2026年2月の衆議院議員総選挙では、非核三原則の見直しについても争点となりました。皆さんは投票に行きましたか?
心理臨床の現場で働く場合、実務的な制約を課すことになる法制度は当然意識することになります。しかし、国の最高法規である日本国憲法の条文すべてに目を通したことがある人となると、必ずしも多くないかもしれません。
私は、小学6年生のときに授業で日本国憲法を読んだことは覚えています。しかし、その後はあまりじっくりと読むこともなく大人になったように思います。4年制大学を卒業して社会人になり、労働者の立場となってからは労働法の勉強はしましたが、その他領域の法律に関する勉強はあまりしてきませんでした。そんな私にとって、法律の勉強というのはかなり退屈なものだと思って生きてきました。
が、今回ご紹介する「心理臨床における法・倫理・制度―関係行政論―」の第1章を読んでいたら、面白く感じられるではありませんか。平易な文章と例えで大変分かりやすい!
「どうしてこんなに分かりやすいんだろう?」と第1章を担当した津川律子先生のご経歴を調べてみたところ、日本臨床心理士会会長、日本公認心理師協会副会長と要職に就いておられることが分かりました。

う~ん、納得!
ちなみに「心理臨床における法・倫理・制度―関係行政論―」で主任講師を務めていらっしゃる元永拓郎先生も、日本公認心理師協会の常務理事です(2026年3月時点)。
さらに「今日のメンタルヘルス」や「現代のキャリアコンサルティング(オンライン授業)」でお馴染みの種市康太郎先生も、日本公認心理師協会の常務理事です(2026年3月時点)。
放送大学は本当にすばらしい講師陣による学びの場を提供してくださっているなと実感…!
今回は、心理臨床を行ううえで必ず知っておくべき法律・倫理・制度を解説した「心理臨床における法・倫理・制度―関係行政論―」の印刷教材(テキスト)をご紹介します。
書籍は全国の書店などで購入できます。放送大学生でない方も、本科目の講義はBS放送などのテレビで視聴可能です。詳しい視聴方法は以下をご参照ください。
放送大学科目の書評記事のまとめはこちら
放送大学の科目についての書評記事は以下にまとめました! ご興味あればご参照ください♪
本講座の基本情報
本講座「心理臨床における法・倫理・制度―関係行政論―」は、放送大学で開講されている科目です。
- 2021年度開設
- 放送授業(ラジオ配信)
- 心理と教育コースの専門科目
具体的なシラバスはこちらからご参照ください。
放送授業はテレビで公開されており、書籍はAmazonほか各書店でお買い求めいただけます。各地域におけるテキスト取扱書店は下記をご参照ください。
こんな方にオススメ
- 公認心理師を目指している
- 実務上、押さえておくべき基本的な法制度を学びたい
- 心理臨床の実践について法律的な観点から理解を深めたい
目次
本書の目次は下記のとおりです。全15回の放送授業に沿った章立てとなっております。
1 心理臨床における法・倫理・制度の基本
2 日本における心理臨床に関する資格の歴史と公認心理師法
3 いのちを支える法・倫理・制度
4 子どもの心理支援に関係する法・倫理・制度
5 家族の心理支援に関係する法・倫理・制度
6 勤労者の心理支援に関係する法・倫理・制度
7 高齢者の心理支援に関係する法・倫理・制度
8 保健医療分野における法・倫理・制度
9 精神障害に関する法・倫理・制度
10 コミュニティ及び福祉分野における法・倫理・制度
11 教育分野における法・倫理・制度
12 司法・犯罪分野における法・倫理・制度
13 心理臨床実践における倫理
14 心理臨床研究における倫理
15 心理臨床における法・倫理・制度―展望とまとめ
公認心理師法の成立と私の人生
本科目は、公認心理師の学部段階カリキュラムを満たすうえで受講必須の科目となっています。要するに、公認心理師資格を取得するために避けては通れない科目だということです。
さて、私はこの公認心理師という国家資格にこれまでいろいろな思いを抱いてきました。というのも、私の人生のさまざまな節目で、国家資格成立に向けた動きが頓挫したり進んだりしていったためです。公認心理師法の成立にあたっての歴史は第2章に詳しく書かれていますが、私の人生の分岐点との関連でまとめると、次のようになります。
- 1988年臨床心理士の第一号が誕生
(わたし)誕生!
