いよいよ放送大学も4年目になり、心理学の知識も少しずつ強化されてきた今日この頃。自分にとって知見が少なく難しそうだなと思い履修したのが、今回ご紹介する「司法・犯罪心理学」です。
私はこれまで法律に関する勉強をした機会がほとんど無く、馴染みがあるのは産業・労働分野の基本的な法律くらいでした。特に、司法臨床の世界に対する体系的な理解が圧倒的に不足していました。こうした分野の知識は、司法福祉の世界で働いている知人から時折こぼれ話を聴くくらいだったのです。
そんな私が履修を終えて思うのは、「やっぱり難しいな~」という感想。民法や刑法といった司法の基礎知識がある程度備わっている方は、すでに持っている知識に司法臨床の考え方をアドオンする形になるので、私ほど困難を感じることなく理解していくことができるかもしれません。
ただ、この科目は架空事例を示して解説している箇所がいくつかあり、字面だけではよくわからない難しい用語についての理解を促す仕組みが備わっています。著者の廣井亮一氏は、家庭裁判所調査官として少年事件と家事事件に18年のあいだ関与してきた豊富な経験から、過去に触れた事例を元に架空の事例を作成したのでしょう。
今回は、臨床の観点から少年事件、家庭紛争事件、刑事事件における対人援助を学ぶ「司法・犯罪心理学」の印刷教材(テキスト)をご紹介します。
書籍は全国の書店などで購入できます。放送大学生でない方も、本科目の講義はBS放送などのラジオで視聴可能です。詳しい視聴方法は以下をご参照ください。
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本講座の基本情報
本講座「司法・犯罪心理学」は、放送大学で開講されている科目です。
- 2026年度開設
- 放送授業(ラジオ配信)
- 心理と教育コースの専門科目
具体的なシラバスはこちらからご参照ください。
放送授業はラジオで公開されており、書籍はAmazonほか各書店でお買い求めいただけます。各地域におけるテキスト取扱書店は下記をご参照ください。
こんな方にオススメ
- 公認心理師を目指している
- 具体的な事例を通して司法臨床の知識を深めたい
- 少年非行の歴史的推移に関心がある
目次
本書の目次は下記のとおりです。全15回の放送授業に沿った章立てとなっております。
Ⅰ部
1 犯罪心理学・非行臨床
2 少年犯罪の現状
3 少年非行の歴史的推移
4 いじめ問題
5 犯罪者・非行少年の更正に関わる専門家
Ⅱ部
6 家庭事件と司法
7 児童虐待と高齢者虐待
8 離婚紛争と子ども
9 学校問題と司法
ー体罰問題と保護者対応
Ⅲ部
10 司法臨床ー法と心理臨床の協働
11 加害者臨床
12 ストーカー犯罪
13 精神鑑定をめぐって
14 犯罪被害者と贖罪
15 司法と犯罪心理学・非行臨床の課題と展望
ー司法における「人」の復権
本書の構成
本書では、3部構成の形を取り少年事件、家庭紛争事件、刑事事件を取り扱っています。どれもメディアで事件を見聞きすることが多いでしょうから、本書に掲載されている著名な重大事件を自分でも調べてみて、その司法手続きの流れを追いながら理解を深めていくのも良いでしょう。
少年非行の歴史的推移
少年事件についてかなり興味深く読んだのが、各時代における非行の特徴です。第3章では、少年非行の歴史的推移について丁寧に示されていました。
犯罪社会学の立場から、社会背景に則した少年犯罪の変化について、Ⅰ期1945年(戦後民主化時代)~1960年、Ⅱ期1960年(高度成長時代)~1980年、Ⅲ期1980年(管理社会化時代)~1990年、Ⅳ期1990年(高度情報化時代)~2003年、Ⅴ期2003年(ネット社会化時代)~現代、でまとめている。そのうえで、少年犯罪が変わり始めたのは1980年代からで、さらに1998(平成10)年~2003(平成15)年にかけて子どもたちの人間性自体が変質したという(間庭、2009)。
引用元:廣井亮一『司法・犯罪心理学〔改訂版〕:司法臨床のアプローチ(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
1945年からの推移なので、本書を通して学ぶ多くの読者の学生時代をカバーしています。皆さんが中学生、高校生だった頃の非行はどんな内容が多かったでしょうか? また、あなたの子どもの学校では、どのようないじめや事件が起きていましたか?
