私たち日本人は、外国語教育といえば多くの方が「英語教育」を想像するのではないでしょうか。
最近では学習指導要領の改訂により、2020年から小学校での英語教育が必修化されました。もともと、高校受験に向けて試験勉強をする学生にとって、得手不得手はありながらも英語は身近な科目です。
そのうえ、大学生や社会人になれば、TOEICに代表されるような資格試験の結果を示して、自分の英語力がいかほどか証明する場面がしばしばあることでしょう。
実は私も、日々コツコツと英語を学び続けています。
※詳細は【書評】社会人になっても語学を学び続ける!「英語独習法」を読む、【英語】語学学習を始めるなら、まずはNHKラジオ講座を使い倒そう!などの記事をご参照ください。
韓国の音楽グループBTSのグラミー受賞を見ていても、英語を使いこなせないと世界的に活躍することは難しいという実感があります。もっと日常的な話でいえば、海外のニュースに翻訳なしで直接アクセスすることで、より一次的な情報に触れることができるといえるでしょう。
グローバル化が進む世界で、共通語として機能してきた英語。現代日本の英語教育の功罪を再点検することも必要かもしれませんが、いったんそうしたことは脇において、グローバル時代における英語のあり方を考えてみるのはいかがでしょう。
今回はご紹介するのは、英語を学ぶための書籍ではありません。グローバル時代における英語のあり方を英語で考える、「グローバル時代の英語('22)」の印刷教材(テキスト)をご紹介します。
本書には大量の英文が収録されていますが、全訳は基本的にありません。このため、より深い学びを得るためには、ある程度の英語読解力やリスニング力を身につけていることが望ましいと思います。
参考までに、この記事の筆者山椒はTOEIC855点相当の英語力を身につけた上で受講しました。
おそらくTOEIC730点程度(英検2級程度)のスキルがあれば、特に問題なく読みこなせると思います。(もちろん、730点未満であっても、英和辞典を活用したり放送授業での解説から十分学びを得ることが出来ます。臆せず受講してみましょう!)
本講座の基本情報
本講座「グローバル時代の英語」は、放送大学で開講されている科目です。
- 2022年度開設
- 放送授業(ラジオ配信)
- 基盤科目の「外国語科目」中級レベル
具体的なシラバスはこちらからご参照ください。
放送授業はラジオで公開されており、書籍はAmazonほか各書店でお買い求めいただけます。各地域におけるテキスト取扱書店は下記をご参照ください。
こんな方にオススメ
- ひととおりの英語力は身につけた
- 英語を使ったコミュニケーションがしたい
- 言語学に興味がある
目次
本書の目次は下記のとおりです。全15回の放送授業に沿った章立てとなっております。
PartⅠ English as Lingua Franca
1 Ma Shwe Sin Win (Cynthia), "Not good with names: Local name customs in a global village"
2 David Crystal, "The more things change…"
3 Conversation with Navid Sepehri
PartⅡ Lingua Franca and Diversity
4 Patricia Ryan, "Don't insist on English!" (1)
5 Patricia Ryan, "Don't insist on English!" (2)
6 Conversation with Louis Irving
PartⅢ Lingua Franca and Multilingualism
7 Lera Boroditsky, "How language shapes the way we think" (1)
8 Lera Boroditsky, "How language shapes the way we think" (2)
9 Conversation with Xiaoyin Wang
PartⅣ Glocal English
10 Lionel Wee, The Singlish Controversy (1)
11 Lionel Wee, The Singlish Controversy (2)
12 Conversation with Herb Fondevilla (1)
13 Conversation with Herb Fondevilla (2)
PartⅤ Global Citizenship
14 Kuei Yai, "Global Citizen"
15 Conversation with Shaney Crawford
英語を学ぶための講座ではなく、英語を学ぶ意味を考える講座
本書の「まえがき」の冒頭には、以下のような文章が書かれています。
この授業では、ただ単に英語を学ぶというより、英語を学ぶということの意味について、みなさんと15回の授業を通じて考えていきたいと思っています。そして英語で書かれたテキストを読み、英語によるプレゼンテーションやスピーチを聞くことを通じて、この問題について考えてみましょう。
引用元:宮本陽一郎、大橋理枝、クリスティ コリンズ『グローバル時代の英語(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
本講座は、英文法や語彙を学ぶための講座ではありません。言語学の視点で、英語を学ぶということについて考えるための講座です。各章で取り上げられている英文の多くはTED Talkからの引用で、ナマの英語が使われています。
そして、前述のとおり基本的に日本語での全訳は掲載されていません。よって、ある程度英語を読んだり聞いたりすることに抵抗がない方の受講をオススメします。その方が、結果的に勉強時間を短縮できたり、より深い学びを得ることができるためです。
しかしながら、辞書や解説を聞きながらでも学びを深めることは可能です。先の引用部分には、続きがあります。
英語と接しつつ深く考える経験によって初めて得られるような語学力を、この授業では目指したいと思っています。
引用元:宮本陽一郎、大橋理枝、クリスティ コリンズ『グローバル時代の英語(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
私は、今回この講座を受講することで、英語への苦手意識がかなり減りました。本当の意味で、英語を理解するという体験をしたのです。仮に、私が難解な英語新聞をすらすら読めるほど語彙をたくさん知っていて、文法も完璧にマスターしていても、この講座を受講しなければ見えない世界があっただろうと確信しています。
本書の一部をご紹介しましょう。
英語をめぐるさまざまな議論
本書では、多様な視点から英語を学ぶ意味を考えていきます。
たとえば、次のような問題提起がなされています。
- 世界的にみて、言語の数はどんどん減っている。最終的に英語などの共通語に集約されていくとしたら、地域独自の言語で表現できていた世界は失われてしまうのか?
