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【書評】義勇兵?社会奉仕?自己犠牲?考えるヒントとなる「モヤモヤのボランティア学」を読む

【書評】李永淑(編集)『モヤモヤのボランティア学: 私・他者・社会の交差点に立つアクティブラーニング』(昭和堂) 書評

ボランティアという言葉には、様々なニュアンスが隠れています。

「社会奉仕」「社会貢献」「共助」といったポジティブな文脈で登場することもあるし、「無償労働」「自己犠牲」「偽善」といったマイナス面が強調されることもあるでしょう。

私は数年に亘ってボランティア活動をしていますが、実際、そのどれもが真実であるような気がしています。そして、「ボランティアの本質とは何なのか?」「この活動をずっと続けていても意味は無いのではないか?」と感じる場面も多く、実はモヤモヤしていました。

そんな折りに見つけたのが、今回ご紹介する『モヤモヤのボランティア学』です。

ボランティアをしている人すべてが、いつも楽しく前向きに活動しているわけではありません。その活動の裏に複雑な思いを抱いたり、問題意識を育んだりしている方が意外と多いことに気づかされる一冊です。

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こんな方にオススメ

  • ボランティアを始めてみたい
  • ボランティア活動をしているが、モヤモヤすることがあった
  • ボランティアに胡散臭さを感じる

本書の構成

「ボランティア」という言葉には、本記事の冒頭に記したとおりポジティブな意味もネガティブな意味も含んでいます。実際に活動する方の間でも定義は複数あると思われ、人によって想像する内容が全く異なり、実はとても曖昧な言葉だということができるでしょう。

では、ボランティアとは何なのか?考えるためのヒントとして、本書は3部構成をとります。

第Ⅰ部 「思い」から考えるボランティア
第Ⅱ部 「他者」から考えるボランティア
第Ⅲ部 「正しさ」から考えるボランティア

社会が抱える問題に対する「思い」からボランティア活動に取り組む人は多いでしょう。ボランティアをする側・される側を含む「他者」との交流に重きを置く見方もあるかもしれません。もちろん、社会の現状やボランティアという活動そのものの「正しさ」について議論を深めていくことも重要ですよね。

ボランティアを始めるきっかけは、人それぞれです。本書では、12名の執筆者たちが「私」を主語にして自身のボランティア活動をめぐる物語を語ります。そのうえで、ボランティアにまつわるモヤモヤに対する思索・考察を深めていく流れとなっています。

各章では、ボランティアという交差点に立つことで感じてしまった「モヤモヤ」を放置できなかった、各執筆者の「私とボランティアの物語」が語られています。そして、様々な論点を交差させながら、「モヤモヤ」の言語化を試みています。しかし、残念ながらモヤモヤは晴れるどころか、深みにはまっていきます。やむをえず、「ゼミナール」で、さらにモヤモヤを広げていきます。

引用元:李永淑(編集)『モヤモヤのボランティア学: 私・他者・社会の交差点に立つアクティブラーニング』(昭和堂)

「私」を主語にするという意味では、本書は執筆者たちのナラティブな語り(その人の人生に基づく物語)を重視しており、個人的なエッセイの集まりと断じることも可能かもしれません。実際、編者はアンソロジー(短編集)という表現を使用しています。

 「アンソロジー」ですから、気になった章から読んでいただいて構いません。

引用元:李永淑(編集)『モヤモヤのボランティア学: 私・他者・社会の交差点に立つアクティブラーニング』(昭和堂)

しかしながら、執筆者たちは全員が大学で教鞭を執ったことがある教育者です。その方自身の物語のなかに、引用文献を明示した上でエビデンスを示すなど、単にエッセイにとどまらない専門性・信憑性があるのです。

ボランティアの3条件

ボランティアとは何なのか?その答えの一つとなるのが、ボランティアの3条件です。

本書で何度も登場するボランティアの3条件は、「自発性」「無償性」「公共性」の3つとされています。一部引用しましょう。

 「ボランティアの条件が列挙されるとき常に登場するのは、<自発性>・<無償性>・<公共性>という三つの条件である」という(入江 1999:5)。そして「『ボランティア』(volunteer)とは『自発的(voluntary)に行為する人』という意味であり、その語源は、ラテン語の『意思』(voluntas)である」(入江 1999:6)という。

引用元:李永淑(編集)『モヤモヤのボランティア学: 私・他者・社会の交差点に立つアクティブラーニング』(昭和堂)

日本においては、ボランティアか否かを決めるカギは特に「無償性」「公共性」であることが多いように思います。金銭的な報酬が発生するなら”労働”となるだろうし、世の中に影響を与えるようなものでなければ”趣味”とみなされることでしょう。

学校で、「ボランティアをしましょう!」と半ば強制的に活動に参加させられた経験はありませんか?私は中学1年生の時に、このようなクラス目標がありました。「よくわからないけれど、活動を強制されている…?」と、当時かなり不信感を抱いたことをよく覚えています。

強制的に活動させるのであれば、その行為はボランティアの3条件に合致しません。よって、本来の意味でのボランティアとは異なるといえるでしょう。

この「自発性」「無償性」「公共性」。自ら手を挙げて、金銭的な報酬を受け取らず、世の中のために活動する、ということになります。こうして文章で示してみると、かなり意識が高く熱い思いを持っている人じゃないとできないような気もしてしまいますよね。

