2005年より日本では学校に栄養教諭が配置され、食に関する教育が行われるようになりました。食べるという行為から健康を考える食育が定着してだいぶ経つので、このような資格をお持ちの方もいらっしゃることでしょう。
今回は発想の転換として「食」の出ていく先である「排泄」の観点で、大変勉強になる一冊をご紹介します。その名も、ちくまプリマー新書の『ウンコの教室』です。
ストレートなタイトルに目を奪われてしまいます。「ウンコ」という言葉は一種タブーの領域として捉えられがちですが、本書は排泄物に真剣に向き合い、そのテーマを学術的に昇華しています。
敬遠せず、是非お読みいただきたい一冊です。また、このレーベルは子ども向けの新書という位置づけのため、読書に不慣れな方でも読みやすい一冊です。
こんな方にオススメ
- SGDsに興味関心がある方
- 子どもを持つ保護者の方
- ウンコを巡る循環型社会の取り組みを知りたい方
生きるために欠かせないものは?
なんといっても、「はじめに」の冒頭が衝撃的で早く先を読み進めたい!という気持ちでいっぱいになってしまいます。その冒頭がこちら。
私たちが生まれてから死ぬまで、二人三脚をするようにいつも一緒に在るもの、生きるために欠かせないもの、生きているからこそ存在するものとは何でしょう。
それはウンコです。
私たちが生きるためには「衣食住」が必要だとよく言われます。この本では、そこにもう一つ、「便」を加えてみようと思います。そうすると、どんな世界が見えてくるのでしょうか。当たり前すぎで見えなかったものが見え、考えてもみなかったことの中に、思いがけない発見があるはずです。
引用元:湯澤規子『ウンコの教室―環境と社会の未来を考える』(筑摩書房)
「それはウンコです。」と高らかに宣言する著者。日常生活の中で気軽に会話に出すことが憚られるようなワードを議論の俎上に載せています。たしかに、排泄…いや、ウンコは大切です。生きていくために必須の要素です。著者の湯澤規子氏は、このウンコについて学術的に研究しているのです。
上記のように本書の序盤から議論の核心に触れていく著者。しかし、そこに研究者ならではのお堅い雰囲気はなく、むしろユーモアを大切にされているご様子。
ところが今は、トイレやウンコの話を堂々としています。本も書きました。大学で教員をしているので、講義でも話します。ウンコのTシャツを着て教壇に上がると学生たちが大喜びするので、私は張り切ってしまいます。なかなか売っていないので、ウンコイヤリングも作りました。話をしてほしいと呼ばれると、講演会でも対談でも、小学生の放課後教室でも、どこへでも出かけて行きます。子ども向けのウンコ絵本も作りました。そして今は、この本を通して、あなたに向かって話しかけています。
引用元:湯澤規子『ウンコの教室―環境と社会の未来を考える』(筑摩書房)
ウンコイヤリング…!!なんともサービス精神旺盛な先生ではありませんか。
学校のトイレは和式が約半数!
皆さんが子どもの頃、学校のトイレにはどんな場所でしたか?壁や床はどうでしたか?
私が子どもの頃は、和式便器がやや多めであるけれども洋式便器も備えてある、といった具合でした。掃除は生徒が行う形で、ホースで床や壁に水を撒きつつ専用ブラシでゴシゴシ汚れを落としていたことを覚えています。
文部科学省が2020年(令和2年)9月に実施した調査によると、令和の現代でも和式便器が意外にも多く設置されているとのこと。
公立小中学校におけるトイレの便器の数は全部で約一三六万個あり、そのうち洋式便器は約七七万個(約五七%)、和式便器は約五八万個(約四三%)でした。その四年前の平成二八(二〇一六)年に実施した前回調査では、洋式便器が約四三%、和式便器が約五七%だったので、割合が逆転したことになります。
引用元:湯澤規子『ウンコの教室―環境と社会の未来を考える』(筑摩書房)
えぇ~!!
平成の最後でも和式便器が半数以上だったの!?
