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【書評】対話を通じて組織の課題を解決する!「他者と働く」を読む

【書評】宇田川元一『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング) 書評

会社で働いていると、大小さまざまな問題が発生するものです。もはやルーティンといえるような些末なトラブルはともかく、たとえば新規事業の立ち上げなどでは、新規事業の推進者と既存部署とで互いに大きな敵対心が芽生えてしまうことがよくあります。

しかも、一番困るのは互いをつなぐ役回りの担当だったりして…互いの言い分に耳を傾けることさえ苦痛に感じる場面もあるかもしれません。

今回は、簡単には解決しずらいこうした状況において、組織づくりの観点で大変有用な一冊をご紹介します。

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「技術的問題」と「適応課題」

私たちが日々目の当たりにする組織内の問題は、なぜ一筋縄では解決できないのか。

本書では、ハーバード・ケネディ・スクールで25年間リーダーシップ論の教鞭をとったロナルド・ハイフェッツ氏の定義を借りて、問題を以下のように2種類に分類しています。

彼は、既存の方法で解決できる問題のことを「技術的問題」(technical problem)、既存の方法で一方的に解決ができない複雑で困難な問題のことを「適応課題」(adaptive challenge)と定義しました。

引用元:宇田川元一『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)

技術的問題」とは、ビジネス書から得られるノウハウを活用したり、新しいサービスを導入することで解決可能な問題です。たとえば、職場で各自がデータ共有しなくてはならない場合、クラウド上にデータを保存するサービスを利用することでこの課題を解決することが可能です。

一方、上記のような解決策が合理的に説明可能でも、「共有した情報を元に勝手に仕事を進められると、問題が起きたときに対処することが面倒くさい」など他部署の反発にあって、なかなかクラウドサービスの導入に至らないというケースもあるでしょう。このような場合、これは「適応課題」であり、技術で一方的に解決することができない問題となります。

本書で向き合うのは、この「適応課題」の解決方法です。

適応課題の解決方法は「対話」

著者の宇田川氏によれば、適応課題」の解決方法とは「対話」であるとされています。

対話とは、一言で言うと「新しい関係性を構築すること」です。

引用元:宇田川元一『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)

対話とは、権限や立場と関係なく誰にでも、自分の中に相手を見出すこと、相手の中に自分を見いだすことで、双方向にお互いを受け入れ合っていくことを意味します。

少し面倒でナイーブな話に思えるでしょうか。しかしこの問題こそが、私たちが実際に直面している「適応課題」の困難さなのです。

引用元:宇田川元一『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)

対話というと、フィンランドのケロプダス病院で開発されたオープンダイアローグの考え方が思い出されます。このオープンダイアローグでは「対話を続けることを至上目的」としており、どんな状況下であっても対話を途切れさせないことに力点を置いています。

オープンダイアローグについては、その概要を把握するうえで下記の記事が参考となることでしょう。

「ナラティヴ」に入り込み新しい関係性を構築

そして、この対話」においては、相手の「ナラティヴ」に入り込んで新しい関係性を構築することが重要、といいます。

「ナラティヴ(narrative)」とは物語、つまりその語りを生み出す「解釈の枠組み」のことです。物語といっても、いわゆる起承転結のストーリーとは少し違います。
ナラティヴは、私たちがビジネスをする上では、「専門性」や「職業倫理」、「組織文化」などに基づいた解釈が典型的かもしれません。

引用元:宇田川元一『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)

1990年代における臨床心理学から生まれた問題解決手法にナラティヴ・アプローチという手法があります。現在は心理学の領域から経営、医療などの分野へ広がりを見せており、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

下記のサイトが分かりやすいですが、その特徴としては、やはり対話を重視する点が挙げられます。

私も社会人として企業に属していますが、往々にして他部署の反発を受けて案件の進みが遅い、という事態に出くわします。少し傲慢な言い方をすれば、「私たちのやり方のほうが妥当なのに」という気持ちでいっぱいでした。

しかし、よくよく聞いてみると「いまの状況では、そのやり方を運用できる体制にない」とか、「提案された方法のメリットは理解できるが、リスクがわかりにくい」などといった背景が浮かび上がってきたのです。

これがナラティヴというもので、どのような人・部署にも合理性を持ったナラティヴのなかに生きています。

以上の例は、「対話」によって自分と相手との間に橋が架かった、という実例です。本書では、対話を通じて他者とのあいだに橋を架ける、つまり、新たな関係性を構築する方法を、実践例を交えながら考えていきます。

DXの事例から考える

昨今、DX(Degital transformation)が話題になっています。DXにて期待どおりの果実を得た企業というのは、日本にどのくらいあるのでしょうか?

中小企業の多い日本では、あまりDXが浸透していないように感じられます。実際、コロナ禍も3年目に突入した2022年1月時点で、下記の記事が公開されています。

私が思うに、DXが思うように進まないことの原因の一つに、対話不足というものが挙げられると思います。もちろん、現場の開発力が足りないという課題もあるでしょう。開発力不足だけが原因であるならば、これは技術的問題であるため外部研修などにより解決可能なはずです。

しかし、現場の開発力が向上してもなかなか話が進まない、というのであれば、これは一考に値します。根本的なところで「適応課題」として認識できていないか、あるいは全社的に関係性が構築できていない、ということになるでしょう。つまり、全体的に対話が不足しているということです。

さて、実際のDX成功事例を見てきましょう。

たとえば、熊本県にて運送・機械機器設置業を営む株式会社ヒサノでは、社長が従業員に話を聞いて回り、現場の作業負担をヒアリングすることから始めました。

システム開発の要件を固めるうえで何度も打ち合わせを行い、社長と専務がともすればケンカのようになってしまう状況でも、社員みんなで進めていくことで、DXの努力が結実したようです。これは、適応課題として捉えて対話を重視した結果ともいえるでしょう。

公式ホームページでは「DX戦略」専用ページが用意され、久保誠社長のメッセージが掲載されています。こちらを見るに、「対話」を重視されていることは明らかでしょう。

私たちは、DXを通して「働くことを幸せにつなげる」物流会社としてユニークな存在であり続けたいと考えています。

しかしながら、私たちのDXは、クールで、かっこよくて、スマート・・・・という一般的なDXのイメージとは違って、いつも、とても騒がしいです。

私たち経営者を中心に、ヒサノの従業員、ITCの先生方、ITベンダーさん、専門家の方々が入り乱れて熱く話し合います。

DXなのに凄く人間味あふれています。

引用元:『株式会社ヒサノ|熊本・福岡・九州の荷物の輸送、営業倉庫』「DX戦略(社長メッセージ)第1回(2021.7.27)」

「対話」を繰り返すことで組織は強くなる

そして、「対話」を繰り返した組織は結果として打たれ強い組織になっているはずです。

あなたやあなたの所属している組織は対話を通してとても強いものになっていくでしょう。厳密に言えば、強い、というよりも、反脆弱的な組織に変わっていくはずです。

「反脆弱性(anti-fragility)」とは、ナシーム・ニコラス・タレブの著作に示された概念ですが、簡単に言えば、色々な問題や困難に直面すればするほど強くなる性質のことを反脆弱性と言います。

引用元:宇田川元一『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)

関連書籍

  • 斎藤環(解説)、水谷緑(まんが)『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』(医学書院):ひきこもりや統合失調症の方などの対して、対話で支援を行うことを重視したオープンダイアローグの入門書。

最後まで読んでいただき有難うございました!


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