2023年4月。私は放送大学に入学し、心理と教育コースで心理学を学び直すことにしました。詳細は「心理学概論」の紹介記事にあるとおりですが、働きながらでもコツコツと心理学の勉強をしたいと思ったのです。
勉強を進めるにつれ分かってきたのは、放送大学で単位を修得していけば国家資格の公認心理師の資格取得への道が開けるということ!
私が過去に大学生だったときには公認心理師の資格は存在しておらず、民間資格の臨床心理士しかありませんでした。もともと心理士資格の国家資格化については、2005年に法案を国会に提出する動きがあったものの実現に至らず。それから時を経て2019年、ついに国家資格としての公認心理師が登場したのです。
臨床心理士も信頼性の高い資格ですが、当時大学生だった私は「まず社会に出て世の中を知りたい」、「収入を得たい」という思いが強く、臨床心理士資格の取得に必要な大学院進学をしませんでした。その後も、臨床に特化した職業に就きたいという考えにはならず…結局のところ大学院進学はせずに働き続けるという選択をしたのです。
今回は、この公認心理師資格を取得するうえでも受講必須の「心理学研究法('20)」の印刷教材(テキスト)をご紹介します。
書籍は全国の書店などで購入できます。放送大学生でない方も、本科目の講義はBS放送などのテレビで視聴可能です。詳しい視聴方法は以下をご参照ください。
本講座の基本情報
本講座「心理学研究法」は、放送大学で開講されている科目です。
- 2020年度開設
- 放送授業(テレビ配信)
- 心理と教育コースの専門科目
具体的なシラバスはこちらからご参照ください。
放送授業はテレビで公開されており、書籍はAmazonほか各書店でお買い求めいただけます。各地域におけるテキスト取扱書店は下記をご参照ください。
こんな方にオススメ
- 公認心理士の資格を取得したい
- 心理学実験や調査を行い論文を作成したい
- 過去に心理学を学んでいたが、学び直したい
目次
本書の目次は下記のとおりです。全15回の放送授業に沿った章立てとなっております。
1 心理学研究法入門1ー心理学研究の基礎知識
2 心理学研究法入門2ー研究法概説
3 心理統計法ー記述統計と推測統計
4 実験法1ー実験法の基礎
5 実験法2ー心理学的測定法の基礎
6 調査法1ー調査法の基礎
7 調査法2ー尺度作成の基礎と調査法の実際
8 観察法1ー観察データの測定
9 観察法2ー観察データの解析
10 面接法1ー臨床的面接法
11 面接法2ー調査的面接法
12 検査法
13 介入研究法
14 心理学研究の倫理1ー基礎的研究の実施のために
15 心理学研究の倫理2ー臨床的研究の実施のために
「実証科学」としての心理学を理解する
心理学は、人間を研究対象とする「実証科学」であるといわれています。もしかしたら、心理学という言葉から想像されるカウンセリングをイメージして、心の内面について研究していく学問だと考えている方もいるかもしれません。
しかし、心理学の領域は実に幅広く、図形の認知特性を調べたり(錯視など)、どのような教育方法を採用したら子どもの行動に変化が見られるか、といった人間全般を対象とした研究がなされてきました。捉えにくい心の働きを理解するために、行動に注目して研究を進めるのです。
(中略)心の働きを知ろうとするとき、それを意識できるものだけに限ってしまうと、分かることはごく限られたことになってしまう。そこで心理学では、心の働きを支えるメカニズムを、本人の意識にのぼるか否かとは無関係に推論するために、行動(behavior)に注目する。心理学研究とは、心の働きのあらわれとして行動に注目し、実証のための証拠を集める行為である。
引用元:三浦麻子『心理学研究法(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
本科目は、こうした心理学研究における手法を概略した一冊です。私の記憶では、自分が大学生だった2000年代後半には、このような科目は独立した形では存在していませんでした。実験実習や調査実習の授業のなかで、講師からその都度教えてもらって学んだものです。これはこれで勉強になりました。
おそらく、公認心理師の資格を新しく創設したタイミングで、「科目として別途作った方が体系的に学んだことを証明できて良い」という理由で、独立した科目を設けたのではと想像しています。
「心理学統計法」とセットで受講しよう
本科目を受講しようとお考えの方は、おそらく心理学を学びはじめてまだ日が浅い方なのではと思います。
