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【書評】ひきこもりも高年齢化している!「中高年ひきこもり」を読む

【書評】斎藤環『中高年ひきこもり』(幻冬舎) 書評

近年、8050問題(80代の親が50代のひきこもりの子どもの面倒を見る)や中高年のひきこもりが脚光を浴びています。

これには、令和スタート直後に発生した2019年の2大事件が影響を与えているでしょう。一つ目は、神奈川川崎市のバス停で起きた通り魔事件です。被害者の中に国を代表して活躍する外交官がいたことも、この事件をメディアがこぞって報道する遠因となったと思われます。

二つ目は、その数日後に東京都練馬区で元農林水産省事務次官が長男を刺殺した事件です。こちらも加害者の社会的地位が高く、かつ前述の事件への危惧に端を発したものではとの憶測もあり、極めてセンセーショナルなものでした。両親の苦悩にもスポットライトが当てられた出来事だったかと思います。

それでは、両事件から1年を経ず出版された斎藤環著『中高年ひきこもり』(幻冬舎)について見てみましょう。

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著者、斎藤環氏の経歴

斎藤環氏はひきこもり問題の第一人者です。博士論文を一般人向けに書き記した「社会的ひきこもり 終わらない思春期」(PHP新書)が1998年に世に出るや、2000年の新潟少女監禁事件、西鉄バスジャック事件を受けて突然10万部を超えるベストセラーになりました。ひきこもり問題に携わる方なら知らない人はいないほど著名な方、といえるでしょう。

ひきこもりの定義とは?

さて、「ひきこもり」という言葉はよく耳にするけれど、「具体的に何か?」と聞かれると、ハッキリとは分からない、という方は多いですよね。ひきこもり問題に長らく携わってきた斎藤環氏は、本書で以下のように定義しています。

厚生労働省や内閣府の調査用の定義はいろいろありますが、基本的には次の二つをベースにしています。
(一)六カ月以上、自宅にひきこもって社会参加をしない状態が持続すること。
(二)ほかの精神障害がその第一の原因とは考えにくいこと。

引用元:斎藤環『中高年ひきこもり』(幻冬舎)

また、以下のようにもコメントしています。

では、典型的なひきこもりはどんな人たちなのか。その雰囲気は、「モンスター」とはまったくかけ離れています。長くつきあってきた私から見れば、ひきこもり状態にある人とは「困難な状態にあるまともな人」にすぎません。

引用元:斎藤環『中高年ひきこもり』(幻冬舎)

先に触れた事件を知る私たちは、この定義に少なからず動揺するのではありませんか?

なお、英語では「Social Withdrawal(社会的ひきこもり)」ですので、言葉自体は英語から輸入されているようです。しかし、昨今オックスフォード英語辞典でも「Hikikomori」が掲載されるようになりました。欧米諸国に比べると日本で「ひきこもり」が顕著に多いということが想像できると思います。

日本でひきこもり状態にある人の数

では、日本には一体どのくらい、ひきこもりの方がいるのでしょうか?

2019年、内閣府により発表された調査結果では、40~64歳のひきこもり状態にある人は推計61万3千人とのこと。なんと、これは15~39歳の推計54万1千人を上回る人数でした。

ソースとなっている内閣府の調査結果はこちら。

しかし、著者の豊富な経験から推察したところでは、なんとその倍は存在するとのこと。途端に身近に感じられてきますね。

自治体調査の数字と合わせて推測すると、中高年のひきこもりは少なくとも一〇〇万人、全体ではその倍の二〇〇万人と考えるのが妥当でしょう。

引用元:斎藤環『中高年ひきこもり』(幻冬舎)

なぜ日本にひきこもりが多いの?

実は、ひきこもりは日本独自の社会的現象ではないようです。他に、韓国やイタリアが挙げられています。これらの共通点は何でしょう?

成人してからも家から出て独立せず、親に面倒をみてもらいながら暮らしてよいとする家族主義的文化があるのです。

引用元:斎藤環『中高年ひきこもり』(幻冬舎)

では、個人主義的文化を持つ英米はどうか?というと、実際、ひきこもりは社会問題となるほど多くはないようです。しかし一方で、若者のホームレス化が進んでいることが指摘されています。

しかしイギリスやアメリカのような個人主義の国でも、社会参加ができずに苦しむ人がいないわけではありません。ところが親元では生活させてもらえず、収入がないので部屋を借りて一人暮らしをすることもできない。そのため彼らは、ひきこもりになることはできず、ホームレスになってしまいます。

引用元:斎藤環『中高年ひきこもり』(幻冬舎)

これは悩ましいことですね…

世間が怖い

本書で興味深く感じたのは、以下の文章です。

しかし不思議なことに、自宅の近所には外出できないのに、家族と一緒に海外旅行に出かけるのは平気な人もいます。なぜかというと、彼らは「自宅の外」の世界そのものが怖いわけではなく、外にある「世間」が怖いからです。

引用元:斎藤環『中高年ひきこもり』(幻冬舎)

日本は一神教ではなく多神教の国といわれています。キリスト教やイスラム教のように唯一の神が存在するという考え方ではなく、自然界にあるすべてのものに神が宿っている、という考え方ですね。しかし、実は日本人は世間という神様を崇拝している、という指摘が世間学の専門家らから指摘されています。

私自身は、この考え方を支持します。「お天道様が見ている」という表現は、世間様の目を気にして行動しなさい、という意味なのでしょう。日本人の協調性の生じる所以と思います。一方で、息苦しさや生きづらさを感じさせる一因であるとも言えるでしょう。少なくとも、私はこうした一種の同調圧力にしんどさを感じています。

ひきこもり支援を行う団体

最後に、当事者の方やご両親、親戚の方向けに支援団体のリンクを貼っておきます。

本書では、ひきこもりを巡る親子間の関わり方や家庭内暴力への対応、さらに悪徳業者の見分け方などについても触れられています。まさにいま現在、ひきこもりに関する悩みや不安を抱えていらっしゃる方には一読の価値がある一冊です。一人だけで悩まず、家族だけで悩まず、第三者にも相談しながらちょうどよい在り方を模索しましょう。

  • ひきこもり地域支援センター:厚生労働省の「ひきこもり支援推進事業」の一つで、各自治体に設置されています。
  • 地域若者サポートステーション:厚生労働省から委託を受けて、ひきこもりに限らず若者の就労支援を行っています。これまで利用者の対象年齢は15~39歳だったのですが、2020年4月から15歳~49歳へと、その対象年齢が拡大されました。

関連書籍

  • 久世芽亜里『コンビニは通える引きこもりたち』(新潮社):これまでイメージされていたひきこもりの方の現代の姿を、あらためて捉えなおす一助となる一冊。

  • 鴻上尚史、佐藤直樹『同調圧力 日本社会はなぜ息苦しいのか』(講談社):「世間」について考える一冊。

  • 斎藤環(解説)、水谷緑(まんが)『まんが やってみたくなるオープンダイアローグ』(医学書院):ひきこもりや統合失調症の方などの対して、対話で支援を行うことを重視したオープンダイアローグの入門書。

最後まで読んでいただき有難うございました!


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