今回ご紹介するのは山崎圭一氏のベストセラー、『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』の続編です。
私は高校での社会科目は世界史を選択したため、日本史の知識は中学校でストップしている状態でした。当時、世界史を選んだことに後悔はありません。しかし、日本人がこれまで築いてきた歴史や文化を知らずに日本の良さを説明することはできないでしょうし、また国内の政策判断に対する批判や賞賛を正しく咀嚼することはなかなか難しいのでは、とモヤモヤした気持ちがありました。
また、世界に目を向けてみても、米国や韓国との関係性、近隣諸国との領土問題を日本という国の立場で語る際に、自分の頭で考えられるだけの知識が無いことに居心地の悪さを感じていたのです。
日本人なら、日本の歴史を深く理解して世界情勢に対する自分の意見を持ちたい。社会人になったので、受験勉強のためではなく自身の教養を深めるために正しく歴史を認識したい。そんな方にオススメするのが本書です。
こんな方にオススメ
- これまで日本史を深く学んでこなかった
- 暗記が苦手で日本史が嫌いだった
- 正しく歴史を認識したうえで現代の日本を考えたい
前著に引き続き、ストーリー仕立てで歴史を学ぶ方式を踏襲
前著の『一度読んだら絶対に忘れない世界史』では、地域という主役を固定して歴史をストーリーで学んでいく、という手法をとりました。本書では、舞台が日本であることから地域を日本だけに固定できる点が前著と異なりますが、今回は政治史を”数珠繋ぎ”にしてストーリーを展開していきます。
しかし、日本史は大学受験を目指す生徒の半分以上が選択する科目であり、受験には政治・経済・社会・文化の細かい知識が必要になります。
引用元:山崎圭一『一度読んだら絶対に忘れない日本史の教科書』(SBクリエイティブ)
すべての内容を端折らずにきちんと授業をしようと教員が思えば思うほど、ストーリーが読みにくい授業になってしまうのです。
そこで私は、この問題のひとつの解決策として、天皇や将軍、内閣総理大臣など「政権担当者」をストーリーの主役にして、古代から現代まで時間軸を一直線にして解説するという手法で授業を展開しています。
権力者の人間性が目に浮かぶ説明
久しぶりの日本史にドキドキしながら読み進めました。平安時代に起きた保元の乱のドラマチックな結末に慄えたり、未だ余韻を残している第二次世界大戦の各国の関係性の複雑さに頭を抱えたり…。あらためて歴史を紐解いていくと、私が日本という国で生を受けるまでの間に、本当にたくさんの出来事があったのだなを感じさせられます。
史実についての解説は本著に譲るとして、ここでは、先に述べたストーリー形式で歴史を学ぶうえで、読み手が飽きずについページをめくってしまう、著者の説明についてお伝えします。
たとえば、室町時代における第6代将軍、足利義教については次のような記述があります。
(中略)足利義持が次の将軍の決定方法を指示しなかったため、重臣たちは相談した結果、義持の4人の弟からくじ引きで決めることにしました。
引用元:山崎圭一『一度読んだら絶対に忘れない日本史の教科書』(SBクリエイティブ)
ここに、6代将軍足利義教が誕生します。くじ引きで決められたという、なんとも奇妙な将軍ですが、現在の公職選挙法でも得票数が同数の場合はくじ引きで当選者が決定されるように、「神意を問う」という意味ではまったくあり得ない話でもなかったのです。
こうして将軍になった足利義教には、どうしても「くじ引き将軍」という名前がついて回り、馬鹿にされてしまいます。スキを見せてしまうと守護大名たちが従わなくなると考えた足利義教は逆に権力強化につとめ、将軍に服従しない者をすべて力で押さえ込む、「万人恐怖」と史料にも載せられるほどの恐怖政治をしいたのです。
なんと!恥ずかしながら、室町時代の「足利」と言えば、尊氏(第1代)、義満(第3代)、義政(第8代)くらいしか覚えていませんでした。大体この3名を押さえておけば、中学校のテストも乗り切れるだろうという感じがあります。よって、義教に対しては「そんな名前あったかも」くらいで、あまり学んだ記憶がありません。