- 2005年国家資格化の法案骨子が策定
(わたし)国家資格化に期待を寄せながら、文系・理系を選択する。心理を学べる大学には文系学部が多かったので文系を選択。
- 2009年国家資格化の協議が開始
(わたし)就職活動を開始する。
- 2012年「心理職の国家資格化を推進する議員連盟」が立ち上げられる
(わたし)休日出勤と残業に苦しむ…。
- 2015年公認心理師法が成立・公布
(わたし)産業カウンセラーの資格を取得!
少なくとも2005年の時点では、自分が大学を卒業するまでには国家資格が誕生しているはず、と思っていました。が、一向に話は前に進まなかったのです…。
もちろん、臨床心理士という心理系資格はあります。しかし、当時私が考えていたのは産業分野。発達障害支援の領域で働くことを考えて大学院に進む、周囲の友人たちとの方向性の違いを感じずにはおれませんでした。
「そもそも、これまで定職に就いたこともない人間が産業分野で何の支援をできるというのか?」と自問自答した結果、とにかく手に職をつけなければと就職活動に入ったまさにその直後! 大学3年生のときにリーマンショックが起こります。
あまり知られていませんが、この時期に社会人となった世代も広い意味で就職氷河期と呼ばれるようです。当時の日本経済新聞の記事を探してみたところ、12月時点の大卒内定率は2000年代の前半の就職氷河期を下回る最低値となっていました。
ということで、もし早々に国家資格が登場していたら…というifの世界をときどき思い浮かべます。きっとまったく別の人生を送っていたことでしょう。
勤労の義務と権利
ちょっと自分語りが長くなってしまいましたが、そんな経緯もあって産業領域の心理支援には並々ならぬ思いがあり、産業カウンセラーの資格を取得したのでした。

余談ですが、この産業カウンセラーの資格取得のために静かな場所で集中して勉強したいと思い、図書館で勉強しまくっていたら、読書が趣味になっていました。
そしてこの書評ブログが生まれました。人生とは本当に分からないものですね!
産業カウンセラーという仕事では、当然、労働法の知識が必須となります。ということで、まずは憲法第27条の勤労の義務と権利を取り上げましょう。
国民の勤労の義務と権利については、憲法第27条に定められている。
引用元:津川律子、元永拓郎『心理臨床における法・倫理・制度:関係行政論(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
憲法27条第1項;「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」
第2項;「賃金、就業時間、休息その他の勤労条件に関する基準
は、法律でこれを定める」
1項の条文は国民の権利義務のみを定めたように見えるが、実際には国家にも国民が勤労の権利を行使できるよう義務を課したと言われている。しかし基本的には、これは勤労能力ある者は自らの勤労によって生活を維持すべきであるという建前を宣言したものである。したがって、勤労能力があるにもかかわらず、勤労の意思なきものには社会保障は与えられないことになる。2項は、勤労条件を法律で定めることを国に命じ、労働者を保護する規定である。労働基準法や最低賃金法など各種労働法によって具体化されている。
Wikipediaなどによると、憲法草案に日本社会党が労働の義務を追加し、GHQが微修正して発布となったという経緯が示されています。
日本では、首相が就任直後に「働いて働いて働いて働いて働いてまいります」と、働き方をめぐる議論を呼ぶ発言が話題になりましたが、これは「国家にも国民が勤労の権利を行使できるよう義務を課したと言われている」という観点からさまざまな解釈をすることは可能そうです。
「働かざる者食うべからず」という思想は貴族制の否定として、社会主義圏でも強調された過去がある労働倫理です。そんな歴史を持つ「勤労の義務」が含まれたこの条文を、伝統を重視する保守政権のトップが当然の前提としているのもなんだか不思議なものです。
なお、2025年末から話題になることが増えた「働きたい改革」については、憲法第25条2項の視点を外して語ることはできません。
わが国では、日本国憲法において、基本的人権の尊重(憲法11条)、法の下での平等(憲法第13条)が謳われたうえで、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」(憲法第25条)とされる。この健康で文化的な生活の実現のために、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」(憲法第25条2項)。つまり、社会福祉、社会保障、公衆衛生の3つは、国民の権利に基づいて、国が行わなければならない責務と位置づけられる。
引用元:津川律子、元永拓郎『心理臨床における法・倫理・制度:関係行政論(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
