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【書評】少数派が社会を動かす?放送大学教材の「社会・集団・家族心理学」を読む

【書評】森津太子『社会・集団・家族心理学〔改訂版〕(放送大学教材)』(放送大学教育振興会) 書評

心理学のなかでも身近な話題をテーマに研究する学問領域の一つに、社会心理学があります。ミルグラムによる権威への服従実験(アイヒマン実験)フェスティンガーによる認知的不協和理論…。「どこかで聞いたことがあるぞ…!」という方も少なくないことでしょう。これらは社会心理学の研究から生まれた知見です。

私は、20歳前後の頃に通っていた四年制大学で心理学を専攻していました。そこでは、新入生一人一人に学科の教授が割り当てられ、学生生活に関する相談や雑談に応じてくれるという制度がありました。

久し振りに母校のHPを覗きましたが、この制度についての記述がなかったため制度名などの詳細は不明です。大学全体ではなく学部としての取り組みだったのか、それとも非公式な形で行っていたのか…。

当時、私が割り当てられた教授が、まさしく社会心理学の専門家でした。本当に気さくな先生で、大学の歴史や学会の話など研究室で一緒にお昼ごはんを食べながら過ごした記憶があります。

この教授の授業もゼミも非常な人気を誇っており、心理学を学ぶ同級生の多くが、教授と社会心理学の両方とも大好きになりました。しかし、自分のゼミ選択時には教授が定年を迎えたということで、社会心理学のゼミを受け持つ教授が別の新任の教授となった記憶があります。

そんなことを思い出しながら履修した、放送大学の「社会・集団・家族心理学」。講師の森津太子先生からにじみ出る雰囲気は当時の教授のようにあたたかく、さまざまな配慮をそっと忍ばせながら丁寧に講義内容を説明する姿を見るだけで学習意欲が湧くものです。「うーん、これぞ社会心理学!」などと感じてしまいました。しかも、本科目は心理学の学習者だけでなくすべての人に役立つ内容満載です。

今回は、社会における人間を心理学的に考察する社会心理学に加えて集団、家族もその射程に含めた「社会・集団・家族心理学」の印刷教材(テキスト)をご紹介します。

書籍は全国の書店などで購入できます。放送大学生でない方も、本科目の講義はBS放送などのラジオで視聴可能です。詳しい視聴方法は以下をご参照ください。

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放送大学科目の書評記事のまとめはこちら

放送大学の科目についての書評記事は以下にまとめました! ご興味あればご参照ください♪

本講座の基本情報

本講座「社会・集団・家族心理学」は、放送大学で開講されている科目です。

  • 2026年度開設
  • 放送授業(テレビ配信)
  • 心理と教育コースの専門科目

具体的なシラバスはこちらからご参照ください。

放送授業はテレビで公開されており、書籍はAmazonほか各書店でお買い求めいただけます。各地域におけるテキスト取扱書店は下記をご参照ください。

こんな方にオススメ

  • 公認心理師を目指している
  • 集団の意見がどのように変わっていくのかに関心がある
  • アイデンティティの形成に関心がある

目次

本書の目次は下記のとおりです。全15回の放送授業に沿った章立てとなっております。

 1 社会心理学とは何か
 2 対人認知とステレオタイプ
 3 原因帰属と社会的推論
 4 感情と認知
 5 態度と説得
 6 自己概念と自尊感情
 7 自己過程
 8 対人関係
 9 対人行動
10 社会的影響と集団力学
11 社会的葛藤
12 家族という集団
13 家族内の関係性
14 心の文化差
15 社会心理学のこれから

少数派の影響は意外と大きい?

