2020年のコロナ禍を過ぎ、2025年にはついに史上最高値の日経平均株価を塗り替えながらも、円安が進むニッポン。物価上昇や住宅ローンの金利上昇が顕著ななかで、賃金の目立った変化を感じずにいるという方も少なくないことでしょう。
これからの日本経済は一体どうなっていくのでしょうか。未来へのヒントを探るため、今回は労働市場の分析を専門とする坂本貴志氏による『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』をご紹介します。
こんな方にオススメ
- 少子高齢化が日本経済に与える影響が気になる方
- 働き方改革、働きたい改革に関心がある方
- 労働市場の変化から今後の経済の見通しを立てたい方
人口減少経済
さて、本書のタイトルは『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』です。この書名だけだとちょっとピンと来ないな、と思う方もいらっしゃるかもしれません。
本書は一貫して、日本の人口減少の観点から労働市場の需給変化や賃金動向、人びとの働き方や現場の生産性の変化に注目しながら、日本経済の行く末を考えていく構成となっております。
そう、キーワードは「人口減少経済」です。
近年において、日本経済の構造が変わり始めているのはなぜだろうか。これには日本の人口が減少局面に入ったことが関連していると考えられる。
引用元:坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(講談社)
これまで世界の人口が長期的に増加を続けていた事実からもわかるように、近代の世界経済を振り返れば、経済というものは基本的には人口が増加している状態のもとでそれと並行して成長をしていくものだという暗黙の前提があったといえる。しかし、日本の人口はいままさに調整局面から減少局面へと移行しつつある。そうであれば、人口減少とともに歩むこれからの日本経済の構造はこれまでのそれとは異なるものになる可能性が高い。近代で日本のような大きな経済規模を有する国において、人口が持続的に減少した事例はほかに類を見ない。そう考えれば、人口減少が経済にどのような構造変化を及ぼすのかということは、これまで必ずしも自明ではなかったと考えられる。
大きく分けて三部構成です。
はじめに
プロローグーー人手不足の先端を走る地方中小企業の実情
第1部 人口減少経済「10の変化」
第2部 機械化と自動化
ーー少ない人手で効率よく生産するために
第3部 人口減少経済「8つの未来予測」
第1部から第3部では著者の分析が光っていました。本編だけでなく、地方の中小企業へのインタビューが収録されているプロローグもなかなか興味深く、読ませる内容となっています。
ここでは、人口減少もさることながら需要は想定よりも落ちていない現状、一方で、供給としての人手の減少が著しいために事業継続が困難となっている実情が垣間見えるのです。地方ほど人口流入の増加が見込めないがために、厳しい状況下にある状況が浮かび上がってきます。
経営者の話から、地方経済において、経済の局面は明らかに変わってきている様子がうかがえる。少子高齢化による影響に都心への人口流出なども相まって、地方経済においては若い労働力が急速に減少している。一方で、過去の予想に反してサービスに関する需要は堅調を維持している。その結果として労働市場の需給はひっ迫し、人手不足が深刻化しているのである。
引用元:坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(講談社)
日本の労働者の総労働時間は減少傾向にある
2025年、高市内閣は「働きたい改革」を推進する方針を打ち出しています。ここで参考にしたいのが、本書で示されている労働者の総労働時間と実質生産性の推移です。
先のグラフでは主要国の実質GDP成長率のほか、総労働時間数と時間当たり実質労働生産性の成長率も掲載している。日本の労働者の1時間当たりの労働生産性は、2000年から2010年の間は年率1.1%の伸び、直近の2010年から2021年までの間は年率で0.9%の伸びとなっている。(中略)この結果を見ると、日本の労働生産性は主要先進国と比較してもわりと堅調に上昇しており、日本経済の低迷の元凶が必ずしも労働生産性の低迷にあるわけではないことがわかる。
引用元:坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(講談社)
(中略)
日本の経済成長率が他国と比べて低い原因について、労働生産性の低迷が原因ではないということは、裏を返せばその主因には総労働時間数の減少があるということが理解できる。他国と比較すればこの10年あまりで労働力が減少したのは日本だけであり、労働投入量はこの10年ほどで0.3%減と他国と大きく乖離した数値となっている。
すでに女性や高齢者の労働参加は頭打ち状態であり、今後は労働時間数の大幅な増加は見込めないと考えられています。諸外国と異なり総労働時間が減少していくことが予想される日本。この対策として、「働きたい改革」があるのでしょう。
私自身は働きすぎで何度か体調を崩した経験があるため、「働きたい改革」という言葉を聞くと身体に警戒感と緊張が走ります。しかし、この実情を知ってしまった以上、現状と今後の展望に考えを巡らさずに自身の直感を貫こうとする姿勢は、身勝手なような気がしています。うーん、国会内での議論を注視していかねばなりません。
労働生産性は今後高まるのか?
