心理系科目をコツコツ履修してきてはや3年。一般的な四年制大学では卒業まであと1年というところですが、働きながら放送大学で学び続けている私は、まだまだ学ぶべき内容が多々あるなと実感する日々です。
そんななかでも、公認心理師の学部カリキュラム履修に必要な科目群は順調に取得できており、4年目の前期で演習・実習科目を除き、無事すべて受講し終えました!
この公認心理師取得に必要な学部科目のなかで特殊なのは、やはり今回ご紹介する「心理職の専門性ー公認心理師の職責ー」でしょう。というのも、この科目を履修しようと考えている方のほとんどは、公認心理師を目指しているといえるからです。
科目名に国家資格の名前を冠する本科目は、そのものズバリ公認心理師を目指す方向けの内容です。ただし、長いあいだ信頼ある資格として認められてきた臨床心理士や臨床発達心理士、学校心理士、特別支援教育士などの心理専門職資格を目指す方の需要をも満たす内容となっています。
放送授業はインタビュー回が多めで、本書を読んだ大学院生などからの質問に答えるコーナーもあります。その意味では、実務で活躍する方と学生を間接的につなごうとする試みを感じる授業でした。
今回は、心理専門職の業務の奥深さや支援を受ける人との関係性の構築の重要さを学ぶ「心理職の専門性ー公認心理師の職責ー」の印刷教材(テキスト)をご紹介します。
書籍は全国の書店などで購入できます。放送大学生でない方も、本科目の講義はBS放送などのラジオで視聴可能です。詳しい視聴方法は以下をご参照ください。
放送大学科目の書評記事のまとめはこちら
放送大学の科目についての書評記事は以下にまとめました! ご興味あればご参照ください♪
本講座の基本情報
本講座「心理職の専門性ー公認心理師の職責ー」は、放送大学で開講されている科目です。
- 2026年度開設
- 放送授業(ラジオ配信)
- 心理と教育コースの専門科目
具体的なシラバスはこちらからご参照ください。
放送授業はラジオで公開されており、書籍はAmazonほか各書店でお買い求めいただけます。各地域におけるテキスト取扱書店は下記をご参照ください。
こんな方にオススメ
- 公認心理師を目指している
- 「人の役に立ちたい」という思いが強い
- 公認心理師と臨床心理士の違いや、資格の歴史について学びたい
目次
本書の目次は下記のとおりです。全15回の放送授業に沿った章立てとなっております。
1 導入:心理職における専門性とは何か
2 心の専門家としての臨床心理士と国家資格 公認心理師誕生の道のり
3 心理専門職の倫理を考える
4 心理専門職として出会う倫理葛藤
5 多職種連携における心理専門職の役割
6 医療分野における心理専門職のはたらき
7 教育分野における心理専門職のはたらき
8 福祉分野における心理専門職のはたらき
9 産業・労働分野における心理専門職のはたらき
10 司法・犯罪分野における心理専門職のはたらき
11 被災地支援における心理専門職の役割
12 地域における心理専門職の役割
13 心理専門職に求められる実践の基本姿勢
14 心理専門職にとっての生涯研修
15 心理専門職にとっての自己課題発見・解決能力
他者のための支援とは
私が本科目でとりわけ興味を惹かれたのは、「第3章 心理専門職の倫理を考える」です。「基本的人権を尊重する心理的支援」という節のなかで以下の説明がありました。
(中略)心理的支援を求める人は、何かが思い通りに進まない状況にあり、生きづらさや傷つきやすさを抱えている状況にある。そこでは「この問題を何とかしてくれる」万能的な助け手や、「苦しみや傷を取り去ってくれる」癒し手が求められがちである。そのような役割を求められたとき、支援者として関わることで、支援を求める人に大きな信頼と期待を抱かせ、支援者に頼りたいという気持ちを生じさせやすいこと、支援者の言動は非常に大きな影響力を及ぼしうることについて、まずしっかりと認識しておきたい。同時に自分自身についても「人の役に立ちたい」という欲求を持って、支援を求める人と関わろうとしていることを自覚しておかなければならない。
引用元:吉川眞理、平野直己『心理職の専門性〔改訂版〕: 公認心理師の職責(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
これまで、私はボランティア活動を10年ほど続けてきました。無償のボランティア活動に応募してくる人びとが語るきっかけは、さまざまです。「友人に誘われて」「子育てが一段落したので」「退職後の社会貢献として」などなど。どこのボランティア団体も、似たような応募理由はよく見られるものと思います。
なかには、「私、誰かのためになにかせずにはいられないんです」と語る方もいました。私はその方と直接の面識はありませんが、周囲の方からの評価も踏まえると、この方は自己犠牲の精神を強く持ち、また、そのことを当然のことと見なして生きていらっしゃるようでした。
周囲には、このような関わり方を鼻で笑っている仲間もいました。「ボランティアって、そういうものじゃない」。経緯は把握しておりませんが、その後、この自己犠牲の精神が強い方は当団体からは抜けたようです。
本書を読んでいて、このエピソードを思い出しました。実は、私自身も「自分を犠牲にすることに喜びを感じるって、支援者としてどうなんだろう」という疑問を持っていました。それは、「自分のための」ボランティアであって、「支援を求める方のための」ボランティアではないということだからです。
「誰かのために行動する自分が好き」という生き方は否定されるものではありませんが、支援者としての適性としては、疑問符がつくでしょう。私には、共依存の状態に陥っていると感じられるからです。