そんなボランティアという行為が生まれた背景には、なんとびっくり!実は血生臭い歴史があるのです。

 ボランティアのはじまりは、1647年のイギリスで、自ら自警団として参加する人たちをボランティアと呼ぶようになったことだといわれている(筒井 1997:20-21)。少し想像を膨らませると、1647年のイギリスといえばピューリタン革命の最中なので、いわゆる内戦状態だ。公的な庇護に頼らず自分たちで村や町を守らねばならなかった人々が、「ボランティア」と呼ばれたのだ。
 その後、18世紀後半から19世紀前半にかけて、アメリカ合衆国の独立、フランス革命、南アメリカ諸国の独立、ギリシャの独立などに参加する義勇兵がボランティアと呼ばれるようになる(筒井 1997:21)。「自由意志にもとづいて、自発的に奉仕活動をする人」(入江 1999:6)の活動には、他者との流血沙汰が伴ったのだ。

引用元:李永淑(編集)『モヤモヤのボランティア学: 私・他者・社会の交差点に立つアクティブラーニング』(昭和堂)

多様なテーマと観点を題材にボランティアを考えていく

本書では12名の執筆者が各自の人生経験に根ざした物語を綴り、モヤモヤを吐露しています。

第1章 学校――ボランティアは何を励ますの?(小島祥美)
第2章 生き方――「ボランティア=人生」はあり? なし?(川田虎男)
第3章 原動力――「児童虐待をなんとかせねば」突き動かされる思い(久米隼)
第4章 キャリア形成――ボランティアって就活に役立つの?(中西唯公)
第5章 文学――自己表現を支えるボランティア(荒井裕樹)
第6章 在日コリアン――ボランティアをする/しないの境界線(加藤恵美)
第7章 演じる――分かった「つもり」のボランティア?(石野由香里)
第8章 関係性――他者の他者性に気づく(竹端寛)
第9章 紛争――「正しさ」を疑う(小山淑子)
第10章 アート――人に必要な知識を伝える道具(池田泰子)
第11章 食――ボランティアから気づく社会のモヤモヤ(原田佳子)
第12章 医療――労働とボランティアの境界(竹中健)

章のタイトルを読むだけではピンとこないかもしれませんが、具体的には不就学児、児童虐待、障害者、PTA活動、災害支援、国際協力、環境破壊などのテーマに関するボランティア活動の話が書かれています。

なかには、「自分がボランティアを語ってよいのか」「実は、ボランティア活動をしたことがない」と執筆すること自体にモヤモヤされている方もいました。多様なテーマに触れながら執筆者の多様性を感じるとともに、専門家然とした上から目線がなく等身大の人間がそこに存在していることが伝わってきて、心穏やかに対話するような形で読み進めてしまいました。

執筆者は活動のなかで経験した挫折体験を正直に語り、深みのある内省を綴っています。私自身も経験した挫折やモヤモヤがそこに示されています。「あぁ、自分だけじゃないんだ」とほのかに安心し、心強い気持ちになりました。

読んでいて強く感じたのは、本書は「正しいボランティア活動」や「社会問題に対する最適解」といった正解を示す本ではないということです。ただし、本書をとおしてボランティアとは何か?自分にできることは何か?と考えを深めるには、最適な一冊といえるでしょう。

関連書籍

  • 聖学院大学ボランティア活動支援センター(編集)『共に育つ“学生×大学×地域”――人生に響くボランティアコーディネーション』(聖学院大学出版会):本書の「第2章 生き方」を執筆した川田虎男氏が文章を寄せています。記事にしましたので宜しければご覧ください。

  • 荒井裕樹『障害者差別を問いなおす』(筑摩書房):本書の「第5章 文学」を執筆した荒井裕樹氏の著書です。脳性マヒ者によって結成された団体「青い芝の会」の活動から、障害者差別を考える一冊。障害のある子を持つ親の主張、コロニーの建設、優生保護法など一連のテーマを通じて、多様性を受け入れる社会のあり方について考えさせられます。

  • 綿野恵太『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(平凡社):「差別」に対する反対運動について、当事者以外の人間が声を上げることについて政治的・経済的・社会的な背景から迫り、差別・反差別の本質を明らかにしようとする一冊です。良質な評論を求める方に絶賛オススメです。記事にしましたので宜しければご覧ください。

  • 西角純志『元職員による徹底検証 相模原障害者殺傷事件——裁判の記録・被告との対話・関係者の証言』(明石書店):事件現場となった津久井やまゆり園でかつて勤務していた、西角純志氏による一冊。優生思想を完全に排除することは可能なのだろうか?カフカの長編小説『訴訟』に出てくる寓話、『掟の門』を題材に問題の核心に迫る一冊です。記事にしましたので宜しければご覧ください。

  • 井出留美『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎):飢えで消えていく儚い命がある一方で、まだ食べられる食品が捨てられています。まずは自分の出来ることから取り組みましょう!

最後までお読みいただき有り難うございました!


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