今回は、小川糸さんの小説『ライオンのおやつ』をご紹介します。数ヶ月振りに読んだ小説は、涙がとまらない物語でした。
2020年本屋大賞で第2位を受賞し、NHKでテレビドラマ化もされました。
それでは早速読んでいきましょう!
こんな方にオススメ
- あたたかな気持ちになる小説が読みたい
- おいしい食べ物が出てくる小説が読みたい
- 人生について考えさせられる小説が読みたい
あらすじ
男手ひとつで育ててくれた父のもとを離れ、ひとりで暮らしていた雫。病と闘っていたが、ある日医師から余命を告げられる。
最後の日々を過ごす場所として瀬戸内の島にあるホスピスを選んだ雫は、穏やかな島の景色の中で本当にしたかったことを考える。
ホスピスでは、毎週日曜日、入居者が生きている間にもう一度食べたい思い出のおやつをリクエストできる「おやつの時間」があった――。
本書を読むうえでのキーワード
物語の舞台
ライオンの家
かつて国産レモンが栽培されていた、瀬戸内海のレモン島で運営されているホスピス。1年365日、毎朝違うお粥を提供している。
お茶会
毎週日曜日の午後3時からライオンの家でお茶会が開かれる。入居者であるゲストがもう一度食べたい思い出のおやつを抽選で選び、再現して提供する。
登場人物
海野雫
本書の主人公。がんのステージⅣになり、人生最後の日々を過ごすためにライオンの家で暮らし始める。
人生の最期くらい、誰にも気兼ねせず、ひとりの時間を過ごして逝きたい。それに、自分が弱ってボロボロに朽ち果てていく姿を、誰にも見られたくないという傲慢な気持ちも、まだちょっと残っている。
引用元:小川糸『ライオンのおやつ』(ポプラ社)
マドンナ
ライオンの家の代表。雫をはじめ、ゲストをあたたかくもてなす。
自らマドンナと名乗るくらいだから、もっと若い人を想像していたけれど、ふたつに分けて編んだお下げの七割は白髪で、しかも、神社のしめ縄のように立派だった。ずっとお辞儀をしているので顔ははっきり見えないけれど、完璧なまでのメイド服を着ている。
引用元:小川糸『ライオンのおやつ』(ポプラ社)
六花
ロッカもしくはリッカと読む。ライオンの家に以前暮らしていたゲストが飼っていた犬。そのままライオンの家で暮らす。
そう考えそうになった時、いきなりドアの向こうから、白い固まりが飛んで来た。
引用元:小川糸『ライオンのおやつ』(ポプラ社)
一瞬、ふわふわしているのでウサギかと思った。その後を、誰かが追いかけてくる。白いかたまりは、ウサギではなく犬だった。その犬が、私の部屋の中を我が物顔で走り回っている。
かの姉妹
ライオンの家の食事担当。姉はシマ、妹は舞と大変覚えやすい名前の姉妹。シマがご飯を担当し、舞はおやつを担当する。
アワトリス氏
ライオンの家のゲストの一人。マドンナいわく、スケベオヤジ。
マスター
ライオンの家のゲストの一人。マドンナいわく、マスターの淹れるコーヒーは世界一。
シスター
ライオンの家のゲストの一人。修道女。
先生
ライオンの家のゲストの一人。数々のヒットソングを世に送り出した有名な作詞家。
もも太郎
ライオンの家のゲストの一人。雫よりもあとに入居した。
タヒチ君
レモン島で、瀬戸内ワインの原料となる葡萄畑を栽培している。漢字で「田陽地」と書く。
カモメちゃん
ライオンの家へ、音楽セラピーをしに来てくれるボランティア。
涙が止まらない…!!
