2023年、日本の中央銀行である日本銀行の新しい総裁に植田和男氏が選ばれました。実は、植田氏は東京大学の名誉教授でもあり、これまで経済学の教育に力を注いできた方。そして、経済学者出身の日本銀行総裁は、なんと戦後初です!
今回は、そんな植田氏が書いた金融学の入門書をご紹介します。日本のトップ大学の名誉教授が書く本はさぞかし難しいのでは…と思うことなかれ。難しい内容も含まれてはいますが、広く浅く理解するのにちょうど良い分量で、ざっくりと理解を深めることができる良書です。
コロナ禍を経て、NISAの新制度がついに始まった2024年。NISAを通じて金融の世界に興味を持った方にも是非読んでいただきたい一冊です。
こんな方にオススメ
- 市場経済の流れに関心がある
- NISAで資産運用をしている
- 金融業界で働きたい
日銀総裁が書いた金融学の入門書!
上述のとおり、本書は日銀総裁である植田和男氏が、就任から遡ること6年前の2017年に出版した本です。だいぶ売れたようで、2020年に追記された「文庫化に際して」では次のように記されています。
本書は2017年7月に刊行されました。版を重ねるとともに、2018年3月には図解版も発行され、このシリーズの他の書物ほどではないですが、私の書いた本の中ではかなり売れ、広い読者の方々の目に触れることになったのは喜ばしい限りです。
引用元:植田和男『大学4年間の金融学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)
日銀総裁の任にある今では、さらに売り上げ部数が伸びていそうですね。本書は大学生が4年間で学ぶ金融学の知識をぎゅっと詰め込んだ一冊。見開き2ページで各項目をざっくり解説していくというお手軽さが人気を集めているのだと思います。大学生だけでなく、時間のない社会人の方にも手に取りやすいかと思います。
なお、なかにはやや技術的・応用的な色彩が濃い内容も含まれています。そんなときは、まずは目次に「ココだけ!」という印が付いた章だけを読み進めていきましょう。そして、深く理解したいと感じたテーマがあれば、より専門的な書籍を探してみるという読み方がオススメです。
入門書として活用したあと、さらなる発展学習へ
本書の冒頭では、金融の3つの役割が紹介されています。その3つの役割とは、第一に、今日のモノ・サービスの交換を、第二に、今日のモノと明日のモノとの交換を、第三に、将来のモノ(に対する請求権)同士の交換を、お金で円滑にして経済を支えることです。
特に、第二、第三の役割については、金融をよく知らない状態だと「???」と頭にはてなマークが飛んでしまう方も少なくないことでしょう。これらの基本的な3つの役割についての説明が、本書では分かりやすく書かれています。
続けて、次のように本書の読み進め方が提示されています。
以上のような、モノ・サービスの交換をサポートする金融の役割がどのようにして可能になるのか、それを見ていくのが本書の目的です。人体における血流と同じで、金融は、それがうまくいっている間は概して意識されないものです。しかし、機能障害(例えば、金融危機)が発生すると、人体(経済)は動かなくなります。本書ではその原因も解説します。
引用元:植田和男『大学4年間の金融学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)
個人的に分かりやすいと思った解説は、個別株のリスクプレミアムについての項目です。リスクプレミアムとは「進んでリスクをとったことに対する対価」のこと。個別株のリスクプレミアムは、投資家のリスク選好と個別企業の配当ないし業績のリスクで決まるのだろうか、という問いについて、次のようなたとえ話で解説がなされていきます。
簡潔に説明するため、すべての所有株が複数の不動産会社株で、それらの不動産会社は各都道府県に立地する不動産を所有しているとしましょう。不動産会社の業績は、日本経済全体が上下することによって動く部分と、人々が日本の中をある県から別の県に移動することによって変動する部分からなるとします。
引用元:植田和男『大学4年間の金融学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)
この両方のリスクに投資家はプレミアムを要求するでしょうか。
答えはノーです。投資家は、様々な不動産会社の株を保有することができます。日本内部の人口移動によるリスクは、移動元と移動先の株を同時に保有すれば消えてしまいます。ですからこの部分にはプレミアムを要求しないのです。
残るのは、日本全体と相関する業績変動です。この部分にプレミアムが要求されます。(後略)
日銀がインフレ率2%を目指す理由
私は20代の頃、資産運用のセミナーによく足を運んでいました。そこでたびたび耳にしたのが、次のような主張でした。
インフレ率2%を想定すると皆さんの現金・預貯金、資産は目減りしていきます!
