先日ご紹介した「心理学研究法('20)」とセットで受講すると良いのが、今回ご紹介する「心理学統計法('21)」。
多くの大学の心理学部では統計法が必修科目となっており、心理学を学ぶ学生にとって第一の難関となることが多いです。心理学は文系学部に属することが多いのですが、数学的ともいえるこの科目を制覇しないと卒業できないという事実に打ちのめされてしまう学生が少なくないのです。
放送大学では、教養学部の心理と教育コースにおける専門科目として開設されています。おめでとうございます、放送大学では心理学統計法は必修科目ではありません!ただし、もし本記事をお読みのあなたが公認心理師になりたいとお考えならば、必ず修得しなければならない科目になっています。
心理学では、論文作成により研究成果を報告・発表します。学部生が受講可能な「心理学実験」で課されるレポート作成が、この論文作成スキルの素地をつくるといっても過言ではありません。そして、この論文作成にあたってほぼ必ずといって使用されるのが、心理学統計法なのです。
一口に統計法と言っても医学、社会学、教育学など利用される分野によって微妙に内容が異なります。今回は、伝統的な心理学における統計法を基礎から学ぶ「心理学統計法('21)」の印刷教材(テキスト)をご紹介します。
書籍は全国の書店などで購入できます。放送大学生でない方も、本科目の講義はBS放送などのテレビで視聴可能です。詳しい視聴方法は以下をご参照ください。
本講座の基本情報
本講座「心理学統計法」は、放送大学で開講されている科目です。
- 2021年度開設
- 放送授業(テレビ配信)
- 心理と教育コースの専門科目
具体的なシラバスはこちらからご参照ください。
放送授業はテレビで公開されており、書籍はAmazonほか各書店でお買い求めいただけます。各地域におけるテキスト取扱書店は下記をご参照ください。
こんな方にオススメ
- 公認心理士の資格を取得したい
- 心理学実験や調査を行い論文を作成したい
- 過去に心理学を学んでいたが、学び直したい
目次
本書の目次は下記のとおりです。全15回の放送授業に沿った章立てとなっております。
1 心理学統計法を学ぶにあたって
2 データの尺度水準と可視化
3 要約統計量
4 2変数間の関係
5 直線回帰
6 偏相関係数と因果効果
7 母集団と標本
8 確率モデルを用いた区間推定の考え方
9 母平均の区間推定
10 2変数の関係を表す統計量の推定
11 2条件の平均値の差の推定
12 統計的検定
13 3つ以上の平均値差の検定
14 対応のある3つ以上の平均値差の検定
15 統計的分析の注意点
統計学のスキルは論文作成に必須
先に述べたとおり、統計学のスキルは心理学における論文作成にあたって必須のスキルといえます。本書でも、次のように説明されています。
さて、心理学の分野で最も使われるのは、因果関係の推測です。もちろん、測定も予測も説明も行いますが、因果関係の推測が中心的であるのは間違いないでしょう。心理学では実験を使うということはすでに学習したかもしれません。心理学では、実験を使って因果関係を明らかにするということが研究のベースになっています。なぜ心理学で実験を使うのかは、第6章で詳しく学びますが、簡単に言えば、実験が因果関係を知るのに最もやりやすい方法だからです。心理学では、ある処置や介入、実験操作によって、人々の行動がどのように変わるかを確かめます。実験法を使うと、その介入こそが人々のその後の行動を変えたのだ、と主張できるのです。
引用元:清水裕士『心理学統計法(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
心理学実験の方法については「心理学研究法('20)」で理解を深めることができます。ただし、この「心理学研究法('20)」の範囲だけでは、ある処置や実験操作によって人々の行動がどのように変わったのかについて、統計的に示す技術を学ぶことができません。あくまでも、研究手法に焦点を当てて解説しているためです。
多くの心理学者は、統計解析ソフトウェアを用いて数的処理を施して、実験結果や調査結果を分析します。本科目でも、そのように学生がソフトウェアを利用して統計解析を行うことを主眼に入れて構成されています。よって、手計算で数値を求めるスキルを重視するというよりは、統計法の概念を理解することに重きが置かれており、全体を通して解説がなされています。
基礎から丁寧に解説している
さて、本書を読み進めながら統計法を学び直すうちに、かつて4年制大学を卒業した私は統計法の根本的な概念をすっかり忘れてしまっていたことに気付きました。しかしながら、学び直しの前には、「統計解析ソフトウェアを使えば、ちゃんと分析して論文を書くことはできると思う!」という謎の自信があったのです! 何故でしょうか?