そんなあなたにオススメなのは、「心理学統計法('21)」の科目と一緒に受講することです。「心理学統計法('21)」も公認心理師資格の取得にあたって単位を修得する必要がある科目です。
実は、「心理学研究法('20)」と「心理学統計法('21)」の科目の中身は一部カブっている部分があります。統計学の詳細については、もちろん「心理学統計法('21)」で学習する必要がありますが、その概略は「心理学研究法('20)」の第3章「心理統計法ー記述統計と推測統計」などの章で理解することができます。
「心理学統計法('21)」の科目では、数式がたくさん登場します。ここで躓いてしまって、統計学の単位取得自体をあきらめてしまう人は少なくありません。統計学の単位を落としてしまう学生は、一般的な4年制大学でもよく見られます。文系に属する心理学の分野で統計に苦手意識を持つ人は結構多いということです。
放送大学の科目を履修している人は、日頃忙しく勉強に時間を費やせない方がきっと多いことでしょう。ならば、似たような単元が登場する科目をまとめて受講することで、内容の理解が進みやすくなり勉強時間も短縮できるはずです。
このため、私は「心理学研究法('20)」と「心理学統計法('21)」を同じ期に受講することをオススメします。
ただし、1点だけ注意点が。単位認定試験の際に科目名の選択を誤る可能性があります。「心理学研究法('20)」の試験を開始するつもりが、名前が似ているがゆえに誤って「心理学統計法('21)」を選択してしまう可能性があるということです。
苦手な「心理学統計法('21)」の試験をノー勉の状態で開始してしまう、という悪夢が起こりえます。統計に苦手意識を持つ方ほど、絶望的な気持ちになってしまうことでしょう…。私は逆のパターンだったのでまだなんとかなりましたが。
まぁ、こんな間違いを犯すのは私だけかもしれませんけれど…。試験開始のボタンを押す前に、何度も科目名を確認するようにしましょう…!!
研究倫理についての章も
最後に特筆すべき点は、研究倫理についてまるまる2章分を割いて解説しているということです。私が大学生だった頃は、研究倫理についても実験実習や調査実習のなかで教える方式で、座学で学んだ記憶がありません。
卒業論文を書きながら、「こういう分析のしかたはダメだからね」とか「実験参加者にはきちんと研究目的を説明しなさいよ」といったことを指導教授から教えてもらった、という記憶があるのみです。
実際、本書でも言及されているように、大学で教鞭をとる教授たち自身もこれまでの体系的な教育を受けていない場合が少なくないということです。これは自身の経験としても頷ける話です。
(中略)少なくとも現状では、皆さんが教えを乞う大学教員の中に、研究倫理について体系的な大学・大学院教育を受けた経験をもつ者はあまりいない(著者にもその経験はない)。これから心理学を始めようとする皆さんこそが「なすべきこと」をきちんと学び、それを踏まえた上で心理学研究法を習得する第一世代なのである。
引用元:三浦麻子『心理学研究法(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)
心理学にかぎらず、倫理的な観点はおそらくすべての学問において、厳しい目が向けられる世の中になったと思います。もしかしたら、新たに心理学を学び始めた学生の方が、倫理的な観点では現職の教授よりも意識高く研究に取り組むのかもしれない、そんな可能性さえ感じさせます。
関連書籍
- 鹿取廣人、杉本敏夫、鳥居修晃、河内十郎(編)『心理学 第5版補訂版』(東京大学出版会):かつて4年制大学に通っていたときに、旧版(第2版)を購入しました。今でも版を重ねてよく読まれているようです。心理学科生の入門書とも呼べる一冊。
- 森津太子、向田久美子『心理学概論(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):心理学を学ぶ方は、まずこちらの書籍からスタートすると良いです。2024年度には改訂版が登場し、よりパワーアップしています。2018年度版について記事を書きましたので、宜しければお読みください。
- 清水裕士『心理学統計法(放送大学教材)』(放送大学教育振興会):心理学を学ぶ学生が頭を抱える統計学。実は理系の要素も多い学問なのです。心理統計の解説書はたくさん出版されていますが、放送大学生はこちらをぜひ受講しましょう。記事を書きましたので、宜しければお読みください。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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