- 各地域においてさまざまな英語が存在する。シンガポールにおけるSinglishは正式な英語といえるのか?
- 第二言語として英語を幼い頃から見聞きしてきたフィリピンの人々はネイティブ・スピーカー。もしかして、ネイティブ・スピーカーにも格差がある?
私は、ある程度の英語力を身につけたうえでこの講座を受講しましたが、実はずっと、英語でのコミュニケーションに自信が持てずにいました。ネイティブ・スピーカーと対等に会話できるほどのスキルが無く、また読解スピードも遅いためです。それでも、「英語を学ぶことで世界の文化を知ることができて嬉しいな~」という楽しみをご褒美に勉強を続けていました。
そして、この講座を受講しながら、「なぜ英語ができないことに引け目を感じていたんだろう」「ネイティブってどういうことなんだろう」「英語の良さもあるけど、日本語の良さもある。日本語にだけ存在する表現にはどんなものがあるだろう」「発音ってそんなに重要なのかな」などなど、自分が無意識レベルで勝手に作り上げていた壁が、だんだん崩れていくことに気付きました。
ネイティブ・スピーカーの定義には、特に考えさせられました。両親が英語圏の出身だったら、ネイティブ・スピーカーなのでしょうか?
オンライン英会話では、出身地域に応じて講師の給与基準が異なるという話を聞いたことがあります。フィリピンには英語を使いこなす優秀な先生がたくさんいらっしゃいますが、イギリスやアメリカ出身の講師よりも安い講師料が支払われるというのです。
現在では全世界で10億人を超える人が英語を用いてコミュニケーションを行っており、そのうち母語話者は3億8千人に満たないとされます。みなさんのような英語非母語話者のほうが、多数派になったわけです。英語は碧眼金髪の「ネイティブ・スピーカー」の言葉ではなくなりました。
引用元:宮本陽一郎、大橋理枝、クリスティ コリンズ『グローバル時代の英語(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
インタビュー回も興味深い
クリスティ・コリンズ(Kristie Collins)先生によるインタビューもとても面白いです。コリンズ先生の同僚を中心に、なぜ海外から日本に来たのかといった背景をうかがい知ることができます。
日本では、英語ができるようになってから海外に飛び出よう!という人が多いのではないかと思います。ただ、海外から日本にやってきた人は、必ずしも日本語スキルを身に付けてから訪日したのではありません。
「ひょんなことから…」というエピソードが意外にも多く、新しい一歩を踏み出すときには準備しすぎない方が良いのかも…!という当たり前のことに気付かされたりもしました。
時間の都合上、講義のなかではインタビュー内容のすべてを取り上げてはいないのですが、付録としてインタビュー全文が掲載されています。こちらも是非すべて目を通していただきたいです!
関連書籍
- 山田暢彦(監修)「中学英語をもう一度ひとつひとつわかりやすく。」(学研プラス):社会人になってからの英語の学び直しに定評のある一冊。まずは英語を思い出したいという方にはこちらがオススメです。
- 宮本陽一郎「英語で読む大統領演説(放送大学教材)」(放送大学教育振興会):今回ご紹介したグローバル時代の英語('22)」より上位の上級レベルとして開講している科目です。
- 滝浦真人(編著)『日本語アカデミックライティング〔改訂版〕(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):英語を学ぶのも大切ですが、まずは身近な日本語から。特に日本語でレポートや論文を書く方すべてにオススメです。以下記事にて紹介していますので、宜しければご参照ください。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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