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【書評】西武大津店への愛を感じる青春小説!「成瀬は天下を取りにいく」を読む

【書評】宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社) 書評

日本全国に突如巻き起こった「成瀬」旋風。あれはコロナ禍の影響も少し和らいだ2023年のことでした。当時、旧Twitter(現X)の読了ツイートで賞賛の嵐だったのが、『成瀬は天下を取りにいく』という宮島未奈氏の小説です。その後シリーズ化されて全3冊で完結しましたが、未だ人気は衰えず続編を惜しむ声もチラホラ。今回は、その記念すべき第1弾をご紹介します!

実は、私は『成瀬シリーズ』第2弾の『成瀬は信じた道をいく』を先に読んでいました。このため、作品が発表された順序に逆らう形で読み進めましたが、特に支障なく読めました。ですので、これから『成瀬シリーズ』をお読みになる方は、書店で目に入った作品から、あるいは図書館で借りることができた作品から読み進める形でまったく問題ないと思います。

↓第2弾の書評記事はこちらです!

さて、この『成瀬シリーズ』は著者の居住地である滋賀県大津市のローカルネタに溢れています。私は滋賀の地を踏んだことがまだ無いのですが、そんなことはまったく気にならないほど夢中に読み進めてしまいました。舞台となっている地域のことを知らなくても、作品全体に散りばめられた「西武大津店」への愛に共感したり、懐かしい気分になったり…。ということで、さっそくご紹介していきます!

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こんな方にオススメ

  • 話題作を読みたい
  • 地域のリアリティが感じられる小説に触れたい
  • 気軽な気持ちで読書を楽しみたい

西武大津店への愛

そもそも本作が出版化されたのは、『ありがとう西武大津店』という短編が2021年に第20回「女による女のためのR-18文学賞」大賞・読者賞・友近賞をトリプル受賞したことがきっかけとなっています。

作品名にもある西武大津店は、2020年8月31日をもって44年の歴史に幕を閉じました。ちょうどこの頃、地元の百貨店の閉店に対する市民のメッセージを目にした著者は、その地元愛に感動したと述べています。

 2009年から大津市に住む宮島さんは、買い物は以前住んでいた京都市に行くことが多かったが、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、近所の西武大津店を訪れるように。小学2年生の長女が通う学校で行事が中止になったり、夏休みが短縮されたりしたことから、地元の百貨店の閉店と、コロナ禍の影響を受ける子どもを絡めた物語を書こうと思い立ったという。
 同店閉店後の9月以降、家事や育児の合間を縫って、約1か月かけて400字詰め原稿用紙約50枚分の短編を書き上げた。「実在の百貨店に虚構を混ぜ込む割合に気をつけた」。タイトルに「ありがとう」とつけたのは、店内に飾られたボードが、感謝を伝える市民らの書き込みで埋められていたのを見たから。「地元に愛された存在だったのだと実感し、感動した」

引用元:読売新聞オンライン『37歳主婦、家事の合間縫い地元百貨店閉店を小説に…「ありがとう西武大津店」文学賞受賞』(2021/05/17 23:15)

実は、私の生まれ育った地域でも、大型百貨店が閉店して廃墟化し、その後数年間も放置されておりました。地元民としての自分には「どうすることもできないな…」と大人の受け止め力を発揮する一方で、その寂しさや思い出が頭をよぎるもので。他の地域住民も似たような感想を持っているものと思われます。

8年間ほど暮らした別の地域で、地元に愛されたスーパーが建物の老朽化で閉店したその最終日に、現地を訪れたこともあります。開店当初の写真がたくさん飾ってあり賑わいのある姿は感傷的で、売り場で長年働いてきたであろう女性の目にも涙が…。

高度経済成長期前後に開店した商業施設はたくさんありますから、日本全国で同じような光景が繰り広げられたのではないかと想像されます。だからなのか、その地を訪れたことがない私にも、不思議と西武大津店の閉店への寂しさが湧き上がってくるのです。

それでは、各作品の見どころを見ていきます!

