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【書評】まずは正しく理解することから。「図解でわかる 14歳からのLGBTQ+」を読む

【書評】社会応援ネットワーク『図解でわかる 14歳からのLGBTQ+』(太田出版) 書評

男女雇用機会均等法が1985年に制定されました。しかしながら、男女間の経済格差が未だ縮まらない日本。管理職の女性比率は12.7%(2022年10月時点)と、性別による大きな偏りが存在しています。

また、内閣府調査によれば、非正規雇用者の女性(1413万人)は、男性非正規雇用者(652万人)の約2倍(2021年)となっています。

男性と比較して、女性の方が家事や育児、介護などの無償ケア労働に従事する時間が長いことがさまざまな統計から明らかになっていますよね。

実際、毎年発表されるジェンダーギャップ指数では、なんと日本は全146か国中125位(2023年)と低評価。これは、G7の中で最下位です。諸先進国と比べて、日本は性別による格差が大きい国だということができるでしょう。

さて、そんな男女間の格差における課題が残る国において、LGBT理解増進法案(LGBT法案)が2023年6月23日に施行されました。こちら、男女格差と同等、いやそれ以上に議論を巻き起こす法案となり、当事者に対する差別を逆に助長してしまうのでは?という指摘もなされ大変な話題となりました。

こうした議論をする前にまずとりかかるべきは、LGBTQ+をめぐる現状を正しく理解することです。そこで、今回は図解も多く未成年向けに作られた1冊をご紹介します。32個の質問に対して、それぞれ見開き2ページで答える方式で構成されており読みやすい一冊です。

性に関する悩みやモヤモヤを抱える若者にも、LGBTQ+のことをこれから学ぶ社会人にも、必ずしや役立つ1冊となるはず。

そして、これは少し不思議に思われるかもしれませんが、LGBTQ+を紐解いていけば日本の男女格差を巡る議論とつながりがあることが分かるはずです。日本のこれからを考えるヒントも得られることでしょう。

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こんな方にオススメ

  • 自分がLGBTQ+に当てはまるような気がする
  • 正しく理解したうえでLGBTQ+を巡る議論を考えたい
  • LGBTQ+の方を支援したい

SDGsとLGBTQ+

にわかに耳にする機会が増えたSDGs。もちろん、LGBTQ+も無縁ではありません。本書の冒頭には以下のように記されています。

 2015年、国際連合サミットで2030年までに達成をめざす世界目標として、持続可能な開発目標(SDGs)が採択されました。その時、当時の国連事務総長パン・ギムン氏は、「LGBTはSDGsのすべての項目に関わる問題であり、『誰も置き去りにしない』というSDGsのモットーに含まれている」と述べました。また、ジェンダーについては、目標5に「ジェンダー平等を実現しよう」と掲げられました。

引用元:社会応援ネットワーク『図解でわかる 14歳からのLGBTQ+』(太田出版)

ジェンダーという観点だけで考えると、LGBTQ+は目標5「ジェンダー平等を実現しよう」のみが該当するように思われます。しかし、実はそうではなく、その他のSDGsの目標にも深く関わっているという事実があります。なぜでしょうか?その一部が、本書で紹介されていました。

  • 目標1「貧困をなくそう」
    LGBTQ+の当事者は、そうでない人びとよりも収入が低い。
  • 目標3「すべての人に健康と福祉を」
    LGBTQ+の当事者は、そうでない人びとよりも既存の医療や福祉にアクセスしづらい。
  • 目標4「質の高い教育をみんなに」
    LGBTQ+の当事者は、男女分けが多い学校現場に馴染めずいじめを受けることも。
  • 目標6「安全な水とトイレを世界中に」
    トランスジェンダーの方は、男女別トイレが使いにくい。
  • 目標8「働きがいも経済成長も」
    LGBTQ+の当事者が働きやすい職場に勤めている人は、心理的安全性が高い。
  • 目標10「人や国の不平等をなくそう」
    同性婚ができる国とそうでない国がある。
  • 目標16「平和と公正をすべての人に」
    LGBTQ+の当事者は、そうでない人びとよりも必要な支援が届きにくい。

いかがでしょうか?