本書を読みながらたびたび思い出されたのは、SNS上で注目を浴びる投稿たちです。社会的な経済格差や差別感情を題材にした発信は多くのユーザに拡散され、賛同を得たり批判を受けたりという一連の流れが日常になりました。ときに炎上して火消しに回るという事件も、もはや見慣れたものとなってきましたよね。

差別感情やステレオタイプに関する議論は本書の読みどころの一つではありますが、ここでは少数派の意見が多数派に与える影響について考えてみたいと思います。

 多数派の同調圧力は強力であるが、少数派が集団に影響を及ぼすこともある。モスコビッチら(Moscovici et al., 1969)は、アッシュの同調実験のパラダイムを応用して少数派の影響を検証した。
(中略)これは、少数派の影響が一時的なものではなく、内面的同調(私的受容)を伴っている可能性を示唆している。実際、メタ分析では、少数派の影響は時間の経過とともに増大する傾向があることが示されており(Wood et al., 1994)、一貫性のある少数派の主張は、長期的な認識の変化をもたらしうると考えられる。

引用元:森津太子『社会・集団・家族心理学〔改訂版〕(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

野党が乱立している日本では各党が議席確保を目指し、選挙のたびに移民の受け入れ方針や今後の消費税の在り方に関するさまざまな主張を展開しました。

自分としては、政治家が外国人排斥の主張を声高に叫ぶという選挙活動は、これまでの人生であまり見聞きした記憶にありません。世間でもそうであったためか、SNS含むさまざまなメディアで選挙に関する内容が大きく取り上げられました。こうした世論の盛り上がりを反映してか、2027年4月に外国人の永住許可要件を厳格化する方針が報じられました(2026年7月末時点の情報)。

さらに、高市早苗首相が2027年4月より2年間限定で消費税を1%へ減税する方針を発表しました(2026年7月末時点の情報)。今回は1%という形で方針が示されましたが、消費税減税についても2026年2月の衆議院議員選挙での争点となっていました。

私自身としては、どちらの政策に対しても検討すべき点が多く即断できる状況ではないと考えていましたので、大変驚きました。ここで考えたいのは、どちらの事例においても、議論の俎上に載せようと第一声を上げたのは新興の少数野党だったはずだということです。これらの主張が実際に制度として組み込まれていくところに、少数派の影響の大きさを感じています。

さらに驚くのは、これらの政策に対する自分自身のこころの動きです。もともとはネガティブな評価を下していた場合でも、「○○というケースについては、たしかに現状の制度を是正した方がよいかもしれない」といった形で意見が微修正されていき、最終的な意見は変わらずとも、少数派の意見も「一理ある」という見方になっていったことをここに告白します。

自分は政治の専門家ではないですし、現行政権の判断が未来にどのような影響を与えるかという点は未知数だなと感じています。ただ一つ言えるのは、社会心理学の研究で得られた知見と同じく、国民や自分の意見が少数派の考えにやや近づいたという実感です。

どんなときに人は攻撃的になるのか?

以上の政策に対する議論もそうですが、SNS上では怒りが注目を浴び拡散されていきます。なぜ人は怒り、物理的・心理的に攻撃するのでしょうか?

 攻撃とは、「他者に危害を加えようとする意図的な行動」と定義される(大淵、2011)。ただし、後述するように、攻撃行動には感情的な側面が関与し、怒りや敵意が攻撃の動機となることが多い。また、認知的、生理的要因も影響を与えることが指摘されている(Anderson & Bushman, 2002)。これらを踏まえると、攻撃行動は他者に危害を加えるという行為だけにとどまらず、心理的・環境的要因の相互作用によって生じうる複雑な現象であると考えられる。

引用元:森津太子『社会・集団・家族心理学〔改訂版〕(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

本書では、攻撃行動を促進する要因に個人要因状況要因を挙げています。ここでは、状況要因を考えてみます。

 状況要因も攻撃行動を促進する。たとえば、高い気温、混雑(密集)、騒音、大気汚染などの不快な環境要因が、攻撃行動を引き起こしやすいことが、多くの研究で報告されている。

引用元:森津太子『社会・集団・家族心理学〔改訂版〕(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

ここ数年、高頻度で熱波や猛暑が世界を覆っています。沸騰時代という言葉も登場し、ついには「猛暑」が「酷暑」ということばで置き換えられるようになりました。暑く、混雑した状況といえば朝の通勤電車。ここで、「怒りが増幅されるのはもしかして通勤途中なのではないか?」という思いが生じてきました。

あれはコロナ禍が訪れるよりも前の地下鉄での出来事。私は優先席付近に立っておりました。季節はいつ頃だったかもう記憶が定かではありませんが、梅雨時分だったのかじめじめしていて車内の湿度はかなり高まっていました。しかも汗が流れるほど暑く、身動きがとれないほど混雑していたのです。