それは、研究者自身の統計法に対する理解が不足していても、統計解析ソフトウェアがうまく処理してくれて、それっぽい結果を出してくれるからなのです。ただし、それっぽい結果が出てきても、解析結果の意味するところを深く理解しておかないと、考察の精度に影響を与えてしまいます。
こうしたことを踏まえると、本書は本当に丁寧に基礎的な部分を解説しています。心理学では区間推定による結果の解釈が頻繁に登場しますが、この区間推定をこれでもかというほど分かりやすく解説しているのです。理解するには、なかなか時間がかかったけれど…(´;ω;`)
統計法を学び直す方は、この基礎の学び直しに力を入れて取り組むことをオススメします!
Excelベースの優秀な統計解析ソフトウェア、HAD
本書でびっくりしたのは、HADという無料の統計解析ソフトウェアが存在すること、そしてそのソフトウェアを主任講師の清水裕士先生が開発されたということでした。
私が4年制大学に通っていたときにはそのような無料のソフトウェアが無く…レポート作成の都度、大学の研究室やPC教室に通って統計解析をしなければなりませんでした。通学に片道2時間もかかっていた私は、大学では統計解析ソフトウェアを用いた分析を中心に取り組み、先行研究などの文献を図書館でコピーし、通学中の電車のなかで考察などの部分を執筆・添削するという日々。「当時、HADがあったら自宅で統計解析デキタジャナイカ\(^O^)/」と思い至って、時代の流れに感激してしまいました。
当時、大学で推奨されていた統計解析ソフトウェアはSPSSというソフトウェア。学生向けの廉価版もあったのですが、有料で手を出しづらかったのです。もちろん、これはこれで卒業論文のお供として大変役立ってくれたのですけれど。
今ではこのHAD、旧帝大も含む多くの大学で統計解析ソフトウェアとして利用されているようです。他にも調べてみたところ、js-STAR XR+というサイトを用いて、インターネット上で統計解析を行うことも可能です。Excelであれインターネット上であれ、自分の使いやすいソフトウェアを用いて実験レポートを作成するとよいでしょう。
★HADに関する公式サイトはこちら↓です。「HADを教育に利用している大学一覧」にて、旧帝大を含む利用大学が確認できます。無料だけれど信頼できるソフト、ということですね!
★js-STAR XR+の公式サイトはこちらです。私は、放送大学で受講した「心理学実験」のレポートでjs-STAR XR+を使って提出したことがあります。js-STAR XR+の使用感もとても良いです!
関連書籍
- 鹿取廣人、杉本敏夫、鳥居修晃、河内十郎(編)『心理学 第5版補訂版』(東京大学出版会):かつて4年制大学に通っていたときに、旧版(第2版)を購入しました。今でも版を重ねてよく読まれているようです。心理学科生の入門書とも呼べる一冊。
- 森津太子、向田久美子『心理学概論(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):心理学を学ぶ方は、まずこちらの書籍からスタートすると良いです。2024年度には改訂版が登場し、よりパワーアップしています。2018年度版について記事を書きましたので、宜しければお読みください。
- 三浦麻子『心理学研究法(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):心理学という言葉を聞くとカウンセリングやセラピーを思い浮かべる方も少なくないと思いますが、学問としては実験や調査といった研究あってこそ。実務だけでなく研究も行いたいなら、研究法をしっかり理解しておきましょう。記事を書きましたので、宜しければお読みください。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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