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【書評】兵士の目線から太平洋戦争を振り返る!「日本軍兵士」を読む

【書評】吉田裕『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中央公論新社) 書評

平成の終わりと令和の始まりのはざまを目撃し、間もなく戦後80年を迎える現在において、第二次世界大戦を考える一冊、吉田裕氏の『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中央公論新社)をご紹介します。

第30回アジア・太平洋賞特別賞受賞、2019年新書大賞受賞と各賞でも評価を受けた本書。いったいどのような内容なのでしょうか。

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古参兵による私的制裁

太平洋戦争においては、戦死ではなく戦病死がかなりの比率を占めていたといわれています。

私は「英霊」という言葉を聞くにつれ、国を守るという強い思いを抱いて戦闘中に死亡した兵士が多い印象を受けるのですが、実体としては、戦闘外での餓死、自殺、「処置」と呼ばれた傷病兵の殺害が跋扈していたようです。

なかには発狂する兵士も少なくなく、本書を読み進めるにつれて、生存を賭けた究極的状況での人間の姿をまざまざと見せつけられているような気がしました。

たとえば、戦時中における兵士の自殺についてです。古参兵と呼ばれる二年目以上の兵士は、初年目の兵士に対して肉体的・精神的に追いつめる厳しい制裁が日常的に行われていました。

軍隊内における伝統とも考えられるこの私的制裁ですが、古参兵が私的制裁を好んだ理由について、次の一兵士による分析は非常に納得できるものだと思いました。

 一九四四年に召集され中国戦線で従軍した佐藤貞は、その理由として、「四年、五年、長い者は七年も八年も戦地にいる古参兵にとって、兵隊いじめは一つの憂さ晴らしだった」こと、「今まで内地で、のうのうとくらしてきた新参者に対する嫉妬」、「長い戦地生活で残虐なことに神経が麻痺してしまったこと」などをあげている(『軍隊まんだら』)。
 私的制裁は、人間的な感性をそぎ落とされ、その一方で軍隊生活に強い不満を持つ古参兵が、弱者に向けた非合理的な激情の爆発だった。

引用元:吉田裕『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中央公論新社)

残虐な行動に対しては、その背景を無視して対策することは出来ないのでしょう。一方で、軍隊内では積極的な対策はとられませんでした。

 私的制裁の弊害が指摘され、その根絶が建前としては軍内で強調されながらも、それがいっこうになくならなかったのは、軍幹部のなかに強い兵士をつくるという理由で、私的制裁を容認あるいは黙認する傾向が根強かったからである。

引用元:吉田裕『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中央公論新社)

このような状況下、昼間の活動を終えて疲弊しているなか夜間の宿舎で行われる制裁に苦しみ、自ら命を落とす兵士もいたようです。

極限状態における自殺

行軍では飢えと病に苦しめられました。次の推定は統計的調査を行ったわけではないものの、注目に値する証言です。

 日米両軍間で激戦が展開された小笠原諸島の硫黄島の戦闘で生き残った鈴木栄之助(独立機関砲第四四中隊所属)は、日本軍守備隊の死者の内訳について、次のように書いている。

敵弾で戦死したと思われるのは三〇%程度。残り七割の日本兵は次のような比率で死んだと思う。

六割 自殺(注射で殺してくれと頼んで楽にしてもらったものを含む)

一割 他殺(お前が捕虜になるなら殺すというもの)

一割 事故死(暴発死、対戦車戦闘訓練時の死等)。

(『小笠原兵団の最後』)

引用元:吉田裕『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中央公論新社)

ここで挙げられている他殺は「捕虜となることを許さない」という前提、つまり戦陣訓の影響が無視できません。

 戦場で日本軍兵士が守るべき徳目を説いたこの「戦陣訓」は、「生きて虜囚の辱めを受けず」という形で捕虜となることを事実上、禁じた。

引用元:吉田裕『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(中央公論新社)

兵士に対するケア、覚せい剤の登場について

陸海軍ともに精神の衰弱やストレスの緩和に対する策が軽んじられていましたが、衛生上の観点でも水虫、虫歯などの対策が他国に比べて劣っていたようです。

また、のちに覚せい剤と呼ばれるヒロポンの常用へも言及されていました。後年、後遺症に悩んだ元兵士も少なくなかったようです。

ヒロポンの成分はメタンフェタミンという化合物で、ドイツ第三帝国においても使用されていました。『ヒトラーとドラッグ:第三帝国における薬物依存(白水社)』を読んでいると、世間への浸透度やその効力の凄まじさ、心身への悪影響に身が震えます。

ちなみに、ヒロポンの語原はギリシャ語でphilo(愛する)+pon(労働)。現代でいえばワーカホリック、また、近年問題となっているブラック企業を彷彿とさせます。

当時の時代背景を知る

私の祖父は少年兵としてシベリアに行ったそうなのですが、孫には戦争にまつわる深い話をしたことがありませんでした。本書ではアジアにおける兵士の実態を知ることができますが、正直なところ、祖父の体験した戦争についてはまだ具体的にイメージできません。

とはいえ、自動車や縫製といった工業産業の観点でも著者は当時の日本の状況を紐解いており、私に新たな視点を与えてくれました。

第二次世界大戦をテーマにした書籍では、軍内部における戦略の誤りや艦隊・戦闘機の研究をよく見かけます。しかし、本書では戦場を戦った兵士の目線で客観的な分析がなされている点が特徴で、戦争を知らない世代としてとても興味深かったです。

第30回アジア・太平洋賞特別賞受賞、2019年新書大賞受賞というのも頷ける一冊でした。

関連書籍

  • ノーマン・オーラー『ヒトラーとドラッグ 第三帝国における薬物依存』(白水社):ドイツ第三帝国におけるドラッグの蔓延について。一般市民にもメタンフェタミンが広く利用されていました。

最後まで読んでいただき有難うございました!


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