私は通勤中に電車の中で読書することが多いのですが、ページをめくるたびに涙が溢れてきてしまいました。さすがに公衆の面前で大泣きしてしまうと不審人物という印象を周囲に与えてしまうおそれがあるため、移動中に読むのを断念せざるを得ませんでした。
出社後、お昼休み中に再び読み進めてみたもののやはり涙が出てきてしまって…完全に誤算でしたが、それほど心を揺さぶられる小説に出会えたことに感謝です。
ライオンの家は、人生の最期を控えたゲストたちが集まるホスピスです。すでに他界した大切な方々との別れを思い出して、感極まってしまったのかもしれません。
しかしながら、この涙は悲しみの涙とはちょっと異なり、どこかあたたかな気持ちにさせてくれる涙でした。切なさややるせなさ、なすすべのなさ…。そうした色々が混ざり合って、溢れ出てくるものでした。
ライオンの家に到着してすぐの主人公とマドンナとの会話は、生と死が対立構造にあるのではなく表裏一体であることを読み手に伝えています。
「助産院の雰囲気に似ていますね」
引用元:小川糸『ライオンのおやつ』(ポプラ社)
マドンナの背中を追いかけながら、思わず言った。私自身に子どもはいないけれど、一度だけ、友人が出産した助産院まで赤ちゃんを見に行ったことがある。
「生まれることと亡くなることは、ある意味で背中合わせですからね」
いったん足を止め。マドンナは言った。
「どっち側からドアを開けるかの違いだけです」
こうした考えは、『抱きしめて看取る理由 - 自宅での死を支える「看取り士」という仕事』(ワニブックス)という本に出てくる価値観と似ています。「死=悪いこと、悲しいこと」という前提を捨てて読み進めていくとよいでしょう。
読むだけでおいしい!
「本書を読むうえでのキーワード」でも挙げたとおり、本書は親しみやすい名前を持つ登場人物が多く、とてもほのぼのとした空気のなかで話が展開されていきます。
特に、食べ物に関する描写は誠にほっこりしてしまいます。私も食べてみたいなー、と読むだけでおいしい気持ちになりました。
「毎朝、ここのお粥さん食べてるとね、いいこといっぱいあるんだって」
引用元:小川糸『ライオンのおやつ』(ポプラ社)
舞さんが言った。
席に戻り、まだ湯気の立つ小豆粥に、今度は梅干しをのせて食べる。すっぱい、けどおいしい。塩鮭も、のせた。これも、しょっぱい、けどおいしい。体が、おーかーゆー、おーかーゆー、と両足を踏みならすようにして更なるお粥を要求する。おかわりした分も、あっという間に食べてしまった。
このように、どこか淡々とした筆運びに癒しを感じながらも、登場人物たちのそう長くはない余生が対極に常に存在しており、時に暴力性を伴う描写も見られます。キレイごとではない生死を巡る課題が、赤裸々に表現されているのです。
人生の最期にこそ、その人の人生が映し出される。毎日を大切に生きていこう、そんなことを考えさせられる小説でした。
なお、本書は公益財団法人「日本尊厳死協会」所蔵の書籍リストにも掲載されています。この書籍リストは、「自分や親の最期を考える時のヒントとなり、こころの支えになる書籍」とのこと。まさにそのとおりで、是非一度お読みいただきたい一冊です。
関連書籍
- 荒川龍『抱きしめて看取る理由 - 自宅での死を支える「看取り士」という仕事』(ワニブックス):終末期の方を見守る看取り士という仕事があります。子供の誕生は大きな喜びで迎えられるものの、愛する方の死というものは大きな悲哀であり、受け入れにくいもの。しかし、看取り士はこの一般常識を否定し、死の瞬間は「大切な締めくくり」として家族が感謝と共に身体を抱きしめて、笑顔で迎えることを促します。終末期の治療の在り方も議論の余地がありますが、「高齢者」ならぬ「幸齢者」の尊厳とはどうあるべきか?を考えさせられる本です。
- 小川糸『ツバキ文具店』(幻冬舎):鎌倉を舞台に、思いを手紙で綴る代書屋さんのお話です。2017年の本屋大賞4位にもなった本作。とにかく登場人物がユニークで可愛らしく、ほっこりすること間違いなしです。
- 小川糸『キラキラ共和国』(幻冬舎):「ツバキ文具店」の続編です。本作の舞台となっている、鎌倉の美味しい情報もたっぷり。小川糸さんの描く主人公のポッポちゃん、大好きです。良いお友だちになれる気がします。
- 住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社):余命幾ばくもない女子高校生と、名前が無い男子高校生をめぐる物語。記事を書きましたので、宜しければお読みください。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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