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【書評】高校生向けSNS必須の世界における若者たちの青春群像劇!「オルタネート」を読む

【書評】加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社) 書評

今回は、男性アイドルグループNEWSのメンバーとしてもよく知られている、加藤シゲアキ氏による作品を紹介します。

本作『オルタネート』は、第42回吉川英治文学新人賞に加えて第8回高校生直木賞も受賞。第164回直木賞候補にも選出されています。

『オルタネート』のような青春小説で直木賞候補となるのは希有との評価もあります。アイドルと作家の二足の草鞋を履きながらも、確実に成果を残していてスゴイですよね!

それでは、本作を読み解くキーワードと読みどころを早速見ていきましょう。

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こんな方にオススメ

  • 読書になれていない方
  • 高校生が主人公の青春小説を読みたい方
  • SNSを主題にした物語を探している方

本書を読み解くキーワード

オルタネート

特徴的なマッチングサービスを備える、高校生限定のウェブサービスです。なお、高校を卒業した生徒や中途退学した生徒は、オルタネートを利用できなくなります。

 ユーザーが指定した条件に合わせて数多の高校生から相性のいい人間をレコメンドしてくれるオルタネートは、仲介人の役割を持つ代理人だ。メッセージを送り合うことのできるコミュニケーションツールである他にも、ブログを投稿できるSNS機能があったりと、高校生に必要不可欠なウェブサービスを一手に担っている。

引用元:加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)

そして、利用者がオルタネートに自分の個人情報や日常生活を提供すれば提供するほど、マッチング精度が高まっていく仕組みとなっています。

「具体的に言うと、スマホにある情報を全部オルタネートに提供するの。スマホにはその人のほとんどが集約されてるでしょ。例えばどれくらいネットを使ってるかとか、何を調べてるとか、何を買ったかとか、どんなSNSでどんな人を見たりしてるか、音楽、ドラマ、映画、スポーツの趣味とか。そういう情報をオルタネートに全て提供して、他のアプリへのアクセスも許可すると、オルタネートがどんどんユーザーを理解していって、より高度にマッチする人を探してくれるの。(後略)」

引用元:加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)

ワンポーション

高校生たちによる、即興の料理対決番組です。調理技術だけでなく、課題に沿った物語性も評価対象として重視されます。

『ワンポーション』の特徴はそのルールにある。本選全ての対決では、使う食材をその場で指定される。加えて、各試合でテーマが与えられる。それは「時間」「海」「願い」「風の音」などさまざまで、決められた制限時間のなかで料理を作り終えたあと、どのように料理に取り入れたかをプレゼンする。物語性も大きな評価基準となり、それぞれの組がどうアプローチするかが見所のひとつだった。

引用元:加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)

円明学園高校はシーズン1では準決勝敗退、シーズン2で準優勝の成果をおさめました。今年も出場に向けて動くが、果たして…?

円明学園高校

東京の私立高校でチャペルがあります。読みながら、青山学院大学高等部がモデルとなっているような印象を受けました。著者の加藤シゲアキ氏は青山学院中等部・高等部・大学に通っていたということなので、誰よりもその教育理念や学生生活、校舎立地などを深く理解しているのでしょう。

実際、同校の高等部と大学を卒業した知人も「あれ、これ母校では?」と言っていました。

↓青山学院高等部のキャンパスマップはこちら。作品を読みながら、登場人物たちの動きを想像してみましょう!

3人の主要登場人物

本作品は、3人の主要人物を取り巻く群像劇が同じ時系列のなかに並列で進行してゆく小説となっています。

新見蓉(にいみいるる)

円明学園高校3年生。料理人の父を持ち、調理部の部長を務めています。昨年出場した『ワンポーション シーズン2』では準優勝の成果をおさめました。華々しい成果を収めたものの、本人の心が傷つけられるような出来事を経験。オルタネートは利用していません。

 一呼吸おいて、「あと、これは調理部の活動じゃないけど、私は今年も『ワンポーション』に出るつもりなんで、この中からペアの相手を捜します」と伝える。数人がぴくりと反応した。つまりその子たちは私を知っている。

引用元:加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)

伴凪津(ばんなづ)

