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【書評】福祉領域における心理支援の実践を学ぶ。放送大学教材の「福祉心理学」を読む

【書評】村松健司、坪井裕子『福祉心理学(放送大学教材)』(放送大学教育振興会) 書評

このブログを運営している私は、これまで仕事と両立しながら公認心理師カリキュラムの対応科目をコツコツと履修してきました。

公認心理師カリキュラムで指定されている科目群は、「人体の構造と機能」「神経・生理心理学」といった生物学的分野から、「産業・組織心理学」「社会心理学」といった産業・社会分野に属する分野、「臨床心理学」「精神疾患とその治療」といった臨床領域に直結する分野などなど。かなり広範囲かつ多様なラインナップとなっております。

履修を進めていくなかで、実践での学びに近い科目だなと私が感じたのが、「心理的アセスメント」と今回ご紹介する「福祉心理学」

実は、私は放送大学での学びの傍らボランティア活動を10年ほど、ほそぼそと続けています。ボランティアと一口に言ってもその活動領域はかなり幅広いわけですが、私自身は主に福祉領域の対人支援ボランティアとして活動しています。

このボランティア経験10年間を通じての所感ですが、福祉領域は座学で身につける知識だけではうまく行かないことが多く、実践していくことで学びを深めていくという要素があるように思います。そして、そんな私の実感を支えてくれるかのごとく、本書では全15章のうち、なんと7つの章タイトルに「福祉領域における心理的支援の実践」が冠されています。やはり福祉領域では実践が重要な要素を占めているのでしょう。

今回は、福祉領域における支援の実際を学ぶ「福祉心理学」の印刷教材(テキスト)をご紹介します。

書籍は全国の書店などで購入できます。放送大学生でない方も、本科目の講義はBS放送などのラジオで視聴可能です。詳しい視聴方法は以下をご参照ください。

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放送大学科目の書評記事のまとめはこちら

放送大学の科目についての書評記事は以下にまとめました! ご興味あればご参照ください♪

本講座の基本情報

本講座「福祉心理学」は、放送大学で開講されている科目です。

  • 2021年度開設
  • 放送授業(ラジオ配信)
  • 心理と教育コースの専門科目

具体的なシラバスはこちらからご参照ください。

放送授業はテレビで公開されており、書籍はAmazonほか各書店でお買い求めいただけます。各地域におけるテキスト取扱書店は下記をご参照ください。

こんな方にオススメ

  • 公認心理師を目指している
  • 福祉領域での心理支援に関心がある
  • 多職種連携について理解を深めたい

目次

本書の目次は下記のとおりです。全15回の放送授業に沿った章立てとなっております。

 1 福祉心理学の展開と課題
 2 福祉領域の支援対象と福祉制度
 3 福祉領域における心理支援の課題 ー専門的援助からつながりの中での臨床へー
 4 多職種連携に基づく支援
 5 福祉領域における心理的支援の実践① 障害児・障害者への心理支援
 6 福祉領域における心理的支援の実践② 地域への心理支援
 7 福祉領域における心理的支援の実践③ 暴力被害者への心理支援
 8 福祉領域における心理的支援の実践④ 児童虐待への心理支援Ⅰ
 9 福祉領域における心理的支援の実践⑤ 児童虐待への心理支援Ⅱ
10 福祉領域における心理的支援の実践⑥ 児童虐待への心理支援Ⅲ
11 福祉領域における心理的支援の実践⑦ 高齢者の心理支援
12 福祉心理学における移行支援
13 移行支援としての心理支援① 子育て支援
14 移行支援としての心理支援② 発達障害・精神障害がある個人への心理支援
15 移行支援としての心理支援③ 家族支援

福祉心理とは

私が10年以上前に4年制大学に通っていたときは、学内に「福祉心理学」という科目名での講義は無かったように記憶しています(福祉心理学とやや近い研究領域の「コミュニティ心理学」という科目はありました)。ということで、多くの大学で一般的に学べるようになったのは、比較的最近のことなのだろうと思います。

本書では、福祉心理を以下のように定義しています。

 福祉(welfare)は、「個人、あるいは集団が健康、幸福、幸運で生活できること」と考えられる。また、福祉は過度な心配がなく、健康で、幸せな状態・状況(well-being)を目指す実践であるとも言えるだろう。ただ、何が「幸せ」か、は個人的な捉え方によるところが大きい。このことを追求していくことが福祉心理学の目的と捉えてもいいだろう。
 そもそも福祉心理の歴史は浅く、専門書も多くない。ここでは福祉心理を「福祉心理とは、人がよりよく、幸せに暮らせること目指す幅広い支援の在り方である」と大きく定義しておこう。