日本経済が人口減少局面を迎える中、一人ひとりの生活者がいまよりも豊かな暮らしを送ることができるかどうかは、物価や名目賃金の行方ではなく、あくまで生産性が上昇するかどうかで決まる。
引用元:坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(講談社)
どんなに人口が減っても、高齢化が進む限り医療・介護職の需要も減ることはありません。エッセンシャルワーカーと呼ばれる仕事も、essencial(不可欠)なだけに需要が大幅ダウンすることは無いでしょう。
本書では、建設、運輸、販売、接客・調理、医療、介護の各業界の実態について、企業へのヒアリングを通して実例が示されます。どの企業もかなり興味深い工夫をしていますが、ここでは最も印象に残った接客・調理から老舗旅館の例を挙げます。
神奈川県秦野市の「陣屋」は、将棋・囲碁のタイトル戦の舞台としても知られる老舗旅館。大正時代に創業した名門旅館だが、2000年代に一時経営の存続が危ぶまれる状況を経験している。大手自動車メーカーの技術者だった宮﨑富夫氏が2009年に倒産寸前だった旅館の経営を親から引き継ぐと、旅館管理システム「陣屋コネクト」を開発し導入、妻で女将の知子氏とIoTの活用や従業員の働き方の見直しも同時に進め、約3年で経営を立て直した。
引用元:坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』(講談社)
詳細は本書に譲るとして、こちらの企業ではかなりの改革を行い生産性を向上させた結果、旅館という業態ながら週休3日を実現しています。しかも、自社で開発したシステムをクラウド型旅館・ホテル管理システム「陣屋コネクト」として外販するにまで至っており、「本当にすごいな!」と思うばかり。
↓「陣屋」の公式サイトはこちらです。ドラマに出てきそうな古風で素敵なお部屋ばかりで、惚れ惚れしてしまう…!!
生産性を高めることには工夫が必要ですし痛みも伴うわけですが、多くの企業においてはまだまだ改善の余地があるのだと考えられます。これまで日本の生産性は諸外国と比較しても堅調に上昇してきたというエビデンスからは、潜在的可能性が示されているようにも思えます。
おそらく、事務職に代表されるホワイトカラーは生成AIの登場で人員削減が今後さらに進むはずです。技術の進歩で仕事が奪われるという不安は払拭できないものの、すでに人不足が深刻化している日本では、特にエッセンシャルワーカーの仕事における生産性の向上が急務となってくることでしょう。
関連書籍
- 坂本貴志『ほんとうの定年後 「小さな仕事」が日本社会を救う』(講談社):今回ご紹介した本の著者から一冊。こちらは「定年後の仕事」というテーマでデータの分析結果を示しつつ、提案がなされています。定年を間近に控えた方には特に参考になる部分が多いことでしょう。
- 中原淳、パーソル総合研究所『残業学』(光文社):なぜ残業が減らないのか? 残業代の削減で家計は維持できるのか? 残業を学問として捉え、一冊の本にしたのがこの「残業学」。変化の多い時代では、無駄な残業を省いて効率化し、業務外でも日々成長していく仕事観が一般的になるはず…世の中の「働き方改革」という言葉は一過性のものではないということを気付かせてくれる一冊です。
- 冨山和彦『ホワイトカラー消滅: 私たちは働き方をどう変えるべきか』(NHK出版):人手不足なのに、なぜ人が余るのか? ホワイトカラーの労働者にとっては、なかなか挑戦的な書名タイトルです。しかし、生成AIの進展とともに、ホワイトカラーが消滅する世界を多くの人びとが予感していることはまず間違いないでしょう。
最後までお読みいただき有り難うございました!
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