円明学園高校1年生。オルタネートに対して絶対の信頼を置いています。周囲からオルタネートに対する知識の深さを買われて、オルタネート初心者にその概要を解説したりする役回りも担っています。

「凪津ってときどきオルタネートを作った人みたいになるよね」
 そう言われるのはまんざらでもなかった。

引用元:加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)

楤丘 尚志(たらおかなおし)

小学生の頃よりドラムに親しんできた大阪の若者。高校を中退したためオルタネートを利用できなくなったものの、弟のオルタネートアカウントから、かつてのバンド仲間である幼馴染みが円明学園高校に通っていることが判明。幼馴染みに会うために単身上京します。

 オープンにしたハイハットとスネア、バスドラを力一杯鳴らす。耳をつんざく音に、聞いていた人たちは顔をしかめた。尚志は大音量で耳障りなアタック音を欲した。どうせならもう自分の耳など壊れてしまえばいいのだ、耳どころか手も足も、全身が弾け飛んでしまえばいいのだ。

引用元:加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)

読みどころ

オルタネートとは

表題にもある「オルタネート」って何…?という疑問からスタートする本作。個人的には、Facebookのサービスをイメージしながら読み進めました。

たとえば、登場人物たちの会話に次のような会話があります。

(前略)新入生のひとりが「ダイキさん、フロウしてもいいですか」と聞くと、「もちろん、コネクトしよ」と立てていた指を親指に変える。そんなものはないけれど、オルタネートのCMみたいだった。

引用元:加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)

これは、「フロウ」=フォロー、「コネクト」=繋がる、という風に捉えて差し支えないと思います。世の中には様々なSNSがありますが、これまで自分が使ったもののなかで一番サービス内容が近そうだったのはFacebookです。

したがって、Facebookを利用したことがある人は、大きな混乱もなく読み進めることができると思います。

群像劇なので読書に慣れていない人でも手に取りやすい

高校の教科書などで出会った純文学は硬い文章で読みづらかったという方はいませんか?作者もそのことを十分理解しており、できるだけ読書慣れしていない人に手にとってもらいたいという思いで執筆していたようです。

過激な性的描写もなく、哲学的で難解な表現も特にありません。あくまで、先に述べた3人の主要人物を中心に3人それぞれの物語が進行してゆく群像劇です。高校生たちの青春が交差してゆくさまを誰でも楽しみながら読めると思います。

現代における課題についても言及

TwitterやYouTubeなど各種SNSでは炎上騒動が起きることがありますが、本作品の世界のなかでも、やはり発生するようです。

(前略)放送後、両親に報告しようと『新居見』のドアノブに手をかけると、中から客の声がした。「娘さん、大丈夫か。オルタネートで大変なことになってるってうちの子が言ってたぞ」。

引用元:加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)

実は、私が高校生のときにも、2chで同級生の話題が登場して炎上しかけていたのを見たことがあります…。理由はともあれ、現実世界よりもネットの世界の方が過激な方向へ進みやすいのでしょうね。

また、オルタネートで出会った同性愛者のカップルYouTuberの言葉として、心に残ったのは下記の発言です。LGBTQ+という言葉がだいぶ浸透してきてはいますが、当事者が抱えるカミングアウトの恐怖に思い至った場面です。

「蓉はさ、俺がどんな風に考えて、迷って、怖くなって、それでも男性が好きという項目にチェックを入れたか、少しでも考えてくれた?」

引用元:加藤シゲアキ『オルタネート』(新潮社)

全体を通して

アイドル業のかたわら、このような作品を生み出した加藤シゲアキ氏の才能や熱量に驚く一冊でした。これからもアイドル業・作家業を問わず、さらなる活躍をしていかれることを応援しています!

関連書籍

  • 加藤シゲアキ『チュベローズで待ってる AGE22』『チュベローズで待ってる AGE32』(新潮社):第8回Twitter文学賞受賞。こちらも加藤シゲアキ氏の小説のなかでも人気がある作品ですよね。

  • 森見登美彦『熱帯』(文藝春秋):第6回高校生直木賞の受賞作品です。森見登美彦氏の奇々怪々な、謎が謎を呼ぶ小説。誰もが最後まで読んだことがないという本『熱帯』。何度も読み返してしまう、その構成も素晴らしいです。第160回直木賞候補作。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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