ありがとう西武大津店

「八月になったらぐるりんワイドで西武大津店から生中継をする。それに毎日映るから、島崎にはテレビをチェックしてほしい」
 ぐるりんワイドは滋賀県唯一の県域ローカル局、びわテレで十七時五十五分から十八時四十五分まで放送している番組だ。毎日と言っても土日祝は休みだから、回数としては二十回程度だろう。
「別にいいけど、録画しないの?」
「こんな企てにハードディスクの容量を使ってはいけない」
 ハードディスクを使ってチェックすべき案件だと思うが、成瀬の基準はわからない。
「毎日は見られないかもしれないけど」
「見られる日だけでいい。よろしく頼む」
 義理堅いわたしは家に帰ってすぐ、テレビの番組表から月曜日のぐるりんワイドを視聴予約した。成瀬を見るのはわたしの務めだ。

引用元:宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)

幼稚園の頃から他の子どもとは一線を画す存在だった成瀬あかりは、西武大津店の閉店を見届けるため、毎日通うことにします。同じマンションに住む幼なじみの島崎みゆきは、そんな成瀬にときどき付き合うことに。

成瀬あかりの突拍子のない言動は読ませるポイントですが、島崎みゆきの妙な律儀さ(ソーシャルディスタンスを常に意識するなど)につい笑ってしまいます。電車の中で読みながら吹き出してしまいました…! ラストは感慨を残しつつ、成瀬らしく終わるのがとても良い!

膳所ぜぜから来ました

「これがM-1グランプリのエントリー用紙だ」
 今どきWeb応募じゃないんだと思いながら用紙に目を走らせる。
「例年のエントリー締切は八月三十一日だが、今年はコロナで九月十五日まで延びたんだ。まだ間に合うから、とりあえずエントリーしておこう」
 どうも雲行きが怪しい。わたしの知らないところで話が進んでいる気がする。
「待って、誰と出るの」
 成瀬は何を聞いているんだという顔をする。
「島崎しかいないだろう」
 わたしは額に手を当てた。こういうのを異例の大抜擢というのだろう。わたしのような凡人に、成瀬が頂点を目指すための相方が務まるとは思えない。

引用元:宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)

難読地名として知られる「膳所ぜぜ」から来ました、ということで「ゼゼカラ」とのコンビ名であのM-1グランプリに挑戦する成瀬と島崎。話の本筋からちょっと離れますが、本作で登場するプロのお笑い芸人オーロラソースのケチャップ横尾とマヨネーズ隅田というネーミングに著者のセンス感じます(もちろん架空のお笑い芸人です)。文化祭で肩慣らしをしたあと、いよいよM-1出場へ!

階段は走らない

 八月になると、ぐるりんワイドで西武大津店からのカウントダウン中継がはじまった。画面に映る電光掲示板には「閉店まであと29日」と書かれている。その隣に西武ライオンズのユニフォームを着た中学生ぐらいの女の子がミニバットを持って立っていた。カメラ目線で、明らかにテレビに映るために立っている。今どきの子どもはテレビなんて興味がないものだと思っていたが、こういう子もいるらしい。

引用元:宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)

毎日ぐるりんワイドに映り込む成瀬をテレビで見る、40代の稲枝いなえ敬太とその仲間たちの視点から語られる子どもの頃の西武大津店。スピンオフという感じで、大人から見た大型百貨店の閉店を丁寧に描写しています。小学校の同窓会を開こうと企画するが、果たして…!?