私が中学・高校生だったのは「Ⅳ期1990年(高度情報化時代)~2003年」と「Ⅴ期2003年(ネット社会化時代)~現代」のあたりです。2001年には、学校の先生が「キレる17歳」についてホームルームで話していたことを覚えていますし、2005年には、巨大掲示板の2chで同級生への誹謗中傷が書き込まれていたこともよく覚えています。
自分に直接関連が無い時代においても、テレビで見聞きした有名人の武勇伝や重大事件を元に、この第3章で示されている時代別の特徴を読んでいくのはいろいろな発見がありました。
依存性の未熟さが虐待を誘発する?
次に、家庭紛争事件で印象に残ったのは、児童虐待に関する話題です。
虐待傾向のある親が抱える最も大きな課題はその人格的な未熟さである。特に、人と人との関係において、「依存することを自ら選択する能力」が十分に育っていないという未熟性が指摘される。自ら抱えきれない課題について、適切な方法で他者に援助を求めるということは大切な対人関係能力の1つである。
引用元:廣井亮一『司法・犯罪心理学〔改訂版〕:司法臨床のアプローチ(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
他者に適切に依存することができない人たちは、歪んだ依存性を示すことになる。アルコールや麻薬など薬物への依存、過食など食に関する依存、ギャンブル依存やワーカホリックなどである。児童虐待は、親のストレスやフラストレーションを小さな子どもにぶつけることで解消するような「親が子どもに依存する」という、「親子関係の逆転」ともいえる歪んだ依存関係である。
この指摘は私にとって目新しいものであり、かつ、かなり的を射ているなと感じました。それから、職場で起きるパワハラ事案のことを想像してみて、この「歪んだ依存性」は児童虐待だけでなく他者に対する攻撃性全般にもいえることなのではないか、その暴力性の本質に「他者に依存できない」という特徴があるのではないか、と思われたのです。
実は、いま働いている会社のさまざまな職場でトラブルを起こしがちな後輩がいます。その方は、私からはもがき苦しんでいるように見えるのですが、業務上のアドバイスをしても無反応であることが多いです(お礼の言葉も反対意見の表明もなし)。ある時は、逆ギレされてしまいました。
このため、「ちょっと距離を置いた方が良いのかな」と思って数ヶ月…だったのですが、上記の気づきを得てから少し考えを見直しているところです。周囲が関わり続けることで、「他の人に助けてもらう」ことのスキルが伸びるのを待つのも支援の一つなのではないか、と思ったのでした。今は、相手の思いも汲み取りながら指摘すべき点は指摘しつつ、という関係が続いています。
架空事例における精神鑑定と判決
刑事精神鑑定には、責任能力鑑定、訴訟能力鑑定、情状心理鑑定などがある。従来、精神鑑定といえば責任能力の鑑定といっても過言ではなかったが、2009(平成21)年に始まった裁判員裁判で一般市民が裁判に参加して以来、情状心理鑑定の必要性が高まっている(辻、2012)。
引用元:廣井亮一『司法・犯罪心理学〔改訂版〕:司法臨床のアプローチ(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
精神鑑定ということばは広く知られていますが、精神鑑定にもいろいろな種類があるということを今回初めて学び、その詳細についてまったく理解していなかったことに気づきました。
この第13章で凄いのは、架空事例のなかで情状心理鑑定が行われ、検察官と弁護人の主張が展開された結果、最終的に裁判官の判決が下される点です。個人的にはある重大事件を思い出す事例であり、被告人の人生に寄り添った判決を望みながら読み進めていました。
しかし、判決は弁護側の主張に過度に寄りすぎることもなく、およそ現実的なところに着地します。ここに司法のリアリティを見たような気がして、そういった意味でも学びにつながったように思います。
ちょうど、この科目を学び始める少し前に、2022年に起きた安倍首相銃撃事件の刑事裁判第一審の判決が出ました。各社報道の文面に若干の差異があり、メディアの緊張感なども感じたものです。私にとっては、情状心理鑑定の結果が必ずしも量刑に反映されるわけではないという現状をあらためて認識させられる事件となりました。
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関連書籍
- 廣井亮一『司法臨床入門第2版』(日本評論社):廣井亮一氏が著した司法臨床についての書籍です。司法臨床をさらに深く知りたいという方はこちらの本を読むと良いでしょう。
- 福島章『ストーカーの心理学』(PHP研究所):本記事では割愛しましたが、ストーカー事件の分析結果も読ませる内容でした。こちらの書籍などをお読みいただくと理解が深まるかと思います。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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