しかし、ここまで考え、では自分はどうなのかと振り返ってみたとき、この自己犠牲的な発想が自分の中にも少なからず存在していることに気がついたのです。「人の役に立ちたい」という自分の欲求が暴走すると、自己犠牲につながるのではないか。この甘美な欲望との葛藤を自覚せねばならない。
皆さんはどうでしょうか。おそらく専門職として働く人々にも、「相手の方のために力になりたい」という思いから相手の方の成長の機会を奪ってしまう支援者が一定数の割合で存在しているのだと思います。だからこそ、この指摘はよくよく肝に銘じなければならないなと感じました。
善意の支援が現場の混乱を招く
これと関連して、「第11章 被災地支援における心理専門職の役割」から、昨今頻度が増している災害支援に関する記述も引用します。
筆者は、東日本大震災の後2011年3月25日から国連ユニセフの職員とともに子どもの支援のため、東北各県の行政との支援連携体制構築を試みた。当然のことながら、発災から2週間ほどの時点で、被災地の行政職員は自らが被災している上に、緊急で膨大な仕事を前に圧倒された状態にあった。しかし驚くべきことに、そのような状況の中で最も対応に追われ、職員の負担になっていたのは、多くの支援物資や支援をしたいという人の善意の要請への対応であった。こういった事態によって地域の回復力が損なわれてしまう状況を改善すべく、また支援が役立つものとして活用されるために、支援団体間で協力して連携する必要があった。
引用元:吉川眞理、平野直己『心理職の専門性〔改訂版〕: 公認心理師の職責(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
これまで、自分は「ヒト・モノとしての支援は専門家に任せて、初動としては金銭面での支援(寄付)を優先すべき」と考えてきました。これは非専門家としての自分のスタンスであるわけですが、現地で対応にあたる支援者への負担を考えても、素人としてできる範囲の支援者支援に取り組むべきという思いからの考えです。
では、自分自身が専門家として現地入りするときにはどう振る舞うべきなのか。現地へ支援者として来た心理カウンセラーに対して、被災者が気疲れするということもあるでしょう。被災地へ来る支援者には、「自分にできる支援がしたい」という思いがあることとと思います。
ただし、「災害の現場を見てきたい」「支援実績の一つとして今後の仕事に活かせるかもしれない」というやや不純さを感じさせる動機もゼロではないような気がします。
「私が支援したい」という自分目線の支援は、支援の本質から考えたときには深く自覚せねばならない感情なのだと思います。もしかすると、災害時にSNSで善意からフェイクニュースを拡散するときの人びとの心情と近いのかもしれません。
公認心理師の誕生に至るまで
公認心理師観点では、「第2章 心の専門家としての臨床心理士と国家資格 公認心理師誕生の道のり」が、その歴史的背景を丁寧に解説していて学びが多かったです。
公認心理師の誕生に至るまでの経緯は「心理臨床の法・制度・倫理」にも解説があったのですが、本書では、精神科七者懇談会総会の文書、三団体会談による国家資格化要望書、公認心理師法案に対する附帯決議などの文書が資料として付されています。放送大学で履修可能な、公認心理師取得に必要な学部科目のなかでもトップクラスの丁寧さでした。
私は過去に四年制大学で心理学を専攻していたため、臨床心理士という資格はそれなりによく理解しています。ただ、二資格一法案という形で国家資格化が目指されたという、臨床心理士と並列で述べられた臨床心理技術者という資格については、大学生だった当時はあまり見聞きしていませんでした。
一方で、この臨床心理士の流れとは独立して、精神科病院で勤務する「臨床心理技術者」の国家資格化への強い期待が存在していた。歴史の流れをふりかえると、宇都宮事件により国際連合人権委員会の勧告を受けて、平成9年(1997年)精神保健福祉士法が成立した際、同委員会は精神保健福祉士とともに臨床心理技術者の国家資格化にも期待を寄せていた事実があった。
引用元:吉川眞理、平野直己『心理職の専門性〔改訂版〕: 公認心理師の職責(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
こういった歴史を踏まえて公認心理師という国家資格が生まれたということを理解しておかないと、医師との連携についてもピンと来ないということになるのでしょう。あらためて先人たちの議論を振り返り、今後の自分につなげていこうと思います。
関連書籍
- 津川律子、元永拓郎『心理臨床における法・倫理・制度:関係行政論(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):今回ご紹介した『心理職の専門性ー公認心理師の職責ー』とセットで学びたいのはこちらの科目。心理職という職種にとって大切なことが書かれています。記事にしましたので宜しければご覧ください。
- 松本俊彦(編)『「助けて」が言えない SOSを出さない人に支援者は何ができるか』(日本評論社):「人のことを助けたいという気持ちは強いが、自分は助けを求めることができない」という支援者は多いです。記事にしましたので宜しければご覧ください。
- 李永淑(編集)『モヤモヤのボランティア学: 私・他者・社会の交差点に立つアクティブラーニング』(昭和堂):被災者が心理カウンセラーに気を遣わされて負担になったという記述があります。記事にしましたので宜しければご覧ください。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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