小学校時代のちょっとしたすれ違いと西武大津店の思い出が混ざり合っていて、大人の皆さんには共感できるところが多々あるのではと思います。

線がつながる

 セミナーハウス二階の和室に近づくと、百人一首が読み上げられているのが聞こえた。悠子と小声で「静かにしたほうがいいね」と言いながら覗いてみると、坊主頭の女が対戦相手と向かい合って座っているのが見えた。かみの句の一文字目が読み上げられた瞬間、敵陣の札に向かって高校球児のごとく大胆に上半身を滑らせ、散らばった札から一枚を取ってみせる。
「成瀬さん速かった!」
「もっと無駄のない取り方を覚えたらA級目指せるよ」
 先輩たちの賛辞を受けても成瀬は表情を変えない。中学の頃は陸上部で長距離をひたすら走っていたと聞くが、かるた班で周りとうまくやっていけるのか、無関係のわたしが心配になる。

引用元:宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)

同じ小学校・中学校に通っていた大貫おおぬきかえでから見た、高校生の成瀬のエピソード回。なぜか坊主頭で入学式を迎えた成瀬は、その後かるた班(かるた部)に入ります。ここでも西武大津店が話題にあがりますが、小学生ならではのスクールカーストや高校生ならではの恋バナも描写している点がとても良い。

レッツゴーミシガン

 試合をしている四十人の中で、滋賀県代表膳所高校の五番席に座る彼女だけ何かが違っていた。とにかく動きが大きいのだ。もっと無駄なく払う方法があるだろうと思うのだが、それでいてちゃんと狙いの札は射止めている。素振りのフォームも独特で、見たことのない腕の動かし方をしていた。
 あんなのが対戦相手だったらペースを乱されて大変だろうなと眺めているうちに、いつのまにか目が離せなくなっていた。彼女が札を払うたび、ちょんまげにした前髪が揺れる。絶え間ないセミの鳴き声に混じって、どこからともなく鐘の音が聞こえた気がした。

引用元:宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)

膳所高校二年生になった成瀬が気になる、広島県の高校生、西浦航一郎にしうらこういちろうの視点から物語が展開します。成瀬にもついに恋愛が訪れる…!? 成瀬のおもてなし精神が溢れる回です。

ときめき江州音頭ごうしゅうおんど

「ゼゼカラっていうコンビがいるって聞いて、ときめき夏祭りにぴったりだと思ったんだよ。二人がもしよければ、総合司会をしてくれないかな? 台本はこっちで作るし、打ち合わせも大変だったら出なくていいし、無理のない範囲でやってくれたらいいから」

引用元:宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)

Mー1グランプリへの挑戦をきっかけに、地域の夏祭りで司会を務める成瀬と島崎。別々の高校に進んだ二人の交流機会は中学生の頃からぐっと減ったものの、その絆はとても深いのでした。大学受験を控えた高校3年生の夏、島崎が打ち明けた秘密に動揺し、勉強が捗らない成瀬。いつも飄々としている成瀬が動揺する姿が新鮮で、ちょっとホロリとする場面も!

関連書籍

  • 宮島未奈『成瀬は信じた道を行く』(新潮社):今回ご紹介した『成瀬は信じた道を行く』の第2作目です。成瀬が高校3年生の秋から大学1回生の冬のあいだの出来事が収録されています。記事を書きましたので、宜しければお読みください。

  • 宮島未奈『成瀬は都を駆け抜ける』(新潮社):こちらは『成瀬シリーズ』の最終巻です。高校を卒業し、京大生となった成瀬のその後は…?

  • 宮島未奈『婚活マエストロ』(文藝春秋):著者の「成瀬シリーズ」の後に出版された長編小説です。こちらの主人公は40歳の男性(!)と成瀬あかりとはまた違った雰囲気で、「婚活」がテーマとなっています。

  • 柳美里『JR上野駅公園口』(河出書房新社):東日本にお住いの方は、JR上野駅を舞台に描かれたこちらの小説もオススメです。東北からの玄関口となる上野駅は、関東近辺に住んでいる人々にとっても馴染みのある場所。深いテーマを内包しており、全米図書賞・翻訳文学部門も受賞しました。記事を書きましたので、宜しければお読みください。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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