引用元:村松健司、坪井裕子『福祉心理学(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

上記の定義にある「人がよりよく、幸せに暮らせる」ということばで示される「人」は、多様な人びとを指しています。仮にこの定義をやや狭めるとすれば、それは「困難を抱えた当事者がよりよく、幸せに暮らせる」となるでしょうか。

本書では、障害者、貧困、暴力被害、児童虐待、認知料高齢者などを一つの切り口として、困難を抱えた当事者を対象とする心理支援について述べられています。

多職種連携における葛藤

心理職はその専門性を活かして、さまざまな職場で他の専門職とともに働くことが多いです。密室でのカウンセリング業務だとこの協働のイメージがしにくいですが、介護や医療の業界だと多職種連携の姿が想像しやすいことでしょう。

第4章「多職種連携に基づく支援」では、とろろの嫌いな子どもを巡って「とろろ会議」が行われた事例が掲載されています。ここでは共に働く仲間たちの多様な考えを尊重した会議の末、最終的な結論が出ます。自分にとって「当然そうであるべき」という考えが、周囲と対話する中で変化していく様子が見えてくるのは大変興味深かったです。

難しいのは、自分の人生経験に基づく価値観をこれまで「当たり前」のものとして受け入れてきた事実に気づき、周囲の意見に耳を傾けることができるかということでしょう。本書では、次のような指摘もありました。

 人が集まる以上、そして難しいケースにかかわる以上、援助チームの葛藤は避けられない。最も避けるべきは、自分の葛藤を誰かに押しつけてしまうことである。精神分析では、「投影」と呼ばれる心理的防衛である。援助専門家として、チームの誰かが特別にマイナスに見えたり、自分の不安を打ち消すように明るくしたり、自信があるかのような不自然な振る舞いをしているとき、また別のメンバーとこっそりチームの約束事を守ろうとしないときなどには注意が必要である。

引用元:村松健司、坪井裕子『福祉心理学(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

小学校のとき、あるいは家庭や職場で過去に上記のような経験をしたことがある、という方は多いのではないでしょうか。私はここ数年のあいだにもこのような状況に陥ったことがあり、反省しきりです。葛藤の解決にあたっては、感情を大切にしながらも理性を動員しなければなりません

家族支援

最後に、第15章「移行支援としての心理支援③ 家族支援」から、世代性を意識した移行支援を引用しておきます。

 (中略)鯨岡(2004)は、「”〈育てられる者〉から〈育てる者〉へ、そして〈看取る者〉から〈看取られる者〉”へという基本構造をもち、しかもそれが世代間で循環していく」という関係性の中で人と家族が成長していくと述べ(図15-3)、それぞれの立場(役割)への移行する際に危機が生じるとした。

引用元:村松健司、坪井裕子『福祉心理学(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

自分自身は特に困難を抱えていないという状況であっても、両親の老いに直面したり自身に新たな家族ができることによって、家族構成の変化という、物理的にも精神的にも大きな変化を迎えることは少なくありません。介護や保育、心理の専門家のサポートを受けて、この移行を乗り越えるのが一般的でしょう。

さて、困難を抱えている当事者の方の場合はどうでしょうか。健康上の問題がない場合でさえ動揺が生まれ、サポートが必要となるわけですから、困難を抱えている状態であればなおのこと支援が必要となる可能性が高まります

本記事の前半で、福祉心理の狭義の定義では「困難を抱えた当事者がよりよく、幸せに暮らせる」となるのではと述べました。しかし、福祉心理を考えるとき、「支援対象となる人びと」とはすべての人が対象となるわけですから、この狭義の定義は支援者の視野を狭めてしまうおそれがあるのだろうと思います。

本書では特定のテーマをいくつか取り上げて心理支援の実践が紹介されています。しかし、特定の困難を抱える人びとにだけ焦点を当てることが、福祉心理なのではありません。福祉心理の広義性があってこそ、困難のなかにある方への支援を考える際の想像力が生まれるのだろうと感じました。

放送大学科目の書評記事のまとめはこちら

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関連書籍

  • 古賀精治『障害者・障害児心理学(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):本書でも取り上げられている障害児・障害者への支援をする仕事に携わりたいという方は、こちらのように基礎を学べる一冊を通読するのが良いでしょう。記事にしましたので宜しければご覧ください。

  • 森田美弥子、永田雅子『心理的アセスメント(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):福祉心理も実践的ですが、こちらの科目も実践的。アセスメントを学ぶならこちらを是非。記事を書きましたので、宜しければお読みください。

  • 李永淑(編集)『モヤモヤのボランティア学: 私・他者・社会の交差点に立つアクティブラーニング』(昭和堂):国際協力を含むボランティア活動について考える一冊です。別記事でも紹介していますので、宜しければお読みください。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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