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【書評】多様性を考える。放送大学教材の「多文化共生のコミュニケーション」を読む

【書評】大橋理枝、根橋玲子『多文化共生のコミュニケーション(放送大学教材)』(放送大学教育振興会) 書評

日本では、もはや誰もがご存じのとおり少子高齢化が進んでいます。少子高齢化は日本だけでなく先進国諸国でも大きな課題となっており、日本における政府施策案と併せて各国政府の対応策が話題にのぼることも増えてきました。

さて、少子高齢化とともに聞かれるようになったのが、移民や外国人労働者の受け入れです。このまま少子高齢化がさらに進む場合、日本はどうなるのでしょうか?

さまざまな意見がありますが、長期目線で見て外国の方と共生してゆく社会を築いてゆかなければ、国家としての発展は極めて厳しいものとなるというのが個人的な見解です。

しかしながら、日本の公用語は日本語のみですし、島国ということもあって他国との陸地的接点がないため世界情勢にも疎くなりがち…。ヘイトスピーチの報道を聞くと悲しくなりますが、そもそも他の文化を持つ人々と対等な立場で共に暮らすための知恵が、現代の日本にはまだ広く知れ渡っていないということなのかもしれません。

「外国人」というキーワードだけでなく「障がい者」「性的少数者」についても同様でしょう。現代的で重要なテーマですから、当事者の方や支援団体が書籍やSNSを通して一般市民の理解を深める発信を続けているものの、学術的な観点から論じる書籍は世間にはまだあまり浸透していない、というのが実状かと思います。

私はこうしたテーマに日頃から関心があり、これまで読書や外部研修会などで理解を深めてきました。実務的な観点から語られたことばは示唆に冨み、ますます学びを深めたいと思っていたところ、放送大学で2024年度に「多文化共生のコミュニケーション」を開講するとの知らせを発見!学術的な観点から学びを深める絶好の機会だ!とさっそく履修登録をしたのです。

今回は、さまざまな文化を持つ人同士のコミュニケーションについて考える「多文化共生のコミュニケーション」の印刷教材(テキスト)をご紹介します。

書籍は全国の書店などで購入できます。放送大学生でない方も、本科目の講義はBS放送などのテレビで視聴可能です。詳しい視聴方法は以下をご参照ください。

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本講座の基本情報

本講座「多文化共生のコミュニケーション」は、放送大学で開講されている科目です。

  • 2024年度開設
  • 放送授業(ラジオ配信)
  • 人間と文化コースの導入科目

具体的なシラバスはこちらからご参照ください。

放送授業はラジオで公開されており、書籍はAmazonほか各書店でお買い求めいただけます。各地域におけるテキスト取扱書店は下記をご参照ください。

こんな方にオススメ

  • 人種差別や性的少数者の権利について学術的に学びを深めたい
  • 人権問題に関心がある
  • 出身地など文化が異なる人々との共生を考えたい

目次

本書の目次は下記のとおりです。全15回の放送授業に沿った章立てとなっております。

 1 多文化共生とコミュニケーション
 2 文化とコミュニケーション
 3 認知とコミュニケーション
 4 非言語メッセージとコミュニケーション
 5 言語メッセージとコミュニケーション
 6 言語習得とコミュニケーション
 7 感情とコミュニケーション
 8 カテゴリー化とコミュニケーション
 9 人種、民族とコミュニケーション
10 日本で暮らす外国につながる人々とコミュニケーション
11 国際結婚とコミュニケーション
12 外国につながる子どもたちとコミュニケーション
13 多様な性とコミュニケーション
14 「ちがい」とコミュニケーション
15 多文化共生のコミュニケーション

多様性とは

多文化共生ということばよりも、「多様性」「ダイバーシティ」ということばの方が昨今はるかに見聞きするワードかもしれません。が、そもそも、「多様性」とは何なのでしょうか?

