で難しく感じましたが、言語学を語る上での基本概念は、本科目を学ぶことである程度理解できたように思います。
この科目では、学習心理学と言語心理学の研究領域の位置づけや関連領域、研究手法に焦点を置いた解説に多くのページが割かれており、全15章のうち前半の5章を占めています。ここまで丁寧に説明している科目は他にあまり無いのではと思います。そして、マルチメディア学習など現代的なテーマについても取り上げているのが面白い。
今回は、学習・言語心理学の立ち位置を整理しながら学びを深めていく「学習・言語心理学」の印刷教材(テキスト)をご紹介します。
書籍は全国の書店などで購入できます。放送大学生でない方も、本科目の講義はBS放送などのテレビで視聴可能です。詳しい視聴方法は以下をご参照ください。
放送大学科目の書評記事のまとめはこちら
放送大学の科目についての書評記事は以下にまとめました! ご興味あればご参照ください♪
本講座の基本情報
本講座「学習・言語心理学」は、放送大学で開講されている科目です。
- 2025年度開設
- 放送授業(テレビ配信)
- 心理と教育コースの専門科目
具体的なシラバスはこちらからご参照ください。
放送授業はテレビで公開されており、書籍はAmazonほか各書店でお買い求めいただけます。各地域におけるテキスト取扱書店は下記をご参照ください。
こんな方にオススメ
- 公認心理師を目指している
- 人の行動の変容過程に関心がある
- 人の言語獲得の仕組みを学びたい
目次
本書の目次は下記のとおりです。全15回の放送授業に沿った章立てとなっております。
1 位置づけ
2 対象(1)心理学から
3 対象(2)言語学から
4 対象(3)生物,生理,障害の観点から
5 目的と方法
6 生得的行動
7 レスポンデント条件づけ
8 オペラント条件づけ
9 弁別オペラント条件づけ
10 言語行動
11 知覚運動学習
12 観察学習
13 マルチメディア学習
14 動機づけと自己制御
15 言語習得
学習・言語心理学という研究領域は存在しない
まず押さえておきたいのは、この科目名としての「学習・言語心理学」という研究領域は存在しないという点です。
本科目名である「学習・言語心理学 psychology of learning and language」という概念から検討を始めよう。まず、「学習・言語心理学」という研究領域は存在しないし、これからも存在する可能性は極めて低いであろう。一方で、「学習心理学 psychology of learning」という研究領域、「言語心理学 psychology of language」という研究領域は存在しているし、これからも存在し続ける可能性は高いであろう。
引用元:高橋秀明『学習・言語心理学〔改訂版〕(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
その理由は、「知覚・認知心理学」の紹介記事で触れた理由に同じく、公認心理師資格の学部カリキュラムです。
本記事の冒頭で述べたように、私がかつて通っていた大学では「学習心理学」こそ存在するものの、「言語心理学」は開講されていませんでした。当時は公認心理師という資格がまだ世に出ていなかったので、多くの大学で「学習心理学」という科目のみが学ぶ機会を与えられていたのではないかと思います。
知覚運動学習と模倣学習
それはさておき、あらためて学び直すなかで面白いなと思ったのは、知覚運動学習と模倣学習。
知覚運動学習
知覚運動学習とは「感覚情報(知覚)と身体の動き(運動)から、動作を習得(学習)する」というような意味ですが、ここではどのような形で「練習」して学習するのかということが一つのテーマとなっています。
たとえば、次のような方法があります。
- 全習法 whole method 対 分習法 part method
- 一連の動作をひとまとまりにして最初の動作から最後の動作まで練習し、反復する(全習法)か、一連の動作のうちの1つの動作を別々に練習していく(分習法)か
- 分散練習 distributed practice 対 集中練習 concentrated practice
- 一定の練習ごとに休憩を挟みながら練習を繰り返す(分散練習)か、休憩を挟まずに練習を連続する(集中練習)か
私はこれまでピアノや管楽器の練習に励んできた経験があります。同じように、楽器やスポーツの練習に取り組んできた経験がある方には、こうした練習方法のうち自分にとって「最も効率的だった手法はコレだ!」とピンとくるかもしれません。ただ、個人差やそのときの状況にもよるので、必ず効果的なやり方は「コレだ!」と断言するのはなかなか難しいですよね。
この部分を読んでいたときに思い出したのは、片づけの習慣です。私は毎日1つモノを手放すという捨て活を1000日間続けたのですが、このように毎日少しずつ同じ行為を繰り返すというのは、分散練習に該当しそうです。一方で、「一日で片づけを終わらせるぞ~」というのは集中練習となるでしょう。
一般的には、集中練習よりも分散練習の方が効果が高いと言われています。ダイエットの取り組みなどにも適用できそうですね。ご参考まで!