「自身のセクシュアリティを周囲に伝えたら、職場で働くことができなくなるかもしれない」
「中学校に入ってスカートの制服を着るのが嫌だから学校に行きたくない」

といった当事者の声があります。まさに、ジェンダー平等というただ一つの観点にとどまる問題ではないということが分かるでしょう。

変わる男女観と、教科書へのLGBT記載

昭和から平成初期においては、ランドセルや筆箱などが男女で明確に色分けされていました。私もその時代に小学生だったので、女の子として赤いランドセル、赤やピンクの筆箱を使用していたことをよく覚えています。

中学に入れば、制服があります。学ランやセーラー服、ブレザーなど種類はさまざまですが、女子生徒はスカートを着用するよう求められるのが一般的でしょう。日本における制服の起源は、明治時代に遡るようです。

 学校制服ができたのは明治時代です。当時の学校では、求められる人間像も教育内容も男性と女性で大きく異なっていました。
 男子学生への期待は、「国家に貢献する人」。外国との戦いに勝てる人を育てようと軍事訓練や体育が重視され、軍服を基準にした「学ラン」が制服になりました。
 一方で女子学生に求めるものは、良き妻良き母になることで、生徒たちは和服に袴姿で裁縫などを学んでいました。

引用元:社会応援ネットワーク『図解でわかる 14歳からのLGBTQ+』(太田出版)

日本は1945年に終戦を迎え、現代では徴兵制もなく戦争放棄(第9条)を憲法に明文化する国になりました。

明治時代の帝国日本においては、戦争などを通して国家を拡大させることをもくろんでいたわけですから、男子学生には肉体的にも精神的にも厳しい鍛錬を課していたのでしょう。一方で、女子生徒はゆくゆくはそうした男子生徒を支える良妻賢母として家の中で支える役割を求められていました。

しかしながら、日本は1990年代初めにバブル経済が崩壊したのち、長期にわたって経済成長が停滞し続けています。さらに、少子化が進み労働人口が減る時代にも突入してしまいました。最近では共働き家庭が年々増えてきており、経済的な事情から専業主婦世帯では生活が成り立たなくなってしまうという家庭も少なくありません。

かつての男女に求められていた性役割は現代に見合っていないのかもしれません。では、現代の学校ではどのような教育がなされているのでしょうか?

2016年に学習指導要領が改訂される際には、「LGBTなど多様な性を教えるべき」という意見が国民から文科省に数多く寄せられました。しかし、残念ながら結果としてはLGBTに関する記載が見送られることとなりました。

そして、2021年。

 しかし、実際に教科書を作成する出版社は、社会の動きに敏感であり、大事な観点だとして、セクシュアル・マイノリティーを取り上げる事例が増えてきています。2021年版の中学校教科書では、性の多様性についての記述が大幅に増加して、9社17点、「特別の教科 道徳」に加え、国語、歴史、公民、家庭、美術、保健体育の6科目でLGBTなど性的少数者に関する内容が取り上げられ、2022年版の高校教科書では、セクシュアル・マイノリティーについて公共・家庭科・保健体育のほぼすべての教科書に記載があったと報道されています。

引用元:社会応援ネットワーク『図解でわかる 14歳からのLGBTQ+』(太田出版)

2021年以降に中学生となった子どもは、必修科目を含めてLGBTに関する教育を受けているということになります。遅くとも2030年代には、多くの新社会人がこうしたLGBT教育を受けてきた世代になるということですね。この事実を見据えて、行政も民間企業も意識改革や環境整備をしておく必要があるといえるでしょう。

諸外国と比較した日本の現状

各国で同性婚が認められるようになってきましたが、日本はまだ議論の俎上にあがったままで実現できていません。諸外国ではどうなのでしょうか?

 日本では同性間の婚姻はできません。G7の中で国レベルでの同性パートナーへの法的保障がないのは日本だけです。

引用元:社会応援ネットワーク『図解でわかる 14歳からのLGBTQ+』(太田出版)

こうした制度未整備の状況は、夫婦別姓についても当てはまりますよね。夫婦別姓は世界各国で徐々に認められつつありますが、日本ではいまだ実現していません。なお、法務省によると、結婚後に一方の姓(氏)を選択しなければならない制度を採用しているのは日本だけということです。