私自身は、高校を卒業してから和式便器をめっきり見なくなりました。駅などの公共トイレでたまに見かけた記憶はありますが、勤務先のオフィスはすべて洋式便器です。
思えば、かつて学校で用を足すのはちょっと抵抗がありました。便器や床は水で濡れていることもあり汚れていることが少なくありませんでした。また、ニオイなどの問題もありました。
2017年度(平成29年度)の調査によれば、約6割近くの子どもが、学校でウンコをしたくなった時に我慢しているということです。そのためか、小学生の約6人に1人(17%)が便秘状態、約5人に1人(21%)が便秘予備軍であるとのこと。こ、これは由々しき自体だ…!!
現代では、多くの子どもが自宅では洋式便器とフローリング式の床でウンコをしているでしょうから、学校のトイレ事情には驚くばかりです。自治体の意向もあるようで、なかなか変えられないようですが…。
なお、1980年代頃には、自宅のトイレが汲み取り式便器(ぼっとん便所)という家庭もまだまだ多かったと思われます。私の親の実家もそうでした。同じ和式便器でも、現代における水洗式と比べると汲み取り式の方が衛生面や危険度が桁違いであったと想像します。
そういう時代を経験した子どもたちが、大人になって「トイレの花子さん」に代表されるような怪談話を作ったのかもと想像すると、やはり学校のトイレは怖いところ、嫌なところだったのだろうなと考えてしまいます。
ウンコを肥料へ活用する循環型社会
著者は、冒頭で「衣食住」に「便」を加えたいと述べていました。とりわけ「食」と「便」は結びつきが強く、「食べること」と「排泄すること」が繋がっているというのは納得のいく話ですよね。食べたものが排泄されていくからです。
ただ、ここで考えるのは逆の方向性です。排泄されたものが食べ物に繋がってゆく、ということです。そう、排泄物を肥料に活用して野菜を育てるということです。
人糞尿を「下肥」として土に還元していたというのはかなり昔の話だろう、単なる過去の遺物だろうと思われるかもしれません。しかし、結論を先んじて言えば、今からわずか五〇年前、一九七〇年代頃までは日本の各地で下肥の利用は継続されていました。戦中戦後の物資不足にはもちろん肥料も含まれていて、同時に食糧難も生じていました。そうした中で、少しでも農業の生産性を上げるために、自給肥料として下肥が重宝されていたからです。また、化学肥料が輸入されるようになるまでは、肥料のすべてを国内で賄う必要がありました。その時に、江戸時代以来続いてきた「下肥」利用の技術が大いに農業を支えることになったのです。
引用元:湯澤規子『ウンコの教室―環境と社会の未来を考える』(筑摩書房)
よく知られているとおり、江戸時代にはサステナブルな経済社会が構築されており、人糞尿が回収され盛んに売買されていました。排泄物が肥料として活用されていたのですね。
本書で特に目を引かれたのは、サラブレッドのウンコの活用法です。
そこで、「馬糞」を短期間で堆肥化、活用するサイクルを提案し、茨城大学農学部と、つくば牡丹園の運営主体である株式会社リーフの技術・事業力を融合し、馬糞の堆肥化を実現させました。二〇一九年からは堆肥の商品化、ホームセンターなどでの販売開始、堆肥ハウスの増設、成果・成分分析も実施しています。その肥料には「サラブレッドみほ」という魅力的な名前がつけられ、販売されるまでになっています(図6-2)。
引用元:湯澤規子『ウンコの教室―環境と社会の未来を考える』(筑摩書房)
サラブレッドはドーピング検査に備えて医薬品の使用が限定されるため、馬糞が質の良い有機物になるということ。なるほど、自宅の庭で本格的に野菜を育てるつもりなら、こうした肥料がとても良い栄養を与えてくれそうです!
↓「サラブレッドみほ」はつくば牡丹園さんのBASEショップからご購入いただけます。ご興味がある方は是非お試しください。
関連書籍
- 湯澤規子『ウンコはどこから来て、どこへ行くのか ――人糞地理学ことはじめ』(筑摩書房):今回ご紹介した本の著者がちくま新書で出版したのがこちらの書籍です。
- デイビッド・モントゴメリー(著)、アン・ビクレー(著)、片岡夏実(翻訳)『土と内臓―微生物がつくる世界』(築地書館):『ウンコの教室』でも紹介されていた本書。土壌と人体を巡る微生物の働きについて視野が広がる一冊です。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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