だから、2%を上回る利回りを目指して資産運用していきましょう!
当時はデフレ真っ盛りだったものの、なんとなくインフレ率2%という数字はいつも頭にあって、結果としてこの数値を上回る資産運用をこれまで続けることができました。でも、なぜここで想定されているインフレ率は2%なのでしょうか?その理由が本書に示されていました。
最近のようなマイルドなデフレの大きな問題は、中央銀行の金融緩和余地が狭まることです。自然利子率が1%でインフレ率が2%なら、名目金利は長期的に3%です。そこから出発して3%分、金利を引き下げる余地があります。しかし、インフレ率が0%なら、名目金利は1%で、金利引き下げ余地はきわめて限定的です。
引用元:植田和男『大学4年間の金融学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)
物価安定とは本来は0%のインフレ率でしょうが、以上のような理由もあって多くの中央銀行は2%程度のインフレ率を目標としています。
中央銀行は、金利を上げたり下げたり操作することで経済の安定化を行います。要するに、日銀の金融政策に対する自由度を上げるということです。
失われた30年、ずっとデフレを経験してきた私たち日本人ですが、ウクライナ紛争の影響もあり物価の上昇に直面しています。賃上げの波も急速に高まっています。30年ものあいだ停滞していたインフレが今後、一般的になるとしたら…やはり投資による資産運用を続けることが最良といえるでしょう。もちろん、日銀の動きも意識しつつです。
さらに、こんな記述もありました。
近い将来、インフレ率が2%に到達すると、財政当局にとっては悩ましい事態になるリスクがあります。それは現在財政を助ける方向に働いている様々な日銀の緩和策が終焉を迎えるからです。(中略)
引用元:植田和男『大学4年間の金融学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)
(前略)インフレ率が2%に達すれば、日銀は国債買いオペをやめるか大幅に減額せざるを得ません。金利は大幅に上がるでしょう。(中略)長期的な姿が危ぶまれる日本の財政ですからリスクプレミアムが発生するかもしれません。
また、日銀は金融引き締めを開始するために、保有国債を市場で売却するかもしれません。すると、実質的に消えていた国債が再出現して利払いを開始せねばなりません。(中略)インフレになると、財政再建を先送りできなくなるのです。
日本のインフレ率は2022年以降、2%を超えています。「金利のある世界」というキーワードも最近よく聞くようになりました。いよいよ日本の経済が変わる…ドキドキしています。
関連書籍
- 植田和男『[図解]大学4年間の金融学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA):こちらは図解版です。東京大学経済学部の学生への講義を元に説明が書かれていることを考えると、一読して理解できなくてもおかしなことではありません。その場合は図解版も併用してみましょう。
- 植田和男『ゼロ金利との闘い 日銀の金融政策を総括する』(日本経済新聞出版社):2005年に出版された植田氏の書籍です。日本銀行政策委員会審議委員として約7年間、金融政策の立案に参画した経験を経てアカデミックに著した一冊。
- 高井浩章『おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密(しごとのわ)』(インプレス):おカネに関する実用エンタメ青春小説。2018年に出版された本ですが、2024年時点でも日本の経済事情(一般)関連書籍の人気ギフトランキングで第2位と高評価です(ちなみに1位は「会社四季報」の業界地図)。小学校高学年~高校くらいのお子様が読むと、若いうちからお金を通したものの考え方を身に付けることが出来るでしょう。
- 山口貴大(ライオン兄さん)『【新NISA完全攻略】月5万円から始める「リアルすぎる」1億円の作り方』(KADOKAWA):2024年2月時点、Amazonランキングで新NISAに関する書籍の第1位です。周囲の評判もよく気になっている一冊…!
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