Q12  外国における夫婦の「氏」に関する制度は、どうなっているのですか。

A 夫婦の氏に関する制度は国によって様々ですが、平成22年に法務省が行った調査(注)等によれば、
 ⑴ 夫婦同氏と夫婦別氏の選択を認めている国として、アメリカ合衆国(ニューヨーク州の例)、イギリス、ドイツ、ロシア、
 ⑵ 夫婦別氏を原則とする国として、カナダ(ケベック州の例)、韓国、中華人民共和国、フランス、
 ⑶ 結婚の際に夫の氏は変わらず、妻が結合氏となる国として、イタリア
があります。
 もっとも、法務省が把握する限りでは、結婚後に夫婦のいずれかの氏を選択しなければならないとする制度を採用している国は、日本だけです。

 (注)調査を行った国は、次のとおりです。
 アメリカ合衆国(イリノイ州、カリフォルニア州、ニューヨーク州、ハワイ州、ルイジアナ州)、アルゼンチン、イギリス、イスラエル、イタリア、インド、オーストラリア、オランダ、カナダ(ケベック州、ブリティッシュコロンビア州)、韓国、サウジアラビア、スイス、スウェーデン、スペイン、タイ、中華人民共和国、ドイツ、トルコ、フランス

引用元:法務省 > 法務省の概要 > 組織案内 > 内部部局 > 民事局 > 民事に関する法令の立案関係 > 選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について

さらに、出生時に記録された戸籍上の性別を変える手続きについても、日本では遅れているようです。

 日本では戸籍上の性別を変えるためには、様々な要件を満たす必要があることが性同一性障害特例法(性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律)で定められています。その要件のひとつが「生殖腺の機能を永続的に欠く状態」で、つまり精管や卵管の切除手術などで生殖能力を失わなければ、性別を変えることができません。性別認定を得るために望まない医療処置を受けなければならないということです。海外では、性別適合手術を受けなくとも性別変更ができることを認める法律を定めている国もあります。

引用元:社会応援ネットワーク『図解でわかる 14歳からのLGBTQ+』(太田出版)

これを読むまで知らなかったのですが、日本以外の国では性別適合手術をしなくても戸籍上の性別を変えられるとのこと。な、なんと…、世界にはもうそんな国がたくさんあるのか…。

本書で紹介されている、各国の性別変更手続きで性別適合手術が不要な国は以下のとおりです。2000年代後半から、徐々に増えてきています。

・2007年:スペイン
・2011年:ドイツ
・2013年:オーストラリア、スウェーデン
・2014年:デンマーク、オランダ
・2012年~2017年:カナダ
・2015年:アイルランド、メキシコ

意外だったのが、カトリックという伝統的な価値観を持つ方が多いスペイン。2007年時点で、性別適合手術を受けなくても性別の変更が可能になっている点です。

キリスト教の思想としては「産めよ、増えよ」が賞賛されていたはずで、かつてカトリック圏では同性愛者を厳しく罰していた歴史があります。さらに、言語的にも男性名詞・女性名詞といった文法上の制約があり、性別変更に関する抵抗は小さくなかったのではと推察されます。

そんな背景を持つ国よりも日本の方が性別変更に不寛容であるというのは、衝撃的です。これから国民全体で議論を継続していくことになると思いますが、諸外国の動向も意識して時代に見合った制度を考えていく必要があるでしょう。

関連書籍

  • 下村英雄『社会正義のキャリア支援: 個人の支援から個を取り巻く社会に広がる支援へ』(図書文化社):キャリア・コンサルタント必読の一冊。日本ではあまり社会正義(Social Justice)という言葉を耳にすることはありませんが、諸外国ではだいぶ浸透している用語のようです。記事にしましたので宜しければご覧ください。

  • 水谷竹秀『だから、居場所が欲しかった。バンコク、コールセンターで働く日本人』(集英社):日本社会で生きづらさを感じてタイ・バンコクのコールセンターで働く若者たちへ、丹念な取材を重ねたルポルタージュです。非正規、借金、買春、LGBTなど…社会事情に翻弄された世代の生い立ちと日本の未来について考えさせられます。タイでは性に関する呼び方がなんと18種類もあります。性の多様性を許容してきた国ならではですね。

  • 濱野ちひろ『聖なるズー』(集英社):LGBTは一般的に人間が性的指向の対象になりますが、こちらは動物が性愛対象です。記事を書きましたので、宜しければお読みください。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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