↓1000日間の捨て活を記録した記事はこちらです。お時間ありましたらお読みください♪
模倣学習
次に模倣学習について本書での議論を一部引用します。
さらに、模倣と観察学習との関連について、春木(2000)は、「模倣の学習」と「模倣による学習」とを区別している。「模倣の学習」とはモデルと同じ反応をすることを学習すること、「模倣による学習」とはモデルと同じ反応をすることによって、モデルが習得している刺激・反応の結合を一気に学習してしまうこととしている。一方で、「模倣の学習」と「模倣による学習」との間には「かなりの飛躍があり(中略)人間は模倣の過程を内在的に言語によってなしている(p.105)」ために、研究が困難であるとしている。
引用元:高橋秀明『学習・言語心理学〔改訂版〕(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
ここでの議論は結構深みがあるので詳細は本書をお読みいただきたいのですが、私はきょうだい間での成長の違いと関連づけられるような気がするなぁと思ったのでした。
一概にすべての人に当てはまるとは思いませんが、俗に「長男長女は不器用」という言い回しがあります。なぜか第1子は損な役回りを引き受けることが多かったりしてしまう、という意味もここには含まれているかと思います。
私は末子(第2子)として生まれ育ってきました。両親いわく、私は「周囲をよく観察している子だった」ということです。上のきょうだいの失敗(親に叱られている姿など)を眺めて学習し、同様の失敗をしないように計算しながら自分の行動を決めてきた…。この解釈は、自分にはよく当てはまるなぁと思います。この場合は「模倣による学習」がなされた、ということなのになるでしょう。
とあるボランティア活動にて、小学生の姉妹の勉強を教えたことがあります。そのとき、周囲の反応を注意深く観察し、自分の立ち振る舞いを臨機応変に変えているのは妹さんの方でした。これまで、日常的に「模倣による学習」をして生きていたのかもしれません。2人以上の子育てをしている方は、子どもの成長の違いに気づく点がたくさんありそうですね。
マルチメディア学習の原理
さいごに、マルチメディア学習について取り上げます。ここでは、Mayer(2021)による比較的最近の研究成果が紹介されていました。
こうして、Mayer(2021)は、マルチメディア学習の原理として14の手法をあげている(表13-1)。マルチメディア学習の原理は、以下の3つの認知的処理の負荷によって分類されている。
引用元:高橋秀明『学習・言語心理学〔改訂版〕(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
1)無関係(extraneous):教授の目標に資さない処理 教授デザインを混乱させることによって引き起こされる
2)必須の(essential):作業記憶内本質的な材料を表現するために必要とされる処理 材料が複雑なために引き起こされる 選択のステップで起こる
3)生成的(generative):より深い理解のために必要とされる処理 学習者の動機づけによって引き起こされる 体制化と統合とのステップで起こる
たとえば「生成的」では、「人格化(personalization)」「声(voice)」「体現(embodiment)」「生成的活動(generative activity)」「イメージ(image)」「投入(immersion)」の6つの原理が挙げられています。「声(voice)」では、「話しことばは機械の声よりも人間の声で提示せよ」と付記されていました。
放送大学だけでなく、オンラインで行われる研修や講義はおおむねマルチメディア学習に属します。お勤めの方は、プレゼンテーションの際にモニターを使って映像を映すこともあるでしょう。
今後は生成AIを用いたコンテンツ作成が加速していくはずで、そうした意味でも、どのような形で教材や発表物を作り上げていくかという観点は外せないことと思います。学習・言語心理学でこうした知見を得られたのは思わぬ収穫でした!
放送大学科目の書評記事のまとめはこちら
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関連書籍
- 石口彰『知覚・認知心理学〔改訂版〕(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):「考える」ことについての科学、という形で、知覚心理学と認知心理学の知見をまとめた一冊です。記事を書きましたので、宜しければお読みください。
- 向田久美子『発達心理学概論〔新訂〕(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):行動や言語の獲得は、人の発達に当然関連してきます。人の一生における「発達」に関心がある方はこちらも是非。記事を書きましたので、宜しければお読みください。
- 髙瀨堅吉『神経・生理心理学(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):本記事ではあまり言及しませんでしたが、「学習・言語心理学」と関連する領域の一つです。「学習・言語心理学」と一緒に受講すると理解が深まります。記事を書きましたので、宜しければお読みください。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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