「社会福祉、社会保障、公衆衛生の3つは、国民の権利に基づいて、国が行わなければならない責務と位置づけられる」。過労で労働者の健康が失われるケースが増えるならば、国家が公衆衛生の向上および増進の責務を十分に果たしているのだろうかという議論も生じうるでしょう。
自民党の憲法改正草案はこちらのリンクから確認できます。労働者ならびに国民の健康に関する、国家のスタンスが問われています。
認知症の方とその家族を支える
現代日本の労働者のボリュームゾーンとなっている中高年において関心が深いのが、両親の介護です。特に、長寿化に伴い年々増加している認知症の高齢者とその家族への支援を考えたいと思います。
このような状況のなか、2007年(平成19)年に90歳を超える認知症の男性がJR駅構内の線路に迷い込みはねられて死亡するという事件に関して、JR側が遺族側に遅延等の損害賠償を求めた裁判で、2014(平成26)年に名古屋高裁は、JR側の過失を認めながらも、遺族(介護者)の監督義務者としての責任(民法714条)としての損害賠償を認める判決を下した(一審よりも減額)。この判決は、認知症の人の介護に対して、家族介護者にあまりにも責任を押しつけているということで、大きな問題となった(樋口、2015)。2016(平成28)年3月に最高裁判所において、配偶者や家族であるだけで監督責任者とはならず、今回は監督責任を問わないとし、損害賠償請求を棄却した。
引用元:津川律子、元永拓郎『心理臨床における法・倫理・制度:関係行政論(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
この事件で亡くなった方のご長男による説明はこちらです。
ハードな生活を強いられるなかで、24時間365日の管理義務を負うということは極めて非現実的といえるでしょう。家族介護者への支援、責任の押しつけについて支援者はよくよく心に留めて自分の身を振り返らなければなりません。
視点を変えて、認知症の当事者からの言葉も引用しておきます。ちょうど上述の事件の最高裁判決が下された2016年3月に時を同じくして発表された「認知症の本人からの提案」です。
新オレンジプラン(認知症施策推進大綱)では、認知症の人本人が施策の企画・立案に関与することを述べているが、2016(平成28)年3月に、認知症当事者のグループである日本認知症ワーキンググループから「認知症の本人からの提案」が出された。その中では、「本人同士が集まり、支え合いながら前向きに生きていくための拠点となる場を、すべての市町村で一緒に作っていきましょう。何かを提供される受け身ではなく、わたしたちが主体的に活動できる場であることが大切です」「私たちが外出することを過剰に危険視して監視や制止をしないでください」「安心して外出を楽しみ、無事に帰ってこられること」「地域の中で自分のやりたいことを続けること」を、「すべての人があたりまえの行為として考え、ごく自然な見守りや支えができる地域社会を、一緒に作っていきましょう」などが語られている。認知症の人を心理専門職が支援するために何を大切にすればよいかが、これらの文章の中に含まれている。
引用元:津川律子、元永拓郎『心理臨床における法・倫理・制度:関係行政論(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
私が認知症になったときも、きっとこの提案にあるようなことを考えると思います。人権を尊重したうえでの支援が求められているのです。
放送大学科目の書評記事のまとめはこちら
放送大学の科目についての書評記事は以下にまとめました! ご興味あればご参照ください♪
関連書籍
- 吉川眞理、平野直己『心理職の専門性〔改訂版〕:公認心理師の職責(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):関係行政論と併せて理解しておきたいのが、心理専門職の基本姿勢です。こちらの一冊もどうぞ。
- 信田さよ子『家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ』(KADOKAWA)アダルトチルドレンブームの火付け役の一人となった臨床心理の専門家です。現在は日本公認心理師協会の会長です。記事を書きましたので、宜しければお読みください。
- 倉光修『臨床心理学概論(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):臨床心理を学ぶ方は、こちらを是非一読ください。臨床心理学の基礎が学べます。記事を書きましたので、宜しければお読みください。
- 古賀精治『障害者・障害児心理学(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):障害児・障害者への支援をする仕事に携わりたいという方は、こちらのように基礎を学べる一冊を通読するのが良いでしょう。記事にしましたので宜しければご覧ください。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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