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【書評】1964年の東京五輪でも辞任劇があった!国民は開催に興味なし?「超空気支配社会」を読む

【書評】辻田真佐憲『超空気支配社会』(文藝春秋) 書評

今回は辻田真佐憲氏の評論集をご紹介します。

本書は、辻田氏が紙面やオンライン媒体で発表した論考を収録したもので、SNS上の炎上事案からコロナ禍の同調圧力まで、現代社会を理解する上での考えるヒントとなる一冊。

軍歌に代表されるプロパガンダについての造形は特に深く、近年右傾化が進むといわれる時代の中でも示唆に富む一冊と言えるでしょう。

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こんな方にオススメ

  • 良質な評論を読みたい方
  • 右派、左派といった政治的な主張を中立的に捉えたい方
  • 国内外のプロパガンダ手法や軍歌に興味がある方

1964年の東京オリンピックは意外と盛り上がらなかった?

新型コロナウィルス感染症のパンデミックの真っ只中において、2021年に開催された東京オリンピックは、アスリートたちの活躍を通して世界に大きな感動を呼びました。

しかし、その背後に「五輪を開催すべきか」、「中止すべきか」、あるいは「さらに1年延期させるべきか」といった議論が日本全体で大きく盛り上がっていたことは、歴史に記録するに値する事実でしょう。

そして、このオリンピックの開催にあたっては、前会長や演出担当者の辞任などなど、いざこざが多かったことも記憶に新しいところですよね。さらには、開催後の2022年には汚職事件が各種メディアで報道…。とても残念です。

一方、「1964年の東京オリンピックは戦後の復興を世界に印象づけ、その後の日本経済の発展へ続く大成功を納めたというのに…」と考えていた方も少なくないのではないでしょうか。

ところが、本書によると、なんと1964年の東京オリンピックも市井の人々にあまり歓迎されていなかったようなのです。NHKが1964年のオリンピック開催直前に実施した調査によると、東京都区部で下記の結果となりました。

「オリンピックは結構だが、わたしには別になんの関係もない」にいたっては、賛成が五六・八%と一〇ポイント近く増加。

引用元:辻田真佐憲『超空気支配社会』(文藝春秋)

1964年の東京オリンピックといえば、私には明るいイメージしか無かったのですが、なんと国民の過半数以上が無関心…!ちなみにこの結果は金沢市でも実施されているものの、数字に大きな違いは無かったようです。

さらに、組織委員会の会長と事務総長の辞任劇も相まって、無責任体質も批判されていたようです。

このような寄せ集めの組織委は決断力に欠け、さまざまな意見に左右された。準備計画の変更も頻発し、国内では「無責任」と批判され、国外では「どの決定が本当か」と顰蹙を買った。

引用元:辻田真佐憲『超空気支配社会』(文藝春秋)

なんというデジャヴ…!!

本論考の初出は2021年大会に遡ること約5年前の2016年7月ですが、1964年大会の顛末は2021年大会に予言めいた示唆を与えていたともいえるでしょう。ここは読みどころです!

実録!国外プロパガンダの実態

韓国や中国といった近隣諸国におけるプロパガンダ例を取り上げ、また現地での実体験を通して日本のそれと比較し論じています。日韓における竹島(独島)の領土問題に対する啓発活動の違いも大変興味深かったのですが、私が最も読んでいただきたいと思うのは「中国レッドツーリズム体験紀行」。

 アトラクションを試してみた。まずは「抗戦遊戯競技場」にある銃撃と手榴弾の投擲だ。ゴム弾とレプリカの手榴弾を、幾つ的に当てられるのかを競う。手榴弾は柄付きの古風なもの。私が投げあぐねていると、従業員が苦笑しつつ投げ方を教えてくれた。
 銃撃の的は日の丸、手榴弾の的は日本兵のイラストだった。両方ともペンキがかなり剥(左上はロのような形の漢字)がれており、相当回数「命中」していることがわかる。

引用元:辻田真佐憲『超空気支配社会』(文藝春秋)

レプリカとはいえ、手榴弾を日本兵に見立てた的に当てるという直接的なエンターテイメントを通じて、楽しくナショナリズムを育むということですね。これまでの人生で訪れた遊園地を振り返ってみても、ここまで直接的な形で国防を思わせるゲームには、私はまだ出会ったことがありません。

しかし、本書を読んでいると「エンタメの世界は常にプロパガンダと隣り合わせだよな~」としみじみ感じざるを得ません。

本書では第二次世界大戦中、ディズニーが「総統の顔」(日独伊への皮肉)と題した短編アニメを1943年に公開してアカデミー賞をも受賞したことに言及していますが、たしか米国は冷戦時代、ジョージ・オーウェルの「動物農場」の短編もアニメ化し、旧ソ連を批判してもいます。

 CIAは、冷戦体制化における心理戦の一作戦として、OPC(政策調整局、心理戦のために一九四八年に設置、五一年にCIAに統合)と連携して『動物農場』の映画化を企画し、ド・ロシュモンを抜擢して、制作資金を秘密裏に供給した。

引用元:川端康雄 冷戦下の『動物農場』(映画『動物農場』公式サイト)

楽しいコンテンツほど、その背後にあるものをよく考えて鑑賞するのが良いのかもしれませんね。

↓アニメーション映画『動物農場』の公式サイトはこちら。

総合知のススメ

掲載された論考は文春オンラインや文藝春秋digitalなどの左派系メディアが多かったです。このため著者は左派系の論客と思いきや、どちらかといえば中立的な立場を取っているように思われます。

 興味関心にもとづいてテーマを決めているのだが、幸か不幸か、近年社会問題になりがちなものばかりなので、以上のようなイデオロギー対立に巻き込まれることも少なくない。
 なるほど、この知識を使えば、今日的な動員はしやすいだろうと思うこともある。いわゆる右方面でいえば、軍歌や君が代や教育勅語をもっともらしく肯定してみることもできるし、また反対に左方面でいえば、戦前の事例をつぎつぎに持ち出して、安倍政権の一挙手一投足を批判してみることもできる。

引用元:辻田真佐憲『超空気支配社会』(文藝春秋)

そして、評論家によって提供された専門知識ならぬ「総合知」を用いることで、世の中を大まかに俯瞰し、日々の判断に活用するのはどうかと問いかけています。

世界的に分断が進む昨今、右や左など特定の立場を堅持するだけでは、解決すべき真の課題ともいえる、世の中により大きな影響を与える命題が隠れてしまうということなのでしょう。

関連書籍

  • 辻田真佐憲『空気の検閲 大日本帝国の表現規制』(光文社):今でこそ日本は表現の自由がある程度担保されていますが、戦前~戦後にかけては言論統制がなされていました。本著のなかで、検閲対象となった出版物・メディアのみならず検閲官の業務多忙についても言及されているのが興味深いです。検閲官の業務負荷を軽くする意味合いでも、出版者などに空気を読んで事前対応してもらう。これは日本独特の文化である、現代の根回しに通ずるのかも。

  • 鴻上尚史、佐藤直樹『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』(講談社):私たちが抱える生きづらさ、コロナだから?日本だから?それとも、同調圧力?自粛警察や忖度文化、感染者が世間に謝罪する現象etc…さまざま考えを巡らしてしまいます。対談形式なので話し言葉でサクサク読めるし、ページ数も少なめ。本をあまり読まない方にも手に取りやすい一冊です。私は一気読みしました。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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