ちょうど目の前に高校生くらいの女の子が立っていました。制服を着た彼女はかなり不満気な顔(そりゃそうだ)で、周囲を睨みつけています。「分かる、分かるよ…。しんどいよね…」と心の中で共感しつつ、自分もこの状況にイライラしていたそのとき! 彼女はおもむろにスマートフォンを取り出しました。彼女はTwitter(現X)を開き、不満をスマホに激しく打ち込み投稿していたのです(ちょっとだけ投稿内容が見えました)。そしてその後も、周囲を睨み回して何回か溜め息をつきました。

きっと暑く混雑した車内を離れれば、彼女も朗らかに笑いながら青春の日々を過ごしていたのかもしれません。しかし、同じ車内で同じ時間を過ごしただけの私には、そうした彼女の素晴らしい点が一切想像できず、負の感情が私の方にも伝染したのは言うまでもありません。

いま怒りの投稿をしている方は、気温や混雑だけでなく、経済状況や将来のことなど不安が大きい状況なのではありませんか。他者をなぜ攻撃するのかということを考えるときは、個人で努力すべきことと環境として整えるべきこととを切り分ける必要があるのかもしれません。

家族心理学の観点から文化の影響を考える

最後に、家族心理学の観点から文化の影響について考えてみます。

 もっとも、文化はあまりにも日常生活に浸透しているため、その影響を意識することは少ない。自分が所属する文化の影響を自覚するのは、異文化に直面したときである。箕浦(1990)は海外駐在員の子どもを対象に文化的受容とアイデンティティ形成のプロセスを追跡し、子どもたちが家庭の内外の異なる文化に接しながら、自らの行動を調整し、適応していく様子を明らかにした。その中で、感受期(おおよそ9歳から14~15歳)以前の異文化接触が、その後の文化的受容のあり方に大きく影響することが示されている。

引用元:森津太子『社会・集団・家族心理学〔改訂版〕(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

実は、私は幼少期に海外で生活した経験がある帰国子女です。きょうだい二人とも帰国子女でおおよそ感受期あたりでの現地滞在でしたが、家族で自分だけが感受期よりも前の年齢(9歳未満)で海外に移り住みました。

大人になってから思うのは、自分は他の家族とちょっと違った価値観を持っているようだということでした。私は日本的なものの見方も大切にする一方で、滞在した国で一般的に受け入れられていた価値観も重視しています。人それぞれ個性がありますから、本人自身の性格特性によるところもあるかと思いますが、最近はこうした成育環境による価値観の違いで衝突が起こっているのでは、と時々考えるようになりました。

海外経験だけでなく、感受期以前にどのような人と関わりがあったのかというのも、その子どもの価値観に大きな影響を与えています。高齢の親族が身近にいる環境で育った、外国につながりのある友達がいた、近所の人がペットを飼っていた、地域の結束が強かった、などなど。

子育ての形はさまざまですが、保護者以外から受け取る影響も多々あります。そんなことを感じさせる研究でした。

放送大学科目の書評記事のまとめはこちら

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関連書籍

  • スタンレー・ミルグラム(著)、山形浩生(訳)『服従の心理』(河出書房新社):よく知られたアイヒマン実験ですが、その実験内容をきちんと確認したことがある人は意外と少ないのではと思います。戦時中の時代についての関心が高まっている現代にこそ、目を通しておくと良いかもしれません。

  • レオン・フェスティンガー(著)、ヘンリー・W・リーケン(著)、スタンレー・シャクター (著)、水野博介(訳)、釈徹宗(解説)『予言がはずれるとき 新装版: この世の破滅を予知した現代のある集団を解明する』(勁草書房):認知的不協和の理論を検証する社会心理学の古典。予言を教義の中心におく宗教グループの布教活動に関する社会心理学的な実証研究です。宗教2世問題と関連付けて読み進めると得るものがありそうです。

  • 池田謙一、唐沢穣、工藤恵理子、村本由紀子『社会心理学 補訂版』(有斐閣):社会心理学を学ぶ際のテキストとしてのテッパン本は、こちらの書籍ではと思います。読み物としても、専門への入り口としても充実しています。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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