 多様性という言葉は、教育や企業をはじめ多くの場面でのキーワードとしてさかんに使われている。東京オリンピック・パラリンピック2020は、その象徴的な例と言えるだろう。基本コンセプトのひとつに「多様性と調和」を掲げ、「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合うことで社会は進歩」、「東京2020大会を、世界中の人々が多様性と調和の重要性を改めて認識し、共生社会をはぐくむ契機となるような大会とする」ことが大会ビジョンに含められた(東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会東京都ポータルサイト、2020)。

引用元:大橋理枝、根橋玲子『多文化共生のコミュニケーション(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

「人種」「性別」といった区別は、世界人権宣言の記述から来ているものと思われます。

第二条
1. すべて人は、人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治上その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、門地その他の地位又はこれに類するいかなる事由による差別をも受けることなく、この宣言に掲げるすべての権利と自由とを享有することができる。

引用元:世界人権宣言テキスト(国際連合広報センター)

全文はこちらからお読みいただけます。

では、こうした面で違いを持つ人々を「自然に受け入れ、互いに認め合う」ことは可能なのでしょうか?本書では、「多様性」というビッグワードを多用することに対する危機感が紹介されていました。

 伊藤(2020)は、多様性という言葉への違和感について、多様性という言葉そのものは別に多様性を尊重するものではなく、「分断を肯定する」(P.45)といったむしろ逆の効果さえ持ちうるのではないかと危惧している。多様性を象徴する言葉としてよく使われる「みんなちがって、みんないい」という金子みすゞの詩は、一歩間違えば「みんなやり方がちがうのだから、それぞれの領分を守って、お互い干渉しないようにしよう」(P.45)というメッセージになりかねない。

引用元:大橋理枝、根橋玲子『多文化共生のコミュニケーション(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

実際、SNSの反応や社会的論調から判断するに、「多様性を受け入れ、認め合う」という立場には、共生をしていくという考え方と、区別・分離する考え方の2種類があるようです。同じ「多様性を受け入れ、認め合う」という表現でも、方向性が異なるのは興味深い事実ですよね。

私自身は共生をしていくという考えで「多様性」という言葉を捉えていましたが、人によっては「多様性」を区別のための材料として考えるという点に、これまで考えたこともなかった発見がありました。

外国につながる人々

冒頭で「外国人」ということばを使いましたが、最近は「外国につながる人」、「外国とつながる子ども」、という表現を耳にするようになりました。「外国人」と「外国につながる人」とは、どう違うのでしょうか?

 本章では、増加する「外国につながる人々」とのコミュニケーションについて考えていくが、まず「外国につながる人々」と「外国人住民」との違いについて述べておく。まず「外国人住民」であるが、日本の国籍を保有しない者のうち「中長期在留者」「特別永住者」「一時庇護許可者又は仮滞在許可者」「出生による経過滞在者又は国籍喪失による経過滞在者」を総称したものである(阿部、2020)。本章が依拠する政府が発表している統計指標等は、「国籍」が基準になっている。つまり、これが明らかにするのは「外国人住民」についてである。しかし、「外国につながる人々」は籍が外国にある人々にとどまらない。既に日本に帰化をしている人、自分は日本国籍だが両親もしくは親の一方が外国籍の人、日本国籍だが外国育ちの人等々、多様な背景の人々を包摂している。

引用元:大橋理枝、根橋玲子『多文化共生のコミュニケーション(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

「外国人」という表現が国籍の有無によって区別される一方で、「外国につながる人々」はこれに限定されない、ということですね。

実は、私は幼少期にアメリカで暮らしていた経験がある帰国子女です。「外国につながる子ども」ということばを聞くと、当時出会った日本人の友達が「自分はこの先も日本には帰らずアメリカで生きていくんだ」と言っていたことを思い出します。

この友達とは、その後連絡を取っておらず近況がわかりませんが、たしか当時ご両親がアメリカで自営業者として働いていたはず。帰任命令がある企業に属していた訳ではないので、日本に帰国する理由も特になく、今現在もそのままアメリカで暮らしているのかもしれません。

こういう人生を送る人々は日本にもたくさんいます。一般的なイメージの「外国人」とは異なり、居住国の言語で会話をし、社会的ルールをちゃんと理解して生活している人々です。しかし、「外国人」という呼び方で区別される場面が少なくないようです。