しかし、この説明を読めば、足利義教が歴史に名を残すきっかけがくじ引きであったこと、そして将軍といっても周囲から馬鹿にされてしまったこと、そして、それゆえに恐怖政治に至ったことが分かります。仮に、くじ引きで現代の首相や大統領が選出されたら、同じことが起こるのかな?などと、ついつい思い巡らせてしまいました。
こうした人間性に対する言及があるので、読み手はまるでドラマや漫画、小説に触れているような印象を受けることでしょう。歴史を丸暗記することにもならず、教養として身につくことと思います。
第二次世界大戦を考える
先ほど触れた第二次世界大戦についてですが、戦時中の各国関係が複雑であることに加えて、終戦に近づくにつれていよいよ情勢が急変することも増えてゆきます。両親や祖父母から戦時中の話を聞いたことがある方も多いと思いますが、1行を読み進めるだけでもかなり大変で濃密な時代だったのだな、と感じさせられます。
大戦についての記述もある「第9章 大正時代・戦争への道」の最後には、二度の対戦への著者の考察が書かれています。歴史的史実と分けて、著者の思いが色濃く示されているのは本書全体でこの箇所のみであり、歴史を学ぶことに対する著者の考えを伺い知ることができました。この部分を読むだけでも、間違いなく本書を手にした価値があると言えるでしょう。
戦後史から現代へ
戦後の歴史については、物心ついた時期から実体験を通して知っているでしょうから、多くの方が全体を俯瞰して読むことができるでしょう。やはり暗記ではなく、ストーリーとして記憶に残っている出来事については、より深いレベルで複数の観点から歴史を振り返ることができますね。
たとえば、令和の時代においてもその是非が議論されている憲法改正。実は、自由民主党が発足して55年体制が成立した時に、すでに俎上に乗っていたのです。
戦後の日本は、日米安全保障条約のもとで防衛力をアメリカに頼りつつ、経済発展に集中できました。しかし、アメリカの軍事力に依存している状態では、当然、国際政治や経済で大きな発言力を持てません。憲法第9条を厳格に解釈して自衛隊を否定すれば、全面的に防衛力をアメリカに依存することになり、「自立」という面では一歩後退して日本の発言力はさらに低下します。自衛隊の活動範囲の拡大を憲法第9条の「解釈」を変えることで対応しようとすれば、今後も矛盾は拡大していくでしょう。自衛隊に自立した活動ができるようにして、アメリカの防衛力に依存しない体制をつくろうとするのであれば、憲法第9条を変え、自衛隊を憲法に明記するしかありません。吉田茂内閣から鳩山一郎内閣にかけて形成されたこのジレンマに、以降の日本は悩み続けることになります。
引用元:山崎圭一『一度読んだら絶対に忘れない日本史の教科書』(SBクリエイティブ)
55年体制とは1955年に成立した体制ですので、足かけ70年近く議論が進展しないまま現代に繋がっていることがよく分かります。どのような方針を支持するにせよ、これまで議論が続いてきた背景を知ることによって、より深いレベルで問題の本質を理解することができることでしょう。
関連書籍
- 山崎圭一『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』(SBクリエイティブ):『一度読んだエら絶対に忘れない』シリーズの第一弾です。まずは世界史をストーリーで学び直しましょう!別記事にてご紹介していますので、宜しければご覧ください。
- 山崎圭一『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書【経済編】』(SBクリエイティブ):お金の流れを主役にしながら、歴史を眺めてゆきます。まずは今回ご紹介した『一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書』で全体の流れを押さえた後に経済編を読めば、世界史への理解が格段に進むはず。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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