2024年になってすぐ話題になったミス日本グランプリの女性、日本以外にもルーツを持つアスリートが日本代表として活躍する姿。国籍がなんであれ、自分が暮らす土地を選らんで一緒に生活してくれる「外国につながる人々」は、私は大歓迎です。

国際結婚の話

本書を読み進めるうちに新たな視点を得たと思ったのは、第11章「国際結婚とコミュニケーション」です。

 ここまで配偶者の出身文化圏別に夫婦間コミュニケーションにおける言語選択の問題を論じたが、そこには共通点がみられた。それは、配偶者の出身文化圏と関係なく、日本人の国際結婚夫婦では、妻が夫の言語を夫婦間のコミュニケーション言語として選択する、或いは選択させられるケースが多いという点である。

引用元:大橋理枝、根橋玲子『多文化共生のコミュニケーション(放送大学教材)』(放送大学教育振興会)

内閣府男女共同参画局の発表資料によると、日本人男性の国際結婚の相手は、アジア諸国の女性が多いようです。一方、日本人女性の国際結婚の相手は、アジア諸国だけでなく米国やその他の国が多く、日本人男性の場合と比べて配偶者の出身国多様性があるとのこと。

夫婦それぞれの事情があるのでしょうけれど、日本人男性と国際結婚した妻は日本語で、日本人女性と結婚した夫は母国語(特に英語)で家庭内で会話するという傾向があるようです。

私は国際結婚を考えたことはこれまでありませんが、仮に欧米圏の男性と結婚するならば英語を夫婦の公用語として用いるだろうなと感じました。なぜって、自分自身も英語のコミュニケーション能力を伸ばしたいからです。

とはいえ、夫の母国語を用いることを当然とされて、自分自身で家庭内言語を選択できない場合はすごく辛いだろうなと思いました。

実際、ある日本人男性とアジア人女性の夫婦は1年で婚姻解消となったという話を伺ったことがあります。たしか、その女性は大学院卒で多国籍企業勤務、というご経歴。

日本以外のアジア圏出身の女性が日本で住む場合には、どんなに知性が高く聡明で英語が堪能であっても、日本の公用語である日本語を使いこなせなければなりません。よって、日本語学校に通って日本語を学んだようです。

しかし、日本語学校に通うならば、仕事を辞めるか仕事量をセーブしなければなりません。夫よりも経済的に明らかに劣位な立場となったうえ、不慣れな日本語で交わす地域住民とのコミュニケーションで悩み、孤独を感じることも増え、離婚に至ったということでした。

これから国際結婚はますます増えていくでしょう。一般市民として支援できることを考えていきたいですね。

関連書籍

  • 社会応援ネットワーク『図解でわかる 14歳からのLGBTQ+』(太田出版):本記事では紙幅の都合で省略しました。性的少数者の人権についての話題は今後も重要テーマとなるものと考えています。基礎知識を得たい方は、まずはこちらをお読みいただければと。

  • 李永淑(編集)『モヤモヤのボランティア学: 私・他者・社会の交差点に立つアクティブラーニング』(昭和堂):国際協力を含むボランティア活動について考える一冊です。別記事でも紹介していますので、宜しければお読みください。

  • 中井延美『必携! 日本語ボランティアの基礎知識』(大修館書店):外国につながる人々が増えていくなかで、どのような支援ができるか?を考える一冊。日本語の難しさにも気づかされます。別記事でも紹介していますので、宜しければお読みください。

  • 綿野恵太『「差別はいけない」とみんないうけれど。』(平凡社):「差別」に対する反対運動について、当事者以外の人間が声を上げることについて政治的・経済的・社会的な背景から迫り、差別・反差別の本質を明らかにしようとする一冊です。良質な評論を求める方に絶賛オススメです。記事にしましたので宜しければご覧ください。

  • 下村英雄『社会正義のキャリア支援: 個人の支援から個を取り巻く社会に広がる支援へ』(図書文化社):キャリア・コンサルタント必読の一冊。日本ではあまり社会正義(Social Justice)という言葉を耳にすることはありませんが、諸外国ではだいぶ浸透している用語のようです。記事にしましたので宜しければご覧ください。

最後までお